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私は服と同じドルガバのグレージュの小さなバッグを持っていて、その中にリップとスマホ、ハンカチとティッシュを入れている。
それとは別に、恵の誕生日プレゼントの袋を持ってきていた。
贈り物はデパコスの下地、私のイチオシのお菓子、推しハンドメイド作家さんのピアスだ。
自分としては数少ない友達の誕生日祝いなので、大盤振る舞いした気持ちでいる。
(……けど、ホテルやレストランの凄さに、完全に埋もれてる……!)
ひい、となった私は、すっかり涼さんの所の高級飼い猫になった彼女が、私のプレゼントで喜んでくれるか、自信をなくしている。
(今思えば、同じ下地持ってそうだな……。アクセサリーもハイブランドの物を持ってそうだし。……お菓子は裏切らないと思ってるけど)
夜景を見ながらぼんやりしていると、尊さんに声を掛けられた。
「どうした? 元気ないな」
「ん……。恵へのプレゼントを持ってきたんですが、私が渡す物よりずっといい物を涼さんから贈られてそうだな、と思いまして……」
自信なさげに打ち明けると、尊さんは少し意外そうに目を瞠ったあと、小さく溜め息をついてから言う。
「そこは自信持っとけよ。女性同士の友情と、男との関係は比べられるものじゃないだろ? たとえば朱里が俺からもらったコスメを、中村さんからもらったとしてどう思う? 中村さんが一生懸命朱里の事を想って用意したプレゼントを、彼女が『篠宮さんからもらってたらごめん』って遠慮してたら、どう思う?」
そう言われ、私は少し考えてから「……うん」と頷いた。
「恵を巡って、涼子とタイマン張ります」
「なぜそうなる」
尊さんはビシッと突っ込んだあと、破顔した。
その時、個室のドアがノックされ、スタッフさんが「お連れ様がお見えです」とドアを開けた。
「わあ……。可愛子ちゃんだ」
私はおっかなびっくりという様子で個室に入ってきた恵を見て、思わずそんな感想を漏らした。
「わあ……、わあ……、恵、可愛い」
私は立ちあがり、両手で拳を握ってブンブンと上下に振るという、謎のアクションをかましながら動揺する。
いつもはベーシックなパンツスタイルの恵が、ハイブランドのワンピースにルブタンのヒールを履き、煌びやかなジュエリーを身につけて登場したものだから、驚いたし、可愛くて堪らず、嬉しいを通り越して自分のテンションが分からなくなっている。
「涼さん、グッジョブ!」
ビッ、と親指を立てると、こちらもビシッとキメた涼さんが、ウインクをしてサムズアップし返してくれた。
「尊さん、尊さん、恵と二人で写真撮ってください」
「OK」
尊さんは立ちあがると、「どうせなら夜景をバックにしたらどうだ?」と提案する。
「それもそうですね」
私は恵と手を繋いで個室の空いている空間に移動し、彼女に寄り添ってピースする。
「恵もピースして」
「お、おう」
いまだカチコチになっている恵は、ぎこちなく頷く。
「尊さん、足長効果のためにしゃがんで撮ってください」
「了解。優秀なカメコになる」
彼がしゃがむと、その隣で涼さんが物凄いローアングルでスマホを構えてきた。
「俺も撮ってあげる」
「涼さんは自分が写真を撮りたいだけでしょ」
すかさず恵が突っ込み、彼は「えー、なんで分かるの」と唇を尖らせる。
「はい、3、2、1……」
尊さんがカウントし、私は笑顔を作って恵に顔を寄せる。
二人とも、まさにカメラ小僧のように、何回も角度や高さを変えてパシャパシャ撮ってきた。
「もういいですよ。カメラロール埋まっちゃう」
そう言ったあと、涼さんが満面の笑みで女性スタッフさんに声を掛けた。
「すみません、せっかくなので四人での写真を撮っていただいていいですか?」
「は、はい」
女性スタッフさんはちょっとポーッとしていたけれど、涼さんに声を掛けられてハッと我に返ると、営業スマイルを浮かべる。
そのあと、ポーズや立ち位置を変えて何枚か写真を撮ってもらったあと、ようやく席に着く事になった。
「すみません、いきなり撮影大会になってしまって」
尊さんが謝ると、彼女は「いいえ」と微笑む。
「記念すべきお誕生日ですから、記憶に残る素敵な夜にしていただけたらと思っています」
そう言ったあと、スタッフさんは「ドリンクメニューを持って参りますね」と言って一旦個室を出ていった。