「気分が乗らなかった」
これは、重症じゃない?
あまり変装もせずに、駅まで迎えに来るくらいだし。
「大丈夫ですか?今日の夕ご飯は、消化の良いもの食べましょう。身体の温まるもの、作りますね」
早く帰って奏多さんを休ませなきゃ。
私の言葉を聞いた彼は
「バカ」
とまた一言。
「バカってなんですか!心配してるのに」
今日の彼はいつにも増して言葉が足りない。
「今日は、デザート無しですよ?」
その瞬間、彼はピタッと歩くのを止めた。
あっ、やばい。
怒られる。
「帰ったら、覚えておけよ?」
それだけ言って再び歩き出す彼。
帰るのが少し億劫に感じた。
しかし、先ほど絡まれていた時に助けてくれたこと、迎えに来てくれたことがそれ以上に嬉しかった。
「奏多さん。最初に言えなかったけど、迎えに来てくれてありがとうございます。嬉しかった」
後ろ姿の彼にそう伝えた。
が、反応なし。
そんなに具合悪いのかな。
心配になりながらもマンションに一緒に帰宅をした。
奏多さんの次に靴を脱いで、家の中に入る。
廊下を数歩歩いたところで、正面からこちらを向いている彼と目が合う。もちろんサングラスはもう外していた。
「あのー?」
「お前な、俺、一応、芸能人だぞ?絡まれているお前を止めて目立ち、さらに普通に会話できるかよ。体調が悪いとか、そんなんじゃない。気づけ」
腰に手をあてながら、あきれ気味に話す奏多さん。
そうか、そういうことか。
私とあまり会話をしているところを見られちゃいけないんだ。
でも
「いつもなら店長のカッコをして変装してくるのに、なんで今日は軽装だったんですか?」
店長の姿をしている時は外でも普通に話してくれるのに。初めて一緒にスーパーに行った時は普通だった。
「なんか、ダサいカッコで迎えに行きたくなかっただけだ」
どうしてだろう?
まあ、話してくれない理由がわかって良かった。
「ちゃんと理由を考えられなくてすみません。でも良かった!本当に具合が悪いかと思っ……」
理由がわかり、油断をしていた結果、なぜか彼にキスをされていた。
「ん……!」
それもかなり強引なキスだった。
廊下の壁に押し付けられ、逃げ場のない状態。
一旦唇が離れる。
「奏多さん?」
まだ私は、壁に押し付けられている。
はぁと彼はため息をつき、私から離れた。
「なんですか。今のキスは?」
彼の予測不能な行動に戸惑った。
「キスしたかったから、しただけ」
そう言って彼は、リビングに行ってしまった。
私の部屋はリビングより手前にあるため、自分の部屋に入り、急いで合宿の荷物を片付けた。
片付けを終わらせ、リビングに向かい、夕ご飯の支度を始めようとエプロンをつける。
リビングでは、奏多さんがソファーに座りながらスマホを見ていた。
「奏多さん。夕ご飯、食べたいものありますか?」
とりあえず、ご飯だけでも先に炊こうと思い、お米を研ぐ。
「疲れてないのか?無理に作らなくてもいいぞ」
やっぱり、今日の奏多さんはおかしい。
そんなこといつもなら言わない……と思う。
「ご飯作るのは、好きなので大丈夫です。特にないなら、チキン南蛮とかどうですか?奏多さん好きそう」
ちょうど鶏肉があったので、提案をする。
彼の手が止まり
「チキン南蛮……。食べる」
彼の反応も悪くない。
「わかりました!じゃあ、作りますね!」
「奏多さん、夕ご飯出来ましたよ?」
ソファーで寝てしまっていた彼に声をかける。
「ん、行く」
目を擦りながら、キッチンの前の机に座る彼。
「美味そう……」
チキン南蛮、サラダ、お味噌汁、ご飯を並べた。
「いただきます」
二人で手を合わせ、食べ始める。
「美味い!」
彼が一言、感想を述べてくれた。
「良かった」
そういう私も同じ物を食べているが、味付けは悪くないと思う。
「やっぱり、お前の飯が一番美味い」
奏多さんが「おかわり」とお茶碗を私に差し出す。
「嬉しいこと言ってくれますね。ありがとうございます」
ご飯が美味しいと言ってくれるのは、私も嬉しい。
「花音、また作って?チキン南蛮」
「はい。もちろんです」
最近、少しわかったことがある。
彼が甘えたい時は、私を名前で呼ぶのだ。
やっぱり「お前」で呼ばれるより、名前で呼んでもらった方が私は嬉しい。
だから、その瞬間が好きだった。
夕食が終わり、一旦片付ける。
「奏多さん、デザート出してもいいですか?」
「うん」
デザートは、手抜きになってしまったがアイスクリームにお土産のクッキーとブルーベリージャムを乗せたもの。
「美味い」
彼が満足そうだからいいか、そう思う。
デザートも食べ終わり、お土産を渡そうと彼に話しかける。
「奏多さん。これ、お土産です」
袋ごと渡した。
「何を買ってきてくれたんだ?」
彼は中身を確認する。
お土産の中身は、全部食べ物になってしまった。
クッキー、チョコクランチ、マカロン、ドーナツ。
「仕事に持って行って食べてください」
「お前の分は?自分の分、買ってきたのかよ?」
私の分?
「自分にお土産なんて買いませんよ。さっきデザートの時にクッキーもらったし」
「私がお土産を渡したい人なんて、奏多さんしかいません。全部奏多さんのです」
彼はしばらく無言だった。
もしかしてお土産の選び方が悪かった?
コメント
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この2人尊い🤦♀️💓