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ルーツ・ガーデンで働き始めたあの女性
佐藤さんが、整理していた資料の中から「ある不自然な伝票」を見つけ出し、私のデスクに持ってきた。
「詩織さん……これ、見てください。直樹被告が私に投資を勧めた際に、信頼の証拠だと言って見せてきた、彼自身の古い経歴書と…それに付随する支払証明書です」
それは、私と直樹が出会う数年前
彼が別の地方都市の小さなITベンチャーにいた頃のものだった。
その伝票には、一円の狂いもないはずの直樹の計算にしては
あまりにも不可解な「桁違いの入金」が記録されていた。
「……何、この1,000万円。当時の彼の給与水準ではあり得ない額だわ」
私は、かつて九条さんから引き継いだ裏の情報ルートと、山崎さんの人脈をフル活用し
直樹の「前史」を徹底的に洗い直した。
一円単位の誤差も許さないはずの彼が、なぜこれほどまでの大金を手にしたのか。
調査を進めるうちに、私の心臓は嫌な音を立てて早鐘を打った。
12年前、その地方都市で起きた「未解決の顧客情報流出・売却事件」。
当時
その会社のサーバー管理をしていたのが直樹であり
流出事件の直後、犯人が見つからないまま会社は倒産。
直樹は、その「倒産した会社の犠牲者」という顔をして、東京の現勤務先へ転職してきたのだ。
「……まさか。直樹…」
彼は私と出会う前から、人を騙し、組織を食い潰し
その死体の上に立って自分を磨き上げる「寄生型の怪物」だったのだ。
私との結婚も、私の父の会社を狙うための
壮大な「初期投資」の一つに過ぎなかったのかもしれない。
「詩織さん、さらに調べたところ……その事件で流出した情報の中には、当時病気で療養中だったある政治家の個人情報も含まれており、それが原因でその方は政界を引退、失意のうちに亡くなっています」
私は、手元にある直樹の「人生の帳簿」を、震える手で見つめた。
不倫、モラハラ、横領……
そんなものは、彼の悪行の氷山の一角でしかなかった。
彼は、自分を有利に見せるための「物語」を作るために
12年も前から、一円の誤差もなく他人の人生を『消却』し続けてきたのだ。
(やっぱり、更生なんて言葉が届くような相手じゃなかった)
その時、医療刑務所から緊急の連絡が入った。
『直樹被告の意識が戻りました。彼は、真っ先にあなたとの面会を希望しています。……「隠していることがある、詩織ならこの価値がわかるはずだ」と』
彼は、まだ私と交渉できると思っている。
自分の「過去の犯罪」という爆弾さえも、私を揺さぶるための資産だと思い込んでいるのだ。
「……会いに行きましょう。ただし、私が行くのは彼を救うためじゃない」
私は、父の形見の万年筆を握りしめた。
その万年筆は、直樹のような「虚飾の数字」を書くためのものではない。
真実という名の、逃れられない『判決』を書き込むためのものだ。
【残り38日】
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