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燃え盛る炎と、一面の焼け野原。
無数に転がる屍を前に、ただ慟哭するしかできなかった。
どこで間違えたんだろう。
自分が寄宿学校なんて行かなければ。
自分がもっと情勢を深く受け止めていれば。
…自分が友達なんて作らなければ。
悔しくて、寂しくて、途方に暮れてしまって、どうしようもなかった。
1人は寂しい。
もし、また誰かと過ごせるなら…。
また、前みたいに戻れるなら…。
………終わらせてやる。
慟哭の中、自分でも驚くほど低く、地を這うような呪咀が出た。
それは、出かけていた願いをも覆って。
慟哭はやがて哄笑へと変わっていく。
自分から大好きなものを奪った、全てを……。
2025年。
ガラガラ、と玄関の戸が開く音が閑静な街並みに響いた。
蕎麦処と書かれた暖簾を右、左と差し込む。
風でたなびく暖簾を見て息をついた男…仁人は戻るために再び引き戸に手をかける。
「あ、吉田さん」
その時、不意に自転車に乗った男にこえをかけられ、驚いたように振り向いた。
「はい」
何事かと応じると、「郵便物です」と封筒を渡された。
…颯爽と帰ってたその後ろ姿に呆然と見送りをしながら、何事かと封を開ける。
「…トランプ?」
しがない蕎麦屋をやっているこの男は、吉田仁人。
世界でたった一つのヒーロー、『M!LK』のリーダー。
強靭な脚力を持ち、ジャンプをすれば山をも超え、キックをその足から繰り出されればどんな敵も海を超えて吹っ飛んでしまう。
口を開けばボスをも呆れさせる文句、そして極度の高所、海洋恐怖症が玉に瑕。
同時刻。
「山中先生ー、なんか届いてましたよ」
「…何これ」
植物園の中、訝しげに封を開ける柔太朗。
山中柔太朗。
M!LK唯一のヒーラー。
愛に生きる植物の研究家。
好きなものは愛ある山中ダービー、嫌いなものは愛のない山中ダービー。主に食虫植物の研究がメイン。
専門の植物を生かして攻撃、そして傷ついたメンバーの回復もする、超万能なヒーローだ。
少々クセの強いところが短所だ。
「太智ー、なんか貼られとるよ」
「あれ、ほんまやん」
「パジャマで登校してきたからちゃう?」
不思議そうに封筒を校庭で翳す太智。
職業小学生、塩崎太智。
ある日突然目からビームが出せるようになったM!LKの飛び道具。
そのビームは近接戦が多いM!LKのメンバーを支え、どんな固い壁さえも焼き尽くす。
小学生でいながらその思考は大人たちよりも地に足をつけており、メンバーからは年齢詐称の疑いをかけられている。
「…トランプ?なんや気味悪いなぁ」
休憩室で裏表とひっくり返して眉を顰める舜太。
M!LKイチの熱血漢、曽野舜太。
ミルザップのトレーナー。情に熱く、メンバーのことを一番愛してやまないザ・ヒーロー。
その細身からは想像がつかないほどの力持ちで、アフリカゾウを片手で持ち上げるとかなんとか。
筋肉だけではなく英語や天気などにも明るい、少々サイコパスなインテリボーイでもある。
「…これは」
飛行機が空飛び立つのを窓越しに見ながら封筒を手にする勇斗。
最年長、佐野勇斗。
普段はパイロットとして忙しい日々を送る彼もまた、マサイ族ですら目で追うことすらできない瞬間移動のできる、驚異的身体能力の持ち主だ。
この地球を愛し、圧倒的正義感に生きる、自己犠牲しがちなヒーローである。
そして空いた片手で何かをスマホに打ち込んだ。
『招集』
「…で、これを並べると?」
「ボスが言ってたよね、並べたらわかるって」
閉店後の吉田蕎麦処で9枚のトランプを広げる。
「見たことない顔」
「知らん人やなあ。服もなんか今っぽくない」
9枚に描かれたトランプの絵…もとい写真を、太智が覗き込む。
するとあることに気づき、ひらりと裏に返して見せた。
「これ、英語じゃない?俺読めんわぁ」
「舜太、舜太こっち来て。お前英文得意っしょ」
勇斗が舜太の背中を押し出す。
「これWやろ?大文字やからこれが冒頭で…」
「何お前、英語できんの?」
意外そうに仁人が声を上げると、隣にいた柔太朗がかわりに答えた。
「頭いいよしゅんちゃん。英検準1だよ」
「ええ、すご」
「できた!けど…」
5人はその文字を見て、怪訝そうに呟いた。
カードに書かれた文字を。
「Who is the Joker?」
ボスからの指令は、実に不思議なものだった。
リーダーとして拝命された仁人は、早速基地へ出向いた。
『………とある街の調査へ行ってもらいたい』
どこの街ですか。
『Z地点…今は現存しないが』
現存しない?
『150年前に滅亡している』
そらまたハードな…。で、なんでそんなところへ?
『最近時空の歪みが多発しているのは知っているか?』
ええ、まあ。
『おそらくその原因がここにある。ここにいる9人の男の誰かが、この鍵を握っているのではないかというのが、本部の見方だ』
…なるほど。
『そこで、君達にはある9人に接触をし、誰がその原因となっているのか探ってもらいたい』
了解です。
『ああ、そうだ。その「本人」から手紙が届いているが、見るか?』
え?本人が自分でネタバレしてるんですか?
『ネタバレとか言うな。恐らく今後も君たちの元へ送ってくるものと思われる。重要な情報源となるはずだから、必ず目を通し、管理はくれぐれもしっかりするように』
はい、絶対俺以外に投げます。
『君達にはこれを。…危ない時、君たちを守ってくれるはずだ』
「…で、スペードのカードを渡されたってこと?」
馬車の中で、太智がカードをひらひらとさせながら覗き込んだ。
「大事な時それを出してみろって言ってたけど詳しく言ってなかった。聞いたんだけどはぐらかされてね」
「へえ。なんだろうね」
勇斗もカードを眺めてつぶやいた。
「あと、手紙も預かった」
「主犯から?」
「そう。今送ったから読んどいて」
「はーい」
そう言ってスマホを取り出してファイルを確認する。
その時、馬車の窓からブワッと風が吹き抜ける。
「うわっ」と呟いて目を細め窓を見た仁人と同じタイミングで、勇斗も顔を上げて窓の外を見た。
その時、1人の青年を目にした。
陽で茶色がかった黒髪。
真っ白な服を着て、幼い瞳がこちらを見ていた。
意志の強い眉と澄んだ瞳に息を呑む。
「勇斗?」
その呼びかけに我に返る。
不思議そうに見る4人に、首を振った。
「や、なんでもない」
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