「翔太〜、久しぶりじゃん!元気してた?」
焼肉屋に着いた深澤は、にこにこと完璧な笑顔で翔太の待つ個室に入った。
だが翔太は、メニューから顔を上げることも無くビールをひと口飲むと、
「……営業スマイルやめろ。気持ち悪ぃ」
ふっかの笑みが一瞬止まる。
「……なんのこと?」
その隙間に、昔から変わらない“悪友の翔太”が遠慮なく入り込んできた。
「バレてねぇと思ってんの、お前だけだよ。肩書きのあるおっさんにブランドもん買ってもらって、寿司食って、ホテル。──どーせ今日もそのつもりだろ?」
営業スマイルの奥にあった“素のふっか”が、あっさり引きずり出される。
「今日はちげーよ。」
「ふっ、そーかよ。ほら、食うぞ」
注文を終え、ロクに乾杯もしないままに翔太が肉を焼く。
狭いテーブルに置かれた網の上で、肉がじゅうじゅうと音を立てる。
翔太はトングを器用に操りながら、さっさと皿に肉を取り分けてふっかの前に置いた。
「……子ども扱いかよ」
深澤はむすっとしながらも、箸を伸ばして肉を口に運ぶ。
噛んだ瞬間、脂の甘さが広がって、思わず目を細めた。
「うま……」
「だろ?寿司ばっか食ってんじゃ栄養偏るんだよ」
翔太はビールを片手に、口の端を上げてにやつく。
嫌味ったらしい一言。
でも、図星だから反論できない。
「……なんかムカつくわ」
「おまえ、わかりやすいんだよ。仕事なんてほぼないはずなのに、キラキラツヤツヤしてやがる」
翔太は笑いながら網にカルビを並べる。
その顔は、昔と変わらない悪友のままだ。
ふっかはビールをひと口飲んで、視線を逸らした。
「……さぁね」
そうごまかして、また一枚、熱々の肉を口に運んだ。
「そういやさ、俺、今は佐久間んとこでやってんだけどさ」
「佐久間?……あの派手なYouTuber?」
「そうそう。俺も最初はただのファンだったんだけどな、気づいたら裏方になってた」
翔太はビールで喉を潤しながら笑う。
「芸能界は向いてなかったんだよ。俺、バカ正直だから」
「……確かに、わら」
ふっかは呆れ顔をしつつも、そこが翔太らしいと口角を上げる。
「で、今ちょうど裏方探してんだ。とりあえず来いよ。運が良ければどっかとコネができるかも」
ふっかは黙ったまま、翔太を見る。
翔太はふっかの反応を見て、軽く肩をすくめて笑った。
「まぁ、俺が紹介してやるんだから、有難く受け取れよ」
「おう」
と小さく返事をする。
「やっぱ焼肉ってテンション上がるなぁ。ふっか、ごちそうさま♡」
「げ、俺!?」
そこで 2人は顔を見合せゲラゲラ笑った。
さっきまでの探るような空気は消え、久しぶりに顔を合わせた友人との楽しい時間が過ぎていった。
コメント
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さすが悪友💙💜