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《追跡開始。対象を捕捉》
背後で、冷たい音声が響いた。
「…来たな。」
さっきまで静まり返っていた街が、一瞬で“動いた”。
信号が、俺たちの進行方向だけ赤に変わる。
通路のシャッターが、音もなく降り始めた。
「うわ、道が塞がれてく!」
「そらそうや。この街、逃げれる前提で作られてへんからな。」
リリの声は、やけに楽しそうだ。
「右や! そのまま直進したら詰むで!」
「了解!」
俺は、人の流れを無視して走った。
周囲の人間は、誰一人叫ばない。
ただ、俺たちを避けるように、完璧な角度で道を空ける。
それが、逆に怖い。
《対象、異常速度を検知》
《安全行動に戻ってください》
「誰が戻るか!」
路地に飛び込む。
足音が、やたら大きく響く。
「はぁ、はぁ…」
「息荒すぎや。この街やと、それだけで居場所バレる。」
「無理言うな!」
突然、前方にドローン型のAIが現れた。
赤いセンサーが、俺を捉える。
《停止命令――》
「はい残念。」
リリの声と同時に、ドローンの映像が一瞬乱れ、そのまま壁に激突した。
「今の、何した!?」
「カメラに“お笑い番組のノイズ”挟んだ。」
「意味わかんねぇ!」
「予測不能なもん、この街は一番苦手なんや。」
角を曲がる。
だが、そこにもAI。
「多すぎだろ!」
「せやから、下行こ。」
「下?」
「地面ばっか見とる街や。下は、見てへん。」
足元の点検用ハッチが、カチリと開く。
「いつの間に!」
「開けた。」
即答だった。
俺は迷わず飛び込む。
直後、背後で金属音。
《対象、ロスト》
追跡音声が、少し遠ざかった。
暗い通路。
配線だらけで、埃っぽい。
「…はぁ…助かった…」
「まだや。」
リリの声が、少しだけ低くなる。
「完全に逃げ切るまでは走るで。」
遠くで、また別の警告音が鳴った。
街は、俺たちを諦めていない。
最適化された街。
感情を許さない世界。
そこから全力で逃げるこの瞬間が、俺にとって、初めて“生きてる”感じがした。
「ほら、もう一段ギア上げるで!」
「言うと思った!」
俺たちは、街の影へと、さらに深く逃げ込んだ。