テラーノベル
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蓮くんの車は、俺を乗せたままずっと走っていく。
どこかの信号で車が止まった時、蓮くんが「だめだ。待てない」とだけ言って、俺の方へ身を乗り出して、急に俺の口を塞いだ。
「んっ…っふ、、ぁ…れ、…く…」
信号が変わると、名残惜しそうに蓮くんの唇が離れて行って、車はまた走り出した。俺は咄嗟の出来事に驚きながらも、荒っぽく息を吐いて運転する蓮くんから目が離せなかった。
このまま攫われちゃうのかな、なんて思うと体が勝手に熱くなった。
どこまでも奪って、攫って欲しかった。
早く蓮くんのものになりたかった。
しばらくして、蓮くんの車は、何階建てなんだろうと思うくらいに高いマンションの地下駐車場に入って行って、一つの区画に収まった。どうやら、ここは蓮くんのお家なようだ。
蓮くんが運転席から降りて、助手席の方に回って来て、ドアを開けた。
俺の方へ差し出してくれた、蓮くんのその手を取って車を降りた。蓮くんは、俺の手を掬い上げたその手を、自然な流れで俺の腰に回して、反対の手で車のキーのリモコンを操作してロックをかけた。キュッキュッと鳴るその施錠音が、駐車場の中に静かに響いた。
蓮くんはマンションのエントランスと、自分の部屋までの廊下を急ぐように歩いていく。なんだか余裕がなさそうで、目がギラギラしていて、まだ俺が蓮くんと付き合っていなかった頃にも、こんな目をしていたことがあったな、なんて遠い記憶が蘇ってきた。
こういう目をしている時の蓮くんはちょっと危険で、とっても魅力的で、翻弄される。
蓮くんは焦ったようにガチャガチャと玄関の鍵を開けて、中に入った。着いていくように俺も「お邪魔します…」と言いながら中に入った。後ろでドアが閉まる音がしたかと思うと、その瞬間、玄関のドアに押しつけられるような形で、蓮くんが俺にキスをした。
噛み付くように、貪るように、息なんてする暇もないくらいに、次から次に蓮くんの唇が振ってくる。うわごとのように「りょうへい…りょうへい……っ」って、蓮くんに呼ばれながら舌に触れられるたびに体が疼く。苦しさから来る生理現象か、興奮からか、目が潤んでこぼれ落ちそうになる。蕩けるほど甘くて激しいキスに立っていられなくなって、蓮くんの首に腕を回してしがみついた。
蓮くんは、俺の腕が首に巻き付いたのを感じ取ったあと、一度唇を離して、俺の背中を支えながら後ろに倒して、俺の膝の裏に腕を回した。俺のことを抱き抱えながら玄関の先の廊下を進んで行こうとするから、「まって…っ、蓮くん、、靴脱がないと」と訴えたけど、蓮くんは「いい、、もう待てない」と言って奥へ進んで行った。
靴は寝室の床に転がったまま、お互いの服はベッドの下に散らばったまま、大きいふかふかのベッドの上で、何度もキスをした。
こんなに荒っぽくて性急で、焦っているみたいな蓮くんを初めて見た。
怖くはない。
俺も大概みたい。
今のこの状況に、俺の体はどうしようもなく期待に震えていて、言い表せないほど蓮くんが恋しくて、もっともっと蓮くんが欲しくて仕方なかった。
蓮くんも、獣みたいにギラギラ光る目を俺から一ミリも逸らさずにずっと見つめてくれる。俺の全部、裏も表も、中も外も、奥も何もかも全部見たいと言わんばかりの熱い視線が注がれる。恥ずかしくて逸らしては、また蓮くんを見返す俺の目と、蓮くんのその目がかち合うたびに、胸が詰まって焼けるように熱くて、おかしくなりそうだった。
蓮くんの欲も、焦燥も、愛情も、なにもかも全部欲しい。
そんな自分のとめどない欲望をぶつけるように、俺の好きって気持ちが少しだけでも伝わたらと懇願するように、蓮くんの両頬を包んで、触れるだけのキスをした。
お互いの汗と二人分の体液とで、体が濡れていく。
寝室には蓮くんの匂いが濃く残っていて、呼吸をするたびにクラクラする。
ぐずぐずに溶け切った頭じゃ、もう何も考えられなくて、最後の正気を保つように蓮くんに抱き着いた。蓮くんの首からは、この空間以上に濃くて甘い蓮くんの匂いが香ってきて、おかしくなりそうだった。
「亮平、俺でもっといっぱいになって…っ、」
「ん、、ふ、っぁあ…ん…っ!」
蓮くんが俺の中を縦横無尽に動くたびに、背中が甘く痺れて何度も腰が浮いてしまう。
自分がこんなに敏感に反応して、煽るように体を揺らめかせる人間だったなんて知らなかった。蓮くんと何度かこうして体を重ねて来たけれど、いまだに慣れない。こんなに乱れる自分なんて、知らない。恥ずかしい、だけど、それすらなんだっていいって思えてくるから少し怖くなる。あったかい、きもちい、すき、しあわせ。蓮くんの言いなりになるように、本当に全身が、蓮くんでいっぱいになっていくみたいだった。
この夜がいつまでも続いてくれたらいいのに、と薄明るく光る月を弱々しく見つめながら願った。
「体、大丈夫?辛くない?」
「うん、大丈夫だよ。」
「ごめん、俺、がっついちゃって…かっこ悪かったよね…。」
「そんなことないよ、すごくどきどきした…」
「りょ…っ、、、ぅ“う”…かわいぃ……」
「うぐ…っ、、くるし…。」
今日は珍しく、体制を変えながら何度も蓮くんと体を重ねた。
あまり体力がない俺は、案の定、もう指一本さえも動かせそうになかったけど、だからって嫌なわけがないし、蓮くんがそうやって何度も何度も求めてくれるのが嬉しかった。落ち込ませたくなかったのもあるけど、俺は思ったままに腕枕をしてくれる蓮くんにそう答えたら、ものすごく強い力で首に巻き付かれた。
なんとか腕をぺちぺち叩いて離れてもらうと、蓮くんは思いついたようにバッと起き上がった。
「何回もしちゃったから、きっと明日辛くなっちゃうよね…マッサージする!亮平、うつ伏せになって?」
「ありがとう。お願いします。優しいね、蓮くんは」
「亮平だから優しくしたいの。」
腰をほぐすように優しく押したり揉んだりしてくれる。蓮くんの大きな手が温かくて気持ち良くて、寝そうになるのをぐっと堪えた。
まだ寝たくない。まだ一緒にいたい。もっと触れ合っていたい。もっと蓮くんを感じていたい。
こんな俺が、子供みたいに「まだ」「もっと」って何かを強請る日が来るなんて思ってもいなかった。
「ん…ぁ…っ、きもち……」
「…亮平」
「ぅんっ?、、ふぁっ……なぁに…?」
「声が、その…あの…すごくいけないことしてる気分…です…」
「…?」
「無自覚かよ…かわいい…俺、頑張れ…」
気持ちがいい。突っ伏している枕から、蓮くんの匂いがする。優しい香りが幸せを次から次に呼んできて、体がさわさわと波立つ。だけど、それと同時に明日のことを嫌でも考えてしまう。
明日になったら、また、しばらく会えなくなってしまう。
寂しい。まだ足りない。
でも、そんな我儘、きっと困らせてしまうから。
言いたいけど言えない。迷惑かけたくない。
蓮くんに出会ってから、俺は弱くなったみたいだ。
一人でも生きていけていたはずなのにな。今は蓮くんがいない生活の方がなんだか現実味がなくて、耐えられないような気がした。
「亮平?」
急に喋らなくなった俺を心配してくれたのか、蓮くんが俺の名前を呼んだ。
その声が優しくて、瞬間、たまらなく寂しくなって、込み上げてくる気持ちを抑えつけるように上擦った声で返事をした。
「亮平、こっち見て」
蓮くんは一度俺の上から体を退かせて、俺を起き上がらせた。
体が冷えないようにって布団をかけてくれる蓮くんの優しさで、また苦しくなる。
「どうしたの?」
「な、なんでもない…っです……」
「うそ。隠し事はなしでしょ?なんでも言って?」
「だって…蓮くんに迷惑かけちゃう…」
「俺が亮平を迷惑だって思うこと、あるわけないでしょ?大丈夫だから、ね?」
「う、、ぁ…」
苦しい。言いたい。伝えたい。
言ってしまってもいいのかな。蓮くんが嫌がるようには思えないけれど、きっと気を使わせてしまったり、忙しいのにもっと忙しくなってしまって、体を壊してしまったらと思うと、とても怖くて言えない。
でも、帰りたくないと言った時から、この部屋に足を踏み入れた瞬間から、俺の気持ちはもう止まってくれないこともわかっていた。
お願い、俺が何を言っても無理はしないで。
そう蓮くんに願いながら。
お願い、暴走しないで。
そう自分自身に言い聞かせながら。
俺はカタカタと震える口を開いた。
「もっと…ずっと……蓮くんと一緒にいたいです…っ」
マッサージをし始めた時から、だんだん元気がなくなっていく亮平に声をかけると、いつもの優しいまったりとした声じゃなかったから、一度ベッドの上に座って向かい合った。「なんでも言って?」と伝えたら、亮平はどんどん眉を寄せて苦しそうな顔をしていった。
数秒経ってから、亮平は口を開いたかと思うと、そう言った。
どうしよう。すごく可愛い。
布団にくるまって、今にも泣きそうな顔で、潤んだ声でそんな可愛いこと言うのは反則でしょ。でも、どうしてそんなに苦しそうに悩むんだろう。
俺ももちろん、もっとずっと一緒にいたい。なんなら亮平を全部の現場に連れて行きたいくらい離れたくない。
迷惑かける、なんて言ってたけど、そんなこと思わない。また俺に気を遣ってるのかな。
安心させてあげたくて、いつもみたいに笑って欲しくて、俺は亮平を布団ごと抱き締めた。
「俺も、いつもそう思ってるよ」
「今日こうやって俺の家に来てくれた亮平を、このままずっと閉じ込めておきたいくらい。」
「へっ?」
「ふは、、冗談だよ。でもそのくらい、俺もいつだって、どんな時だって、亮平に会いたいし、もっとたくさんの時間を過ごしたいって思ってる。」
「おれも…いつも蓮くんを想ってるよ」
「ねぇ、亮平?」
「ん?」
「亮平が良ければだけど、一緒に住まない?俺ももっと、亮平と一緒にいたい」
俺の言葉を聞いて、亮平は俺の肩に頭を擦り付けて鼻を啜りながら「はい」と、小さくそれだけ返事をしてくれた。
可愛くて、愛おしくて、嬉しくて、もう一度亮平を力一杯抱き締めたら、腕の中から「ぅ“ぐ…」って小さな呻き声が聞こえて来て、俺は慌てて腕の力を緩めた。
「じゃあ、明日から、二人で住むお家探さないとだし、今日はもう寝ようか」
「うん…っ」
「ほら、おいで?」
目元が赤くなってるうさぎみたいに可愛い亮平を抱き締めて、二人でまたベッドに寝転がった。
亮平の頭を撫でて包み込むように胸に抱くと、亮平は俺の背中に腕を回してくれた。
「蓮くん、ありがとう。」
「ん?」
「俺の我儘聞いてくれて。」
「全然わがままじゃないよ。それに、亮平と会った日とか、一緒に寝られる日は、やっぱりよく眠れるんだ。だから、俺のほうこそありがとう。」
「やっぱり蓮くんは優しいよ。」
「ううん、亮平が好きだからだよ。大好きだから優しくしたいの。」
「おれも、だいすき、、です……すぅ…」
「寝ちゃった、疲れてるのに、ここまで付き合ってくれてありがとう。俺からしたら亮平の方が優しいよ。」
控えめで、いつだって自分のことより俺とか、オーナーとか、ラウールのことを優先してる。優しすぎて心配になるくらい。そんなところも大好きだけど、無理はしないで欲しい。でも、これからは毎日亮平に会えるから、些細な変化にだって気付けるようになる。毎日会えるようになる。お互いの帰る場所が同じになる。
この上ない幸福に心を高鳴らせながら、俺は穏やかな顔で眠る亮平が朝までいい夢を見られるようにと、亮平の額にキスをしてからベットに身を預けて眠りについた。
To Be Continued………………
コメント
6件
やっと同棲始めれるんだ✨✨ 続き楽しみにしてます!!😆😆
Season2も拝読してます!一緒にいればいるほどお互い好きになっていく感じがとても素敵です😊