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立秋 芽々(りしゅう めめ)
219
『ミステリークイズ②』
───何故?
───どうして?
疑問は生じるが、答えは出ない。
蛍太がくれたクイズ。
そこに書かれた人物が遺体で発見された。
右手も無いという。
(これは”偶然”なのか?それとも蛍太が……)
走馬灯のように、蛍太と過ごした日々が頭の中を駆け抜けていく。
自分でも混乱しているのがよくわかる。
今日が日曜日でよかったと心底思った。
「蒼(あおい)!コーヒーがっ」
珠奈(みな)の声で我に返る。
視線を下に向けると、マグカップからコーヒーが溢れていた。
「う、わっ!」
慌てて傾けていた電子ケトルをもとに戻す。
幸い、そこまで被害は大きくなかった。
「大丈夫?火傷とかしてない?」
珠奈が台拭きを持ってきたので、それを受け取りこぼれたコーヒーを拭き取る。
「あ、ああ…大丈夫。なにやってんだか…」
ひとり呟いて、コーヒーに口を付ける。
安いインスタントだが、止まった思考回路を動かすには十分だった。
「はぁ……」
小さく息を吐く。
「あれ?どこか出かけるのか?」
珍しくめかし込んだ珠奈を見る。
「今日は真姫(まき)とランチするって言ってなかったっけ?」
「あ……そうだった。ごめん」
すっかり頭の中から抜け落ちていた。
「昨日まで採点地獄だったから疲れてるんだよ。あ、車、使っていいよね?」
「うん、いいよ。運転には気を付けて」
「あと、冷蔵庫の中にプリンあるから食べてね」
「ありがと」
それだけ言うと珠奈は足取り軽やかに家を出る。
その後ろ姿を見送って、俺はリビングのソファーに腰を下ろした。
テレビでは、まだ霧島唯(きりしま ゆい)についてコメンテーターたちが話していたが、内容は入ってこない。
俺はもう一度、蛍太がくれた便箋を見つめる。
この字は間違いなく、蛍太のものだ。
なら、何故、蛍太は知っていたのか。
亡くなった人の名前だけではなく、右手が無いことも当てている。
それは、”偶然”の二文字では片付けられないことだ。
(蛍太が、あの蛍太が犯人なのか?……だったらどうして、人なんか殺した……)
誰に対しても優しくて、ちょっと頼りない雰囲気のある蛍太が誰かを殺すなんて俺には想像すらできない。
俺は視線をテレビに戻す。
そこに映し出された霧島唯という女性は、可愛らしい人だった。
(蛍太の元カノとか?別れ話が拗れて…なんて、何年前にサスペンスドラマだよ…)
頭を雑に掻きむしる。
(何か理由があるはずだ。蛍太が、もし蛍太が犯人であるならば、そうしなければならない理由が…)
そんなことを考えながらコーヒーを飲む。
二日酔いの体にコーヒーの苦味が広がると、あることに気がついた。
”次に殺されるのは一体誰で、何を失うのでしょう?”
それは、クイズの最後に書かれていた言葉だ。
(もしかして、蛍太は……止めてほしいのでは?これを解いて最後の犠牲者を出す前に……。あ、いや、さすがにそれは小説の読みすぎだ。だったら最初から助けてくれって蛍太なら言ってくるだろ…)
俺は自室からノートパソコンを持ってきて、被害者の名前を打ち込む。
(名前や文章を並び替えると最後の犠牲者がわかるとか…そういうことなんだと思うんだが……)
しかし、名前を並び替えたりローマ字に変換したり、文字の入れ替えもやってみたりしたがどうやっても人名にはならない。
それに何より、この”右手が無い”というのが引っ掛かる。
現実の遺体からも右手が失くなっていた。
これに何かのメッセージ性があるのだろうか。
(情報が足りないな……)
俺は、片っ端から被害者の情報を集めることにした。
一人目の霧島唯は、今朝のニュースの通り。山中で遺体が見つかった。
死因は左脇腹を刺されたことによる、失血死。
亡くなる前、霧島は婚活パーティに参加しており、一緒にタクシーに乗って帰ったという男性に詳しい事情を聞いているという。
(彼女はこの男性に殺されたか、あるいはこのタクシー運転手が……もしかしたらこのどちらかが蛍太…だったり?いや、決めつけるのは早いな)
俺は頭を横に振って、次の情報を探した。
二人目の小宮祥太(こみや しょうた)の名前には見覚えがあった。
今年のゴールデンウィークに起こった、同級生惨殺事件の生き残りのはずだ。
これは、いじめっ子が自分の悪事が世に出るのを恐れた凶行だと報じられていた。
しかし、この事件が起こった別荘の持ち主である小宮祥太は事件後行方不明となっている。
もう一人、小坂という子も生き残っているが彼は頭部に重傷を負い今も意識不明の状態で、あの別荘で何が起こったのか真実は明らかになっていない。
(彼は、蛍太との接点は無いように見える……。それにしても、どうして彼が殺されなければならないのか……実は彼がいじめの黒幕だったとか?……いや、これも推測の域を出ないな)
三人目の大西茂(おおにし しげる)の名前も知っている。
優秀な警察官だったが、過去に子供にわいせつな行為をしようとした男性に何度も暴行を加え重傷を負わせたことからクビになっている。
生徒たちからは「ハムおじさん」の愛称で慕われ、いつも公園のベンチに座っていて俺も何度かその姿を目撃している。
四人目の佐々木志保と五人目の平良徹の二人に関しては、調べても何の情報も出なかった。
「……はぁ〜…」
息を吐いて、大きく背伸びをする。
一個人が得られる情報はこの程度だ。
俺は立ち上がって冷蔵庫に向かい、珠奈が買ってきてくれたプリンを手にして戻る。
糖分を摂取すれば少しは何かいい考えが浮かぶかと思ったが、大した変化は得られない。
「調べれば調べるほど、わからなくなる……蛍太の狙いも……」
俺はポツリと呟いて、プリンの甘さをコーヒーの苦さで喉の奥へと流し込んだ。
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