テラーノベル
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「こ、こんな妖がこの都にいたのか……」
「体が透き通っていたと聞いたぞ」
「人に被害が出る前に倒せて良かった」
透明な巨大ヘビを倒し、色が戻った死骸を見に、
天人族の里の人々が野次馬として集まる。
一体を倒した後、ミナトさんと一緒に念のため
各水路を回り―――
気付かれないように透明の無効化をしながら
確認。
幸い、あの1匹しか巨大ヘビはいなかった
ようで、安全宣言を出してもらい、事態は
落ち着いた。
「かかる妖を討伐・排除して頂き……
シン殿をお呼びしたのはやはり間違って
いなかったと改めて思いました。
長がお呼びです。
ぜひともこちらへ―――え?」
黒髪ショートの女性が山伏のような格好で、
私たちを呼びに来たが、
「これ、食べられるかなあ?」
「ヘビ毒だから、飲食は問題無いと思うけど」
「肉の部分だけ焼いてみたらどうじゃ?」
ちょうどその時、私たちは討伐した獲物を前に、
どう調理するかで話し合っていて、
「あの、シン殿?」
「あ、ミナトさん。
天人族って、ヘビは大丈夫ですか?」
私の言葉に彼女はいったん死骸に目をやった後、
ブンブンと首を左右に振った。
「此度はご苦労であった。
シン殿、メル殿、アルテリーゼ殿……
里の者に代わって御礼申し上げる」
アラフィフくらいの天人族の男性が、私たちに
向かって深々と頭を下げる。
里に来た時もそうだが―――
まるで平安時代の宮中のような建物の中、
別の意味で異世界に来たのかと錯覚する
ほどで……
「あの宴に出して頂いた料理も極上であった。
聞けば―――
鬼人族由来の料理もあったそうだな?」
「はい。ソバやウドンなどはまさにそれです」
私に続いて、アジアンチックな妻と、対照的に
欧米風の顔立ちと体をした妻が、
「お餅やお汁粉なんかもそうですよー」
「海苔や、食後のデザートに出た寒天なども
そうじゃのう」
その説明にうんうんと長はうなずいて、
「うむ。そのどれもが美味であった。
先祖の言い伝えで鬼人族の記述があったから、
警戒しておったのじゃが……
取り越し苦労とはこの事よ」
「それでは―――」
同席していたミナトさんが顔を上げると、
「天人族としては友好を深めていきたい。
そちらとも鬼人族とも、な」
こうしてトップから交流の許可が下り、
私たちは『役目』を果たしたのだった。
「皆様、お疲れ様でした」
ミナトさんが私たち家族に頭を下げる。
「いえ、ミナトさんこそ―――
それに、本当の仕事はこれからですから」
私は妻二人と都を歩きながら答える。
交流許可が出た事については正直ホッと
しているが……
何を交易するのかは、これから話し合わなくては
ならないのだ。
「今回持って来たものの中で、一部調味料を
抜かしてはほぼ無制限に取り引き出来るの
ですが」
「あー、胡椒とかはダメなんだっけ」
「あれは鬼人族のものだしのう」
正確には他での栽培が認められなかった
ものであり、売買そのものは問題無いのだが。
「構いません。
こちらも全て、というわけでは
ありませんからな。
しかし、こちらも料理に関しては負けぬと
思っておりましたが―――
世界は広いもの。
某どもの祖先も、食事は毎日取るほど
こだわっていたと聞きますが……
シン殿の国や鬼人族には負けまする」
祖先―――おそらく天狗の事だと思われるが、
彼らも食べなければ死ぬ、という世界から
来たのだ。
仙人でも無ければその理から逃れる事は出来ず、
初代の姿はこちらの世界では、『こだわった』
ように見えたのだろう。
「ですが、天人族の布染めや衣装デザインなどは
欲しがる人が多いと思われますよ」
私がそう答えると、
「確かに何つーか……
シンが初期にデザインした、足踏み踊りの
衣装にも似ているよね」
「それに煌びやかなものも多い。
我はドラゴンではあるが、人間としての生活も
長いでのう。
あの衣装は女性として心惹かれるわ」
メルとアルテリーゼがうっとりした表情になる。
足踏み踊りの衣装はまんま神主・巫女をイメージ
したものだけど―――
天人族の里には他に、昔の日本のお姫様や
貴族っぽいものもある。
しかし私が何より欲しいものは、
「あの水路沿いに植えられているサクラですが、
苗とかは頂けます?」
そう聞くと天人族の女性はきょとんとして、
「え? まあ問題無いとは思われますが、
あれは春の季節にしか咲かないのですぞ。
確かにその時だけは見事なものですが」
「いえ、それがいいんです!
ぜひともお願いします!!」
こうして交易品の中に『桜』が加わり……
公都に帰る頃には、苗が十本ほど追加された。
「本部長ー、またワイバーン便で手紙が
届いてますよー」
ウィンベル王国王都・フォルロワ―――
そこの冒険者ギルド本部の責任者の部屋で、
腰まで伸びた長い金髪の美女が、白髪交じりの
グレーの短髪の男に封筒を渡す。
「ったく……
ちょっと前に白翼族とやらの会談が終わった
ばかりだってのに。
何でここで王家絡みの仕事ばっかやらなきゃ
ならねえんだか」
ライオット本部長は封を切りながら、その中の
手紙に目を通す。
「あら。ライオネル様がもともと本部長を
しているのは―――
王家の命によるものでしょう?」
「そりゃ治安絡みだっての。
荒事くらいしか能がねえから、弟に王座を
譲って裏方になったんだよ」
秘書のような、眼鏡をかけたミドルショートの
黒髪の女性の言葉に、彼は言い返す。
「はいはい。
でも王家のお仕事も冒険者ギルドのお仕事も
きちんとこなしてくださいねー」
「私たちだって、ラッチちゃんや可愛い亜人の
子供や小動物に会えず、小指がプルプルして
きているのに……」
「病気だそれは」
サシャとジェレミエル―――
この二人もライオネルと共に、冒険者ギルドに
送り込まれた王家の手の者だが、その3人が
本部長室で軽口を叩き合っていた。
「それで、今度は何と?」
「天人族の使者が来るそうなので、そのための
準備や手続きを頼むってさ。
まあこっちは白翼族より前に話を聞いて
いたから、一応確認ってところか」
手紙をテーブルの上に置いて、ライオネルは
ソファに座り直す。
「そういえば白翼族は……
もうラーシュ・ウィンベル陛下にお目通り
したんですよね?」
「あー、事前にかなりプライドの高い種族だって
聞いていたからなあ。
まあ何事も無く終わったらしいが」
サシャと本部長のやり取りの後、コホン、と
ジェレミエルが咳払いして、
「その後、創世神教の者が接触したと
聞きましたが」
「そういやそんな話も聞いたな。
まーどう見たって神様の使いっぽいもんな、
あの種族」
飲み物に口を付けるライオネルに彼女は続けて、
「大丈夫なのでしょうか?
また宗教的な騒動やトラブルが起きたり
したら―――」
以前、創世神教はリープラス派の司祭の暴走が
問題になった事があり……
ジェレミエルの指摘はそれを指していたが、
「いや、それがな。
あの種族、自分たちを崇めるのはいいんだが、
同時に飛べない種族は見下していてさ。
交易による協力はともかくとして、
積極的に何かしてくれるという事は
無いらしい。
まあ一方的に貢いで満足出来るのなら、
それでいいんじゃねぇか?」
意地悪そうに笑う本部長に、二人の女性は
苦笑で返す。
「それより『マナ』、そして浮遊する島の技術は
王家も重要視している。
もし空中に拠点を作る事が出来るとしたら、
水中戦力以上の革命だ。
何せ今はドラゴンやワイバーン、魔族とも
友好関係を結んでいるのだからな」
「あれですか……
気が早い者は、すでにこちらと向こうの
大陸間、海の上に飛び石のように設置する
構想を持っているとか」
「そのうち、空中公都なるものが出来るかも
知れませんね」
そこで誰からともなく一息ついて、
「それはともかく、また『ヤマト』から
新しい食材が届いているんだろう?」
「そうです!
しかも甘味らしいですよ!!」
「さっさと書類を片付けて行きましょう!」
そして三人は事務処理に取り掛かった。
「あれ?
ニコル・グレイス伯爵様に―――
アリス・ドーン伯爵令嬢、
それにシーガル・レオニード様に
エリアナ・モルダン伯爵令嬢も……」
公都『ヤマト』中央地区―――
天人族の使者が王都に向かい、また鬼人族と
彼らの関係も誤解が解け一段落し、
『ゲート』を通じて適度にランドルフ帝国に
行ったり来たりする日々を過ごしていた時、
二組のカップルが公都にやって来た。
「どうしたんですか。
公都に何かご用でも」
「いえ、用があるのはシン殿にです」
「師匠に、ぜひとも自分たちの結婚式に
出席して頂きたくて!」
中性的な顔立ちをした、中学生くらいの
銀髪の少年と……
すっかり短くなった金髪と化粧を落とした顔の
青年が私に迫る。
「おー、元気でした? アリス様」
「エリアナ令嬢も久しぶりだのう」
「ピュウ」
妻たちがあいさつすると、肩まで伸びた
ブラウンの髪を持つ女性と、
切れ長の目をした、アリス様と同じブラウンの、
ウェービーヘアーをした令嬢が頭を下げる。
「ああ、結婚式のご相談でしたか。
でも春に挙げるんじゃ―――」
「年明けしましたし、春なんてすぐです!」
「そうでなくても今年は、ランドルフ帝国との
合同軍事演習を控えていますから。
その準備などを考えると、早めにやっておいた
方がいいとも言われまして」
アリス様とエリアナ様が、懇願するような
声を上げる。
しかしシーガル様、エリアナ様の事情は
わかったけど―――
ニコル様、アリス様にはどんな事情が
あるんだろう、と思っていると、
「あの、わたしとアリス様も合同演習に
参加する予定ですので……」
「はい。
彼の範囲索敵と私の物体浮遊魔法で、
指揮を執る事になっておりますれば」
ああ、そういえばランドルフ帝国の船団との
戦闘で、航空管制と警告を行った実績が、
この二人にはある。
(■172話 はじめての かいせん
(らんどるふていこく)参照)
となるとむしろ、軍事演習の目玉として
出席するのは自然か。
「式はいつくらいにするつもりの?」
メルの質問に、いつの間にかラッチを抱いた
アリス様が、
「早ければ来月中には―――
遅くても来月末までに」
「おー、となるとあまり時間は残されて
おらんか」
アルテリーゼも期日を聞いて感想を述べる。
「諸事情がありまして、国を挙げての合同訓練と
なりますと……
軍事関係者以外も物資の調達などで、忙しく
なる事が予想されます」
「リーフ・グレイス伯爵家当主様も、それを
見越して、前倒しでやった方がいいと助言
してくれまして」
続いてエリアナ様が、そしてまたアリス様が
補足するように説明する。
「わ、わかりました―――
とにかく私の屋敷に行きましょう」
そこで私たちは場所を変え、西側地区の
自宅へと歩き出した。
「何かスピーチが欲しい、ですか」
「は、はい!
あのドーン伯爵家次期当主と、
イライザ・フォス子爵令嬢の結婚式での
シン殿のスピーチ……
あのようにお言葉を頂ければ、と」
(■174話 はじめての すぴーち参照)
エリアナ伯爵令嬢の言葉を聞いて、
去年の夏の終わりごろにやった結婚式を
思い出す。
確か、かつてドーン伯爵様から頂いたお酒が
残っていたので、それを元にスピーチしたん
だっけか。
「しかし結婚式は王都で―――
それに合同と来ましたか」
「まあ一緒にやれば手っ取り早いが……」
メルとアルテリーゼが、半ば呆れるように
息を吐く。
そう、この二組のカップルが一緒に来たのは
それが理由で、
グレイス伯爵家とドーン伯爵家、
レオニード侯爵家とモルダン伯爵家、
この結婚式を四家合同で王都で行う手筈に
なっているのだという。
「ええと、皆さんはそれでいいんですか?」
私の質問に四人はコクリとうなずき、
「合同結婚式は王家も行っておりますゆえ」
「我々に異存はなく、各家も了承していると
聞いております」
新郎予定の二人も納得した面持ちだ。
それに一組でやるより、サポートは多くなる。
そちらの方が心強いかも知れない。
「……わかりました。
ではこういうのはどうでしょうか?
故郷では定番なのですが。
それと、主役はアリス様、エリアナ様に
なります」
私の言葉に、室内の全員が注目した。
「なるほど―――
結婚とは幸せな家庭を築く、
という事……!」
「その証明を結婚式で出すのですね!
ぜひとも、やらせて頂きます!!」
新婦予定の二人が提案に賛成し、
「これは人々の記憶に残りますね」
「ありがとうございます、師匠!!」
大人しいニコル様と、対照的に感動を全身で表す
ように、ブンブンとシーガル様が首を縦に振る。
アリス様、エリアナ様はさっそくその練習に入る
意気込みを見せ―――
結婚式の相談は終わった。
「……それでなぜか私、自宅から
追い出されたんだけど何で?」
小一時間ほど後、私は新郎予定の二人と
一緒に、中央区を歩いていた。
「あ、後は女同士の話と言ってましたから」
「な、何かあるんじゃないですかねえ」
「ピュイ?」
一応、結婚式に作るものの練習もあるだろう
けど―――
メルとアルテリーゼにラッチを押し付けられる
ようにして、自宅から男性陣は排除されて
しまった。
「ラッチはまだ男女どちらか、わかっていない
はずなんだけどなあ」
「ピュー?」
ラッチを抱きながら空を見上げる私を、
少年と青年はどんな顔をしたらいいのか
わからない表情で見つめる。
まあわかってはいるんだけどね。
子供がいてはいけない話をするのであろう
事は……
私は遠い目をしながら、取り敢えず
宿屋『クラン』へと向かった。
「おうシン、どうした?
死んだ魚のような目をして」
馴染みの店に着くと、そこには
アラフィフの筋肉質の体をした男がいて、
「お久しぶりです、ジャンドゥさん」
「お、お久しぶりです!」
伯爵家と侯爵家の二人が反射的に頭を下げる。
「おう、貴族様もか。
あー、結婚式の相談か?」
そこでギルド長も交え、軽食を取る事にし、
同じ席に三人で座った。
「レイド君とミリアさんは?」
「今は空だ。見回り中ってヤツだな」
ジャンさんが人差し指で上を指す。
「そんでお前さんたちは、話は終わったのか?」
「ええ、まあ」
「後は女性同士の話で盛り上がっている
みたいでして」
ニコル様とシーガル様の話に、彼は苦笑する。
「しかしまた料理が増えていますね、公都は」
「これも師匠経由、でしょう?」
二人はお汁粉やカキフライを頬張りながら話す。
私は否定出来ずに口を閉じ―――
「そういや、天人族だったか?
何かお前さんを探していたぞ」
「?? ミナトさんが、ですか?」
正式に交流を持って以降、天人族や白翼族が
よく公都に来ているのは知っているけど。
「いや。ミナトと一緒に使者として来ていた
一人だな。
何でも染料に使う素材の調達で……
その護衛として同行して欲しいって話だった」
ふむふむ、と私はうなずいていると、
「師匠、俺のワイバーンに飛んでもらいますか?
ちょうど公都にはそれで来たんで」
「わたしとアリス様も、それに乗せてもらって
来たんです」
ドラゴンのアルテリーゼやシャンタルさんの
『乗客箱』には及ばないものの―――
七・八人程度なら乗せられる小型コンテナの
ような箱を、ワイバーンは運ぶ事が出来る。
「そうですか。
アルテリーゼたちは何か立て込んでいる
ようだし……
じゃあ、お言葉に甘えて」
「任せてください!!」
シーガル様が元気よく答え、
「天人族は今、鬼人族と一緒にドーン伯爵サマの
御用商人の屋敷に行っているはずだ。
交易品の選定をして欲しいとかでな」
そこでギルド長が彼らの行き先を教えてくれ、
私たちはそこへ向かう事にした。
「おお、シンさん!」
「ご無沙汰しております、カーマンさん」
御用商人の屋敷に入ると、六十代くらいの
白髪交じりの紳士が対応してくれた。
そして商談中だったであろう、鬼人族と天人族の
若者もペコリとあいさつする。
「すいません。お話し中でしたか?」
私の言葉に亜人の二人は首を軽く横に振り、
「いえ、もう終わりましたので」
「ところで、シン殿が来てくださったという
事は―――」
天人族の青年の言葉に、
「ええ、ジャンさんから聞きました。
衣装に使う染料の素材を集めたいと伺って
おりますが」
するとカーマンさんが目を輝かせ、
「いやあ、鬼人族といい天人族といい、あの
衣装は素晴らしいですよ!
特に色が鮮やかで……!
素材一つ取っても必ず売れます!」
商人としての血が騒ぐのか、かなりテンションが
上がっているようだ。
「まあ、それもあるのですが―――
シン殿が教えてくださったあの透明な
化け物対策としても、量を確保して
おきたいと思いまして」
「え?」
「透明な化け物?」
「それはいったい―――」
天人族の言葉に、人間の少年と青年、そして
鬼人族の男性も聞き返す。
そこで私は、天人族の里であった出来事を
説明した。
「……というわけで、透明な水中に
逃げ込まれたら確かに厄介ですが、
少しでも色をつける事が出来れば、
水のうねりとかで発見する事が容易に
なりますからね」
あの透明な巨大ヘビを討伐をした後、
『今後またあのような化け物が出て来たら
どうすればよいか』
と、対応策をせがまれ、
船に染料か何かを積んでおいて、
危険を感じたらばら撒く、という事を提案した。
「体が透き通る魔物とは―――」
鬼人族が両腕を組んで眉間にシワを寄せ、
「あ、でもそんなのめったにいませんよ。
私も2回くらいしか出会った事無いですし」
「いや普通は出会った時点で終わりだと
思うんですけど……
さすが、あのギリアス様さえ改心させた
お方です」
「やはり師匠はすげぇ!!」
そこで貴族様二人が私を賞賛する事で
盛り上がり、肝心の天人族の話に戻るまで
時間を要した。
「この辺りですか?」
「ええ、ちょうど魔物鳥プルランの捕獲で
回った際、偶然見つけたものなので」
小一時間ほど後、私はニコル様、鬼人族と
一緒に、シーガル様の乗るワイバーンの
コンテナ箱に同乗していた。
何でも今回の件は鬼人族も絡んでいるらしく、
染料の素材となる草木を探していた
天人族の話が彼らの耳に入り―――
その特徴を詳しく聞いたところ、
魔物鳥プルランの定期回収に参加していた
鬼人族が、見かけた事があるらしく、
そこで念のため護衛として私も加わり、
その素材を採集したい、というのが今回の
依頼のあらましであった。
そして今同乗しているメンバーは、
素材採集のために天人族三名、
案内&護衛として鬼人族一名、
護衛として私、そして範囲索敵が出来るという
事で、ニコル様にも同行して頂いた。
「ニコル様、周辺に魔物の気配は」
「今のところありません。
かなり遠くに群れと思われる反応が
ありますが……」
「わかりました。では―――
いったん私と天人族、鬼人族を下ろして
もらった後、
シーガル様とニコル様は空中待機で
お願いします。
お2人には引き続き警戒をお願いしたく」
私が貴族である二人に告げると、
「わかりました」
『任せておいてください、師匠!!』
それぞれ直接、そして伝声管で返答があり、
素材採集に入る事になった。
「おお、こんな場所があるなんて」
「これだけあれば、しばらく困る事は
なさそうです!」
天人族の男女が採集しながら口々に喜ぶ。
「でも、よくわかりましたね?」
私が素材となる草木を見つけた鬼人族の彼に
問うと、
「我らもまた、植物の実などから染料を
得ますので。
これは、と思ったのです」
その答えに私はなるほどとうなずく。
歴史は違えど、恐らく先祖は同じ日本から来た
種族なのだ。
似通っている部分も少なからずあるのだろう。
そして一時間ほど経過すると、
「シン殿! もう十分取れました!」
「お付き合い頂きありがとうございました!
そろそろ公都に戻りましょう」
天人族の三人から採集終了の報せがあり、
「はい、それでは」
と、上空待機しているワイバーンライダーの
シーガル様に合図をしようとすると、
『師匠ー!!
ニコルさんからの報告です!!
何かが猛スピードでそちらに接近中!!
北西からです!!』
逆に彼から警告めいた叫びが聞こえ、
「な、何だ!?」
「何か地響きが……!」
天人族たちが言う通り、何かが近付いている事を
足裏から否応なく伝わってくる。
「天人族のみなさんは、鬼人族を連れて
空へ退避を!!」
「し、しかし荷物が―――」
見ると、彼らが集めたであろう大量の素材が
まとめられていたが、
「それはこちらで守ります!!
安全が確認されるまで空中待機して
ください!」
そう言っている間にも足裏の振動はどんどん
大きくなっていき、
また遠くから聞こえる破壊音が、相手が来る先を
示す。
「わ、わかりました!」
「シン殿、お気をつけて……!」
そこで天人族三人は一人の鬼人族を抱え、
上空へと飛び立つ。
『師匠ー、加勢は!?
ワイバーンで攻撃出来ますが!』
シーガル様の提案に、私は両手でばってんを
作って否定する。
確かに火球攻撃は強力だが、周辺を火事にして
しまう恐れがある。
それにここは貴重な素材の群生地だとすると、
燃やすのは避けなければならない。
そこで遠目にやっと、こちらに近付いてくる
魔物が確認出来た。
でかい丸まった角に、まるで雲のような
フワフワの毛並みが目に入る。アレは―――
『師匠、アレはアラガント・シープです!!
下手をするとジャイアント・ボーアよりも
突進力が高い魔物です!』
上空からの実況に私は感謝して手を振る。
体高だけでも五メートルはありそうだ。
まあそれは、あの毛で覆われているから、
実際はもっと低いのだろうが。
しかし四足歩行、そして羊、つまり哺乳類系の
獣であれば対応は難しくはない。
私は急接近を続ける巨大な魔物に対しつぶやく。
「その巨体と四肢の比率で―――
さらにその速度で突進出来る動物など、
・・・・・
あり得ない」
私のつぶやきが終わると同時に、ベキッ、
という嫌な音が聞こえ、
「フゴォーーーッ!?」
おそらくその体重と速度の負荷をまともに
受けたのだろう、前足が普通とは違う方向に
曲がり、
アラガント・シープはその巨体を倒し……
私の横をすり抜けるようにして、慣性の法則が
無くなるまで転がり続けた。
そして無害化した事を確認すると、私は両手で
〇の形を作り、
上空へ向けて、脅威が去った事を報せた。
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