テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
付き合い始めて、一週間。
康二は仕事中、ふとスマホを見る。
通知はない。
……と思った瞬間。
翔太:今日終わるの遅い
思わず笑ってしまう。
康二:お疲れさん。何時くらい?
翔太:たぶん22時過ぎ
康二:そっかぁ。大変やな
少しして、
翔太:でも康二からLINE来たから頑張れる
「……もう」
康二はスマホを伏せた。
付き合い始めてから、翔太はこういうことを平気で言うようになった。
今までは必要最低限の連絡だけだったのに。
最近は、
「康二ー」
と何かある度に呼ばれる。
それだけでも、少し嬉しい。
*
その日の夜。
仕事を終えた康二が駅へ向かっていると、スマホが震えた。
翔太:今、駅いる?
康二:いるよ
翔太:俺も近くにいる
「え?」
周りを見る。
少し離れたところに、帽子とマスクで顔を隠した翔太が立っていた。
康二が近づくと、翔太が小さく手を振る。
「びっくりした?」
「びっくりしたよ!」
「ごめん笑」
「急に来るからやん」
「ちょっとだけ会いたくなって」
その言葉に、康二は何も言えなくなる。
「……ちょっとだけ?」
「うん」
「ほんま?」
「……結構」
「ふふ」
二人で笑う。
でも、駅には人が多い。
翔太が周りを確認する。
「ここ、ちょっと危ないな」
「うん」
「少し歩こう」
二人は人通りの少ない道へ移動した。
*
並んで歩く。
でも、手は繋がない。
恋人なのに。
その距離が、少しだけもどかしい。
康二が何気なく翔太を見る。
翔太もこちらを見ていた。
「……何?」
「いや」
「何よ笑」
「康二、今日かわいいなって」
「……急に言うなや」
「本当のことだから」
「知らんし」
康二が前を向く。
翔太は楽しそうに笑った。
「照れてる?」
「照れてへん」
「関西弁出てる」
「……もう!」
二人で笑う。
そのとき。
前から人が歩いてきた。
翔太が自然に一歩離れる。
さっきまで近かった距離が、一瞬で開く。
その瞬間、康二は気づいた。
――これが、秘密の恋なんだ。
好きな人なのに。
堂々と隣を歩くことができない。
手を繋ぐこともできない。
「恋人です」と言うこともできない。
少しだけ寂しくなる。
すると翔太が、小さな声で言った。
「……ごめん」
「え?」
「こういうの」
翔太は前を向いたまま続ける。
「付き合ったのに、普通のカップルみたいにできなくて」
康二は首を横に振る。
「ええよ」
「でも――」
「翔太」
康二は笑った。
「俺、翔太が好きやから」
翔太がこちらを見る。
「それだけで十分やで」
少しの沈黙。
そして翔太が笑った。
「……ほんと、康二には敵わない」
「何それ笑」
「好きってこと」
「……それ、ずるいやん」
二人で笑う。
そして駅に戻る前。
翔太が小さな声で言った。
「じゃあ、今日はこれで帰ろ」
「うん」
「また連絡する」
「うん」
数歩進んでから、翔太が振り返る。
「康二」
「ん?」
「おやすみ」
「……おやすみ、翔太」
人混みの中。
ほんの数秒だけ目を合わせて。
二人は別々の方向へ歩いていった。
誰にも知られないまま。
でも、確かに恋人として。
はんぎょ
61
MIの部屋
7,886
#ふかこじ
MIの部屋
3,241
3,387
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!