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夜刀は、錆の都の暗闇の中を一人歩いていた。彼は、骸教団の任務を完遂するために、数々の霊体やゴーストバスターとの戦いを重ねてきた男である。しかし、今夜はいつもとは違う、不吉な空気が漂っているのを感じ取っていた。
「……まさか、俺に死相が出ているとはな」
夜刀は薄笑いを浮かべながら、冷え切った空気の中に囁いた。彼は骸教団の「暗影部隊」のリーダーとして、強力な霊体を操る術を身に着け、数多くの敵を無慈悲に葬ってきた。しかし、最近感じる体の異変が、どうにも腑に落ちない。身体の奥底に眠る異能が鈍り、力が弱まっていくのがわかる。
突然、背後に不気味な気配が漂う。夜刀が振り返ると、そこには彼が見覚えのある黒い霊体が、ぼんやりと浮かび上がっていた。それは、かつて彼が支配下に置き、無数の命を奪わせた「死霊の残滓」だった。普段であれば彼の命令に従う霊体だが、今夜は様子が違う。まるで、彼を狙うように闇の中でうごめいていた。
「……お前ら、俺を喰らうつもりか?」
夜刀は苦笑し、己の掌に霊力を集中させた。しかし、いつものように力が湧き上がってこない。それどころか、彼の体から霊力が抜き取られるような感覚がじわじわと広がっていく。
「カラグ様の……お呪術か……?」
その瞬間、夜刀の頭に閃いたのは、骸教団の高位司祭・カラグの影だった。彼は自分の異変の原因が、教団内部にあることを理解した。背信者に対する「呪死」――カラグの秘術であり、教団を裏切る者に対する絶対的な罰。その者の霊力を反転させ、自らの霊に取り込ませるという、恐ろしい術である。
「冗談じゃねぇ……!」
夜刀はかつての霊力を取り戻すため、必死に体内の力を奮い立たせようとする。しかし、どれほど抗おうとも、霊力が体を離れていく感覚は止まらなかった。目の前の死霊の残滓たちは、今や彼に襲いかかろうと牙を剥いている。
「教団のために尽くしたってのに……!」
彼の叫びは虚しく、冷たい夜の空気に吸い込まれていった。霊体が彼の首筋に喰らいつき、体の奥から力をむしり取るように侵食していく。彼は最後の力を振り絞って、己の異能「暗影の刃(やえんのやいば)」を発動しようとするが、その刃はあっけなく霧散し、虚空に消えた。
「……ふざけるなよ……カラグ……!」
その名を呟くとともに、夜刀の目は闇に閉ざされた。彼の体は虚無の中で崩れ落ち、静かに路地裏の地面に倒れ込む。その瞬間、死霊の残滓たちは彼の体を包み込み、彼の霊力を啜り続けた。
やがて、夜刀の体はまるで朽ち果てた鉄のように錆びつき、地面に散り散りに溶け込んでいった。彼の存在はもはやこの世に痕跡を残さず、ただひっそりと消えていく。しかし、その残骸の上には、骸教団の呪いの痕跡だけが不気味に輝いていた。
一方、カラグは教団の地下で冷たく微笑んでいた。彼は夜刀が息絶えたことを察知し、満足げに祭壇の前で手を合わせる。
「裏切りの種を払ったまでだ。我が教団に従わぬ者には、死あるのみ」
彼の背後で、信者たちは恭しくひれ伏し、呪詛のような祈りの言葉を口にしていた。夜刀という一匹の反逆者が消えたことで、教団内の秩序は再び統一されたかのようだった。カラグにとっては、忠誠心と命を試すための犠牲に過ぎなかったのだ。
こうして、夜刀は教団の粛清の一環として、静かにこの世から姿を消した。しかし、彼の怨念は、未だ教団内に渦巻いているかのように感じられ、やがて錆の都を漂い続けることとなる。
教団は新たな段階へと進み、錆の都を恐怖で支配するその計画を一層深めていった。