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私
の名前は真野理人(まのさと)。高校一年生だ。
今日から新学期が始まるわけだが、クラス替えがあるせいなのか、いつもより騒がしい気がする。まぁ新しい環境になるわけだし、そういう気持ちにはなるかもしれないけどね。
「おーっす! おはよう!」
教室に入るなり俺に声をかけてきたのは友人の伊波慎太(いなしんた)だった。
「おっす、シンタ。お前と同じクラスで良かったよ」
「あはは、オレも同じこと思ってたぜ?」
俺たち二人は中学からの付き合いで親友同士である。
「それじゃ早速だけど、席に着こうか」
「そうだな」
そう言って俺は自分の席に座ったのだが……その瞬間、机の中に何かが入っていることに気づいた。
なんだろうと思いつつ引き出しを開けるとそこには一枚の手紙が入っていたのだ。
『放課後屋上に来てください』
綺麗に整った字でそう書かれていた。
これは俗に言うラブレターというものだろうか? だとしたら初めて貰ったことになるんだけど。
しかし一体誰がこんなことをしてきたんだろうか。少なくともうちのクラスの女子ではないと思う。そもそも女子の知り合いがほとんどいないし。
それにしてもこれを書いた人は随分と勇気のある人のようだ。男子に向かって告白するという行為はなかなかに難しいものだからね。僕なんかだったらたとえ振られてもいいやって気持ちでようやく言うことができると思うよ。それだけに相手の反応次第では今後気まずくなったりするかもしれないわけだからさ。
でもその人はそんなリスクを背負ってまで自分の想いを伝えてくれたんだよね。本当に凄いことだ。僕はそこまで他人のために頑張れる自信はないかな。もし仮にそれが好きな人のためとか友達の為だとしたら……うーん、やっぱり無理かも。
それはともかく、この話を読んでいてふと思ったんだけど、僕達にもこんな時代があったんだよなって思うと感慨深いものがあるね。今となってはとてもじゃないけど考えられないことだけど。あの頃はみんなが純粋に恋愛をしていた気がするよ。少なくとも僕の周りの人達はそうだった。
今ではすっかり恋なんて言葉を口にすることさえ恥ずかしく感じるようになってしまっているけれど、それでもまだどこかでは諦めきれてない自分がいて、どうしても忘れることができないままずっと抱えている気持ちがある。それはもう叶うことがない願いだと分かっていても捨てられなくて、だからといってそれを伝えることもできないから結局は自分の中で燻らせ続けるしかない想いなのだけど……でもやっぱり僕は今でも心の片隅で願っているのだ。
いつか僕にも素敵な出会いが訪れて、その人と本当の意味で結ばれることができたらいいな――と。
だけど同時にこうも思う。
もし仮にそれができたとしても、その時はその人と一緒に歩む人生の中できっと何度も別れを経験しなければならないのだということを。そして最終的にはまた独りぼっちになってしまうということを。
そう考えるととても恐ろしくなって身震いしそうになるのと同時に、どうして自分はこんな辛い思いをしなければならないのかと泣きたくなってきて、自分で自分のことが嫌になる。
僕はいつからこうなったのだろうか? 少なくとも小学生の頃までは違ったと思う。
しかし、中学に入った頃からだろうか? その辺りの記憶が曖昧になっている。何か理由があったはずなのだけれど、それが思い出せないのだ。
忘れてしまっただけなのか、それとも本当に無かったことになってしまったのか……。
ただひとつ言えることは、今の僕には過去の記憶がないということだけだ。
だから、今の自分が本当の自分なのか分からない。
それでもこうして生きていかなければならないのだと思うと、少しばかり辛くなる。
いっそ何もかも失ってしまった方が楽だったかもしれないとさえ思うこともあるくらいだ。
だけど失ったものを嘆いても仕方ない。
今あるものを大切にしていこうと思っている。
今日もまたいつものように学校へと向かうべく玄関を出ると、そこには幼馴染みの結月真帆がいた。
彼女は僕のことを待っていたらしく、こちらを見ると嬉しそうな笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「やっと会えたね! ずっと待ってたんだよ?」
そう言う彼女の表情からは喜びの色しか読み取れない。まるで僕に早く会いたかったかのような口ぶりだった。僕はそれに違和感を覚えながらも言葉を返す。
「……えっと、君は誰なのかな? どうして僕のことを待ってたりしてたんだい?」
すると彼女は少し困ったような顔を見せた後、「忘れちゃったのかぁ~」と言ってから言葉を続けた。
「私の名前はアネモネだよ。ほら、一緒にお花見に行ったじゃない!」
――お花見? そんなもの彼女と行った記憶はないのだが、何かしらのイベントには付き合わされていたということだろうか。しかしそれならばもっと別の言い方をするはずだと思う。それに彼女が嘘をつく理由もないはずなのだが。
「ごめん、やっぱり思い出せないよ」
「そっかあ、じゃあさ、これから二人で色んなことしようよ。きっと楽しい毎日になると思うんだよね」
彼女――アネモネは楽しげに笑いながら言った。
――何を言っているんだろう? 正直言って理解できないところは多いけれど、悪い人ではなさそうだと思った。
――とりあえず友達になってみる? 僕は彼女に声をかけた。
『こんにちわ』
彼女は僕を見ると嬉しそうに笑った。
彼女の笑顔はとても可愛くて、まるでひまわりみたいだった。そのせいなのか分からないけど、僕は彼女が好きになった。
それから彼女とはよく話をするようになった。話すようになって分かったことだけど、彼女は少し変わった人だった。
例えば僕のことを変だとよく言う。
「ねぇ! なんであんたがこんなところにいんのよ!」
今日だってそう言われたばかりだ。