夕方になり、優吾が2人の待つホテルに戻ってきた。
どこか興奮した様子で、第一声を放つ。「話聞いたけど、ほんと?」
ジェシーが優吾のもとにメールを送っていた。帰るときに読んだのだろう。
「うん。さっき北斗から連絡があった」
わかった、とつぶやいたが何か言いたげに唇を動かす。
「大我は、ほんとにそうだと思う? ジェシーのお母さんと、大我のお母さんが一緒だって」
少し考えたあと、
「あの写真…僕の記憶の中のお母さんに似てる気がするんだ。全然違うかもしれないけど、思い出せたのかも」
良かった、と優吾は微笑んだ。それは喜ばしいことだ。
「……その話も入ってきて俺ちょっとこんがらがってるんだけど、俺からも伝えないといけないことがある」
ジェシーと大我は身構えた。
「さっき行ってきたのは金融企業なんだけど、帰り際にお相手さんに通訳を通して訊いてみたんだよね。『アメリカのどこかに極秘の遺伝子研究施設があるって噂を聞いたんですけど知ってますか』って」
優吾は乾いた喉を潤そうと唾を飲み込む。そして息を吸った。
「そこの秘書が、『ニューヨークゲノム研究所』の研究員だったんだって。誰にも口外するなって言われたけど、大我のことを話したらみんなにだけは大丈夫らしい」
ジェシーは驚いたが何も言わず、続きを促す。
「ちょっと急なんだけど、今日の夕方に会社の近くのカフェで会って話が聞けることになった。もちろん2人にも一緒に来てもらおうと思ってるよ。だけど…」
少しためらったあと、
「大我はもし施設のことを聞くのが辛いなら、行かなくていい」
でもきっぱりと首を振った。「行く」
今日飛行機で日本に帰る予定だったのを、明日にフライトの時間を変えた。
「案外大変なことになっちゃったね。大丈夫?」
指定されたカフェに向かう途中、優吾が問いかけると、2人はうなずく。
「俺は全然元気! 兄ちゃんと大我より何にもしてないし」
「…あ、わかってると思うけど通訳よろしくな」
「いやわかってるって」
しばらくして、ニューヨーク市街にあるカフェにタクシーは停まった。
小洒落たドアベルの音を響かせて店内に入ると、きっちりとしたパンツスーツを着た女性を優吾が見つけた。
近づいていき、後ろからジェシーが明るく挨拶をする。
女性は立ち上がって笑いかけ、名刺を渡してくる。そこには「秘書官」とあった。
早速ジェシーが話を切り出すと、秘書は抑えた声だけれど毅然とした口調で、
「この方を一目見て、あの研究所の出身かもしれないと思いました。だって、あそこは唯一アルビノを収容している場所ですから」
そう大我を手で示して言った。
空色の瞳は、一瞬のうちに緊張感を孕んで大きく見張られた。
続く
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