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ぷ り × あ き
―――放課後の教室は、いつもより静かだった。
窓の外はオレンジ色で、部活の声も遠くに聞こえるだけ。
教室に残っているのは、俺とあっきぃだけだった。
「なあ、今日さ」
何でもないふうに声をかける。
本当は、何でもなくなんてなかった。
「んー?」
机に頬杖をついたまま、あっきぃがこっちを見る。
その顔を見た瞬間、言おうとしていた言葉が喉に引っかかった。
——好きだ、って。
ずっと前から思ってた。
でも、それを言ったら終わる気がしてた。
この距離も、くだらない会話も、帰り道を”隣”で一緒に歩くのも。
全部が壊れる気がした。
「……なんでもない」
結局、いつも通りに逃げる。
「あ、またそれ?! 最近多くない?!」
「気のせいやろ」
そう返して、立ち上がる。
「帰るか」
「あ、待ってよ〜!!」
カバンを掴んだあっきぃが、慌てて俺の後を追う。
―――いつもの帰り道。
並んで歩くこの時間が、好きだった。
沈黙があっても気まずくならない距離。
言葉にしなくても通じる気がする関係。
——これでいい、って思ってた。
思い込もうとしてた。
「ねえ‥。」
今度は、あっきぃが声をかけてくる。
「ん?」
「もしさ…」
言葉が途切れる。
「……やっぱいいや、」
どこかで聞いたような台詞。
思わず笑ってしまう。
「なんやそれ」
「そっちこそ、いつも言ってるじゃん!!」
そう言って、あっきぃも笑った。
その笑顔を見て、少しだけ安心する。
やっぱり、この関係がいい。
壊れない、この距離が。
しばらく歩いて、分かれ道に着く。
「じゃあな」
いつも通りの一言。
「うん、また明日」
いつも通りの返事。
―――でも、心の奥で何かが引っかかる。
このままで、本当にいいのかって。
「……なあ」
気づけば、呼び止めていた―――。
あっきぃが振り返る。
夕焼けの中で、その顔が少しだけ遠く見えた。
今なら、言えるかもしれない。
全部、変わるとしても。
それでも——
口を開く。
―――けど。
「……ちゃんと帰れよ」
出てきたのは、そんな言葉だった。
一瞬、あっきぃがきょとんとして、
それから小さく笑った。
「そんな、子どもじゃないから!」
「知ってる。」
笑いながら返す。
結局、何も言えなかった。
―――でも、それでよかった気もした。
「じゃあな」
「うん!!」
今度こそ背を向ける。
数歩歩いたところで、
「……ねえ!」
後ろから声が飛んできた。
振り返る。
あいつが、少しだけ息を切らして立っていた。
「なんだよ」
「あのねっ――!」
珍しく言葉に詰まってる。
「気をつけて帰れよ!って!!!」
一瞬、間があって。
「お前もな」
それだけ言って、そっぽを向く。
思わず、笑ってしまう。
「なにそれ!」
「いいやろ別に、、」
ぶっきらぼうに返される。
でも、その耳が少し赤いのに気づく。
たぶん、気のせいだ。
そう思うことにする。
「じゃあな」
「うん、また明日!!」
今度こそ、本当に別れる。
振り返らない。
振り返ったら、たぶん全部言ってしまうから。
ポケットに突っ込んだ手を、ぎゅっと握る。
言えなかった言葉が、胸の中で重く沈む。
——壊したくなかったから。
それだけで、全部を納得させる。
でも本当は、少しだけ分かってる。
同じように言いかけて、やめるあいつのことも。
同じように、何かを隠してる気がすることも。
それでも確かめる勇気はなかった。
―――夕焼けが、ゆっくりと夜に変わっていく。
その境目みたいに。
俺たちの関係も、どこにも進めないまま、止まっている。
——それでも明日、また隣で笑う。
たぶん、何も知らないまま――――。
| 終 |
コメント
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下手やないやん!