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【有紗side】
『あなたのやってきたことの数々を訴えることだってできます』
意味分からない。
私の何がいけないの?
自分のやったことを振り返れ?
振り返ったって里子にとっていいことしかしてないつーの。
鈍くさい彼女を私がイジってあげることで、周りがドッと盛り上がる。
里子だって鈍くさい人って思われるよりもイジられることで周りが笑ってくれる方が、自分の鈍くささが緩和されていいはずだ。
私がいじったことでみんなは里子を見て笑う。
みんなをこうやって笑わせることは里子にしか出来ないことで、それって特権じゃん?
私が里子のことを引き立ててあげてるのに。
なんであんなこと言うのかさっぱり分からない。
あの竹内ってやつ!
何が訴えることは出来るって?
いじりは信頼関係があるから成り立つ?
それなら成り立ってるじゃん。
私たちは高校来の親友だ。この会社にいる誰よりも里子のことを知っているし、里子といた時間も長い。
私たちの信頼関係はきちんとできている。
あいつが変なこと吹き込むからこうなったんでしょ?
竹内っていう真面目男、盛り上がってる雰囲気を平気で壊して全然空気読めてない。
顔はいいと思ったけど、あんなのがモテるなんて世も末だわ。
あーつまんない。
最近ストレス溜まりすぎ。
「なんか、いいことないかな~……あっ、いいこと思いついちゃった!」
親友のために、私が目を覚まさせてあげよう。
「ふふっ」
次の日──。
私はある画像をスマホのデーターに保存して、里子に話しかけた。
「ねぇ、里子……ちょっと聞いてほしい話があって……」
「何?」
警戒したような表情。
ふん、何よ、ツンっとしちゃって。
昔は陰キャ代表みたいにちょっとオドオドして可愛かったのに。
そういう態度とってれば強く入れると思ってるの?
里子のクセに、生意気。
「ここだとちょっと」
まぁいいわ。
これで里子の目も覚めて、自分の立場を自覚するでしょう?
私は演技をしながら里子を人のいないところへ連れ出した。
「あのね、言いにくいんだけど……竹内さんって、ちょっと女癖が悪いみたいで……」
「えっ」
私はそう言うとスマホの写真を見せた。
「これ、竹内さんと……女性?」
「そうそう、なんか色んな人に声掛けてるらしいよ」
これは私が清水さんからもらった写真をコラージュして作ったもの。
我ながら完成度が高くてパッと見るくらいなら気づかないだろう。
「あと清水さんも言ってて……結構女癖悪いから気を付けなって」
「……っ」
ふふ、ショック受けてる。
あー面白い。
あんななんかにいい人が出来るわけないんだからさぁ。
そろそろ自覚しなよ。
「里子は私にとって大事な友達だからさ、すぐに伝えないとって思って……これも言いにくいんだけど、実は私もラインで食事に行かないかって誘われていたの」
落ち込んだフリをする。
これでもう完璧。
「だから里子に優しくしたりするのも、あの人の作戦なんだよ」
「そう、なのかな……」
「そうだって!本当、里子は男運ないよね~でも私が里子に合う人探してあげるから、あんな人やめておきなよ」
ここまで言ったら諦めるでしょ?
しかし、里子は驚くことを言い出した。
「悪いけど、有紗のことは信じられないから竹内さんと直接話してみる」
「はぁ!?友達の私が言ってるのに信じられないって何?里子さぁ好きな人出来ると男に溺れるタイプ?周りも見えなくなってるじゃん」
「そうじゃないの」
里子は淡々という。
「何がそうじゃないのよ」
「私がまだ有紗のこと友達だって思ってると思う?」
「はぁ!?」
コイツ、何言ってんの!?
高校時代からの友達に向かって。
「私は完全に有紗に対する信頼を失ってるから、今は友達って思ってないよ」
「なっ……」
「里子と竹内さんだったら、私は竹内さんを信じる」
ハッキリと言い放った彼女に私はカチンときて言った。
「だからそれが溺れてるっていうんでしょ!」
「それなら、相手が竹内さんじゃなくても、きっと有紗よりもその人を信じると思う」
あり得ない。
どういうつもりでそんなこと言うわけ?
「……っ!何が言いたいの?」
「信頼無くすこと自分でしてるよね?」
「はぁ!?里子のクセに生意気!ムカつくんだけど」
すると里子は表情を変えずに言う。
「もう話は終わり?」
「チッ……」
ムカつく。
私は舌打ちをすると、彼女にドンっとぶつかって、そのままオフィスに戻った。
里子は男を優先するタイプね。
本当いるよね、好きになったら友達とかどうでも良くなって男中心の生活になるやつ。
いい年して男に溺れるとか恥ずかしい~。
連絡してやろ。
高校時代のメンバーがいるグループにメッセージを打つ。
【里子、いい人が出来たからって媚売っててウケる】
【ああいうタイプって男出来ると変わるよね】
加奈子や亜美からの返信を待つが、しばらく経っても返事が返ってくることはなかった。
「来ない」
メッセージは2人とも既読になっているのに。
「……チッ、あいつら」
都合のいい時ばかり返信しやがって。
ご飯だって私が誘ってもきやしない。
今回里子がおごるからって言ったらやっときたけど、それっきりだ。
加奈子と亜美はよく2人で遊んでいる写真をSNSにあげてるのに。
里子が呼ばれないのは分かるけど、なんで私も呼ばれないのよ!
はぁ、今日は本当にイライラする!
里子に仕事押しつけて上がろう。
この日、私は里子の机にやって欲しい仕事のメモを貼り付けて帰宅した。
こうやって置いておけば、里子やるでしょ?
里子は頼まれたら断れない性格だから。
さ、里子が帰ってくる前に帰ろう。
私はカバンを持つと、すぐにオフィスを出た。
あーあ。
最近の里子は生意気でかわいくない。
高校の頃は私の言ったことにすぐノッて来て、面白いし素直だったのに。
大人になって私たちと離れてから地味になっちゃってかわいそう。
駅までの道のりを歩いていると、すぐ目の前に清水さんがいた。
正直清水さんはタイプではないけれど、何か情報ないか探るか……。
「清水さぁん!」
私が肩をポンっと叩くと、清水さんは浮かない顔をした。
「あ、有紗ちゃん……」
「この間はお食事会ありがとうございました!本当楽しかったですよねぇ、またすぐにでもやりましょうね」
「う、うん。そうだね……」
えっ、なんか反応悪くない?
私が誘ってあげてるのに。
……あ、もしかして里子の件のやつか!
あれ最初に見たら引いてもおかしくないよね。
ここは友人として私が謝っておこう。
「あっ、そういえばこの間は里子がすみませんでした~」
「えっ」
「ほら、大きな声じゃ言えないですけどゴム落としていったじゃないですかぁ……正直私も引いたっていうか、でもあの後ちゃんとああいうのは品がないからやめなって注意しておきましたから大丈夫ですよ」
「ああ、それ……ね」
清水さんはそっぽを向きながら答える。
「えっと、竹内から聞いたというか……あれやったの有紗ちゃんなんだって」
「えっ……」
里子のやつ、竹内さんにバラしたな……!
チッ。
盛り上がってないから遊んであげただけなのに、人の恩を仇で返してきて……。
「や、やだなぁ~勘違いですよぉ〜たぶん里子が恥ずかしいからって私がやったことにしたんだと思います」
演技してそう言ったが、清水さんの気まずそうな顔は晴れなかった。
「そ、そうだったんだ……じ、じゃあ俺急いでるから行くね」
まるで私の話は信じていません、みたいな顔をして逃げるように去っていった。
なんなの……。
こっちがわざわざ話しかけてあげてるのに。
それならいいわよ。
あんな男と話してるだけで時間がもったいないし!
にしても里子のやつ、本当にイライラするわ。
人のこと蹴落としやがって……。
私がいないと何にも出来ない癖に。
「はぁ、もう!」
何かすっきりすることないかな。
里子のこと見て思いっきり笑いたい。
最近はノッて来ないから嫌でものらざる得ないものがいい。
「そうだ!」
私は考えた末、彼女が嫌がることを思いついた。
これで里子も無視は出来ないでしょ。
日頃のイライラを晴らしてやる。
それから2週間が経った。
時間がかかってしまったけど、ようやく出来たものがある。
ふふっ、見てなさいよ。
これで里子も私のすること無視出来ないはずだから。
私は会社に行くと、カバンの中からあるものを取り出した。
これを見てずっと無視するなんて出来るはずがない。
どんな反応するだろう。
二ヤけちゃう。
私はそれを持って、すでに出勤している人に持ってきたものを配った。
「これ、良かったら使ってください」
そう、私が持ってきたものは、里子の高校時代の写真を使って作ったメモ帳。
メモ帳なら会社でも使えるし、面白いし最高じゃない?
私は色んな人に配って歩きまわる。
「ん、これ何?」
最初はみんな何か分からないようだったけれど「よく見てください」というと、これが里子であることに気づいたようだった。
そして部長もオフィスに入ってくる。
「あ、部長~いいものプレゼントします」
そう言ってメモ帳を渡す。
すると、「これは?」と聞いてきた。
「よく見てください、里子の写真でメモ帳作ったんですぅ」
部長はそのメモ帳を見て笑ってくれた。
「センスがいいなぁ~これは仕事中に使わせてもらうよ」
部長やっぱりノリがいい~!
「たくさん使ってくださいね」
笑顔で言うと、本命の里子が何も知らずに会社にやってきた。
ふふっ、見てなさいよ。
すると、みんながざわざわしていることに何か勘づいたようだった。
私は彼女の元に駆け寄っていく。
「はい、里子。これプレゼントだよ」
そして例のメモ帳を里子にもプレゼントしてあげた。
「なに、これ……」
「メモ帳、作ったの」
「どうして私の昔の写真……」
「これでみんなに見てもらえるでしょ?会社でも使えるし~でも笑っちゃって集中出来ないかも~~」
そうやってお茶らけて言うと、彼女はうつむいた。
「ちょっと~ノーコメント?何か盛り上げてよ」
私の言葉に里子は黙ったままだ。
すると、社内がざわつき始めた。
「えっ、安藤さん知らない感じだったよね?」
「許可取って作ったんじゃないってこと……?」
「それはちょっとヒドすぎない?」
ざわざわと社内にいる人たちの声が聞こえてくる。
えっ、なんか私……悪者みたいになってる?
「ちょっ、里子が何も言わないから雰囲気悪いじゃん!」
バシっと肩を叩いても彼女は反応しなかった。
周りから白い目で見られる。
なんで何も言わないわけ!?
すると三浦さんが私の元にやってきた。
「これをやったのは、岡本さんかしら?」
「え、ええ……そうですが……」
「今すぐ回収なさい」
「えっ」
「すべて今すぐに回収して」
なんでそんな顔して怒ってるの?
意味分からない。
「ちょっ、里子……ちゃんとノッってよ」
私の言葉に三浦さんは強い口調で言う。
「彼女が傷ついていること、分からない?」
「そ、それは……」
厳しい剣幕で怒る三浦さんに何も言うことが出来ず、私はその場でそれを回収することとなった。
何よ……私が公開処刑されたみたいじゃない。
里子が何も反応しないから。
面白いことしないから私が怒られて……こんなの理不尽すぎる。
私はモヤモヤが溜まったまま、その日仕事を続けた。
居心地が悪く、みんなから噂されてみるみたいで本当に最悪の空気だった。
「岡本クン」
「はい」
そして仕事のケリをつけて終わらせようと思っていた時、部長から呼び出しをされた。
なんだろう。
そう思っていると、部長は言った。
「前任せておいた大東商事の企画書はどうなってる?届かないと先方から言われていてね」
「あっ……!」
里子に押し付けておいた仕事だ……。
「確認しますので、お待ちください」
そう言ってオフィスに戻ると、すぐに里子に聞く。
「ねぇ、前私が付箋して仕事お願いしてたやつってどうなってるの?」
すると彼女は淡々と答えた。
「やってないけど」
「……はぁ?ここに付箋張ってお願いしておいたよね?なんでやらないわけ?」
「自分の仕事は自分でやるものでしょ?」
「だったら一言ぐらい言ってよ!」
「一言も無しに手紙だけで押し付けておいて?」
「……っ!」
彼女の言葉にかっと血が上るのが分かった。
なんなの!なんなの!
最近の里子、本当にムカつく!
しかし、誰も仕事をやってない以上すぐにやるしかない。
私は急いで部長室に行き謝罪をしにいった。
それからクライアントへの謝罪、今日中に仕上げるという言葉を伝えなんとか許してもらうことが出来た。
私の評価も下がるし、深夜まで残業しないといけないしで本当に最悪な日だった。
これも全部里子のせい。
せっかく作ったメモ帳も無駄になるし……!
お金と時間の無駄になっただけじゃない!
「はぁ……もう!」
クタクタになりながら、暗い道を帰宅していると今度は三浦さんから電話がかかってきた。
こんな時間に何よ!
私はイライラしながらも電話に出る。
「はい」
「三浦です。遅い時間にごめんなさいね」
「何かありましたか?」
正直疲れていて早く切りたかった。
「今日忙しそうだったから直接伝えられなかったんだけど……安藤さんのことで」
里子のこと?
三浦さんももしかして言い過ぎたって思った感じ?
じゃなきゃわざわざ電話してこないよね?
「三浦さんも思いました?最近里子ったらノリ悪くて社内の人とコミュニケーションとるつもりないですよね!?」
「そうじゃなくてね……きちんと謝罪した?」
「えっ」
「直接本人に謝った方がいいと思うの」
でた、また説教?
三浦さんはこっち側だと思ってたのに、正直全然面白くない。
あーーもう、なんでこんな人ばっかりかな?
「分かりました、里子には謝罪しておきますんで~」
ここはもうことを荒げないように流しておこう。
なんでこんなに私の笑いに付き合えない人ばっかりなのかな?
本当この会社、レベル低すぎでしょ。
私はそのまま三浦さんとの電話を切った。
謝るわけないじゃん。
今日の空気悪くして里子の方が謝ってほしいくらいだつーのに。
私が構わなかったら友達だっていない癖に。
地味な里子の癖に。
「本当ウザ……」
私は小さくつぶやいた。
里子と一番仲の良かったのは私だった。
高校の時から、ちょっと鈍くさい彼女に話しかけてあげて友達になってあげたんだ。
それだけでも里子にとっては嬉しいはずなのに、私が彼女の魅力を引き出してあげた。
鈍くさい部分をカバーして笑いに変えて、場を盛り上げてあげる。
こんなことまでしてくれる友達だよ?嬉しくないわけがない。
里子のことは一番私が知ってる。
私が一番かわいがって来た。
それなのに……こんな仕打ちおかしいでしょ?
絶対に謝らない。
里子がいつか気づいて逆に謝ってくるまで、私許さないから。
でも謝ってきたら許してあげる。
だって友達だからね?