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「ホーム、ですか」

そう問うたのは大我だった。どこか怯えたような、恐れるような声だけどしっかりとしていた。

テーブルの向かいの秘書はうなずく。

「その施設のことは、収容されている子たちにはそう言っています。怖くないように」

黙っていた優吾が口を開いた。

「…収容されている子たちというのは、アルビノ以外にどんな子がいるんですか」

答えを聞いたジェシーは、わずかに首をひねる。

「特別な遺伝子を持つ子どもたち…だって」

あまり詳しいことは話せないんです、と言った。

「研究員を辞めるときに、自分やほかの人の研究内容は漏らさないと約束させられましたから。だから、身内以外には絶対に話さないでくださいね」

優吾はうなずく。そして、バッグからあるものを取り出した。

「これって、もしかしてそちらのものですか」

見せたのは、大我が最初つけていたリストバンドだった。

それを一瞥して秘書は首を縦に振る。「ええ、そうです」

ジェシーと優吾は顔を見合わせた。

「じゃあ決まりだな。…ちなみに、そこの入所者リストみたいなものは見れますか」

そう訊いたが、秘書は残念そうな顔をする。無理だって、とジェシーは和訳して言った。

「そうか…いやまあ個人情報だしな、当たり前か」

でも、と首をひねる。「どうして大我だけが連れ出されたんだろう」

何か知ってますか、と秘書に尋ねたが答えは曖昧なものだった。

「わたしが辞めたのはかなり前です。なので今も働いてる同僚なら知ってるかもしれません」

今度訊いてみますね、と彼女はにこやかに笑った。


カフェを出たあと、3人はホテルへの道を戻る。

「いやあ、色んなことがいっぺんにわかってびっくりしたよ」とジェシー。

「まあ明日には帰れるから。今夜はゆっくり休もう」

並んで歩く3人の後ろを、少し離れた場所から黒いコートを着た人物が静かについてくるのには誰も気づかなかった。

その人物は、足音を立てずに近づいてくる。

3人はいつものように話している。

すると、怪しげな人物が素早く動いた。大我の腕を後ろから掴み、引っ張った。その先には黒い大きな車が停まっている。

「あっ!」

優吾とジェシーが驚いてもう片方の腕をとって引き寄せた。

ジェシーはその人物を蹴って離し、叫ぶ。「逃げて!」

2人が怖気づいて慌てて走り出すと、後からジェシーも駆けてきた。

黒い人物はもうおらず、車は急発進して走り去っていった。

「何だあれ…」

「びっくりした…」

大我は恐怖のあまり膝から崩れ落ちた。優吾が抱き寄せる。

「ごめん、怖かったよね。もう大丈夫」

「……嫌だ…」

大我は絞り出した。

「もうどこにも行きたくない、みんなと一緒がいい…」

「そうだね。みんなのいる東京に明日帰れるから」

ジェシーが優しく言う。

「何で僕だけ…。特別なとこにいさせられて、やらされて、取られて。そんなの嫌だ!」

大我が憤怒の混じった声で言い捨てた。

「あんなとこ、もう行きたくなんかない…」

2人は目を見張り、視線を合わせた。


続く

記憶喪失の妖精、拾いました。

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