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席に着いたあと、私は勇気を出して恵に紙袋を渡した。
「……あの、お誕生日おめでとう。……喜んでもらえるか分からないけど……」
おずおずと言うと、恵は軽く目を見開いたあと、クシャッと破顔する。
「何言ってんの? 朱里からのプレゼントなら、なんでも嬉しいに決まってるでしょ。全部宝物決定だよ」
「よ、良かったぁ……」
安心して椅子の背もたれに体を預けると、恵は「開けてもいい?」と尋ねてくる。
「勿論!」
そのあと恵はデパコスの下地、私のイチオシパティスリーの焼き菓子セット、夏女の恵に似合うと思った、向日葵モチーフのハンドメイドピアスを見て、嬉しそうに微笑んだ。
「沢山ありがとう! メイクはまだ勉強中だけど、朱里が今までくれたのも含めて、使いこなせるように頑張るね」
「うん」
その様子を、向かいから男性陣が生温かい目で見守っている。
「どうよこれ。恵ちゃん、俺がプレゼントした時にあんな笑顔見せなかったよ。朱里ちゃんにジェラっちゃう」
涼さんはボソボソと尊さんに言い、肩を叩かれている。
「……俺らみたいの、手厳しい系から言わせれば『金をかければいいと思って』って思われてるそうだから、要・女心の勉強だな……」
「マジそれな……。俺、そこそこ女心は分かってるつもりだけど、恵ちゃんが相手になると張り切っちゃって、財布の紐が緩みまくってノンストップ涼になる……」
イケメンスパダリの話を聞き、私と恵は顔を見合わせる。
そしてお互いの〝仕上がり〟を確認して苦笑いした。
「これはこれで、滅多にない体験をさせてもらったけどね」
「まぁね。望めば幾らでも用意しそうで恐いけど、たまに特別な時にやるから許せる気がする」
恵の言葉を聞き、涼さんはボソッと言う。
「特別じゃない時は許してくれないんだ……」
「毎日お祭りしてたら、ありがたみがなくなるでしょう」
「厳しい……」
そんな二人のやり取りを見て、私はクスクス笑っていた。
「恵、お母さんみたい」
私の一撃が効いたのか、涼さんはガックリとうなだれた。
「…………俺、子供…………?」
頭を抱えてマレー熊みたいになっている涼さんを見て、尊さんは横を向いて必死に笑いを堪えていた。
そのあと、ドリンクメニューを渡されたけれど、今回は四人ともお酒が飲める訳だし、料理に合わせてお店のオススメシャンパンやワインを出してもらおう、という事になった。
全員分のシャンパンが注がれたあと、私たちは恵に「おめでとう」を言って乾杯した。
「恵って私よりお姉ちゃんなんだね」
「……ちょっと。なんか照れるからやめてよ」
「お。恵がお照れタイムに入った。……お姉ちゃん」
口元に手を添えてポソッと彼女の耳元で囁くと、恵は真っ赤になって睨んできた。
「朱里がそういう事やると、変な気持ちになるからやめてよ」
恵の言葉を聞き、それまで私たちのやり取りを微笑ましく見ていた尊さんと涼さんが、スッと真顔になる。
「け……、恵ちゃん? なんちゃって兄弟が必要なら、俺が兄に……」
「兄はもう要らないです」
恵にスパッと一刀両断され、涼さんは無言で撃沈している。
「涼子になるしかねーな」
尊さんに言われ、涼さんは真剣な表情になった。
「やめてくださいよ。身長百八十五センチ近くある、筋肉質な男の女装なんて見たくありません」
「顔だけなら美人と言わせる自信があるよ」
「もういいですから。この話終わり」
恵が心のシャッターを下ろし、涼さんは悲しそうな顔をする。
「恵はかなり涼さんに慣れてきた感じだね? ランドでは恋心を自覚してうろたえて乙女だったのに、今は頼れるおかんみたいになってる」
そう言うと、彼女は少し気まずそうな顔をする。
「……別に慣れた訳じゃないけど、……こうやってあしらわないと、ただでさえ顔の圧が強いから」
「えっ? 俺そんなに圧の強い顔してる?」
涼さんは驚いて、両手で自分の頬を押さえる。
すると恵は嫌そうに言った。
「ただでさえ顔が整ってるのに、黙ってるだけで目をキラキラさせて、期待して私を見てくるからキツイ……。撫でられ待ちの犬みたい」