「ぅ、と、届け…っ」
必死に背伸びして上のチェストから板材と鉄を取ろうとする。
「ゔ、ぐ…っ」
だがしかし、自分の手は空を切るだけでチェストには掠りもしない。
鉄のピッケルが壊れ、持っていた物資も底を尽きたから一度仮拠点に戻って来たはいいものの、肝心の物資を取ることができない。
「クロノアさんにしてもらったからか…」
みんなはまだダイヤ探しをしているようで戻ってきていないようだ。
「困ったな…」
俺の身長では上のチェストに手が届かない。
悩んだところで勝手には開いてはくれない。
「何でこんな上に入れることにしたんだよ…」
俺やしにがみさんに合わせろよ。
「……ゔーん」
誰か、できればクロノアさんかぺいんとが戻ってきてくれたらありがたいが。
とりあえず、自分の掘った分のダイヤは下のチェストにしまっておく。
そしてもう一度、背伸びをする。
爪先立ちのせいでプルプルと震える足先。
伸ばす腕もこれ以上伸びないくらいで、指先も震えて攣りそうになる。
「あ、と…ちょっと…!」
爪先がチェストに触れた瞬間、バランスを崩して後ろに体が倒れていく。
「あ」
こう言う時って、ホントにスローモーションに見えるんだと呑気に思っていた。
「(ヤベ)」
このままだと後頭部を思い切り打ちつける、と頭では分かっていても体が言うことをきかない。
死ぬかもと、目をぎゅっと閉じるがいつまで経っても衝撃は来ず。
なんなら柔らかい何かに支えられていた。
「ぁれ?」
目を開けて上を見上げると、焦った顔をしたらっだぁさんがいた。
そう言えばこの人も一緒にいたんだった。
「トラゾー大丈夫か⁈」
「は、い…助かりました。ありがとうございます…」
心臓がバクバクと脈打っている。
今更になって驚いているようだ。
「ドア開けた瞬間、倒れそうになるトラゾーがいてさ…俺、反射神経良くてマジでよかったわ…」
「ごめんなさい、上のチェストから鉄とか取ろうとして…」
「あー…トラゾーじゃ、ちょっと届かんか」
俺を立たせ直したらっだぁさんはチェストを少し見上げる。
身長はクロノアさんとぺいんとの間くらいだろうか。
ホントにどうしてこんな高くに設置をしたんだ、と内心毒付きながら上を見上げる。
低身長勢を困らせて笑うつもりだったのか、もしそうだったら許さない。
「……ありがとうございます…。それで、あの、申し訳ないんですけど資材、取ってほしくて……いいですか?」
「おー、いいよ」
手を伸ばして中から簡単に資材を取り出すらっだぁさん。
それを受け取って頭を下げる。
「ありがとうございます」
袋越しに見上げる。
「どういたしまして」
らっだぁさんはにっこりと笑う。
俺の周りにはイケメンな人が多いなと思いつつ、同時に自分が平凡すぎて悲しくなった。
それを振り払うように作業台でピッケルを作る。
「なぁトラゾー」
「はい?」
「トラゾーの豪運にあやかりたいからさ、一緒に探索しねぇ?」
「?、いいですよ」
予備でピッケルを何個か作る。
「ちょっと良さそうなとこ見つけたんだ。行こ」
何故か嬉しそうならっだぁさんに首を傾げつつ、なんの疑いもなく伸ばされた手に自分の手を重ねる。
「手もちょっと小さいねー」
「む。それは余計なお世話です」
「可愛いからいいけど」
はて、とまた首を傾げた。
「俺、可愛くないですよ。しにがみさんの方が可愛いいでしょ?」
「まぁしにがみくんはね」
くるくる変わるしにがみさんの可愛らしい表情を思い浮かべる。
「トラゾーも可愛いと思うよ」
「へ?」
ばさりと頭の袋を外される。
「わっ」
「童顔っぽいって言うか、…なんか全部可愛い」
童顔なのも気にしていた。
身長も相まって子供扱いされるのが嫌だったから。
男にしては確かに低い。
けど、可愛いとは思えない。
自分は至って平々凡々だ。
普通の顔だ。
「うーん、信じてないな。みんなに言われたことない?」
「あるような気もしますけど…話、流してたんで」
「ふぅん?ぺいんとたち以外にも?」
「あー、社交辞令かと」
褒めるところのない自分に対するお世辞かと思っていたから、適当にお礼を言って話を逸らしていた。
俺自身に秀でたことはない。
唯一、褒めてもいいんじゃないかと思うことがあるとするなら脚本とか考えたりするところだろうか。
「まぁ、トラゾー疎いからな」
「俺が?疎いですか?」
「うん。変なとこ抜けてるし、ちょっとポンコツなとこあるじゃん」
「それ貶してません?」
ケラケラ笑うらっだぁさんにむっとしつつ、TPした洞窟内に入っていく。
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