新幹線の車内は、不気味な静けさに包まれていた。錆の都へ向かう乗客は誰もが無表情で座り、どこかしら異様な雰囲気が漂っている。窓の外には、見たことのない街並みが流れ、現実離れした風景が続く。鋼谷は意識が朦朧とする中、この奇妙な新幹線に自分が乗っていることに気づいた。
「あれ…俺は、ここで何を…?」
その瞬間、遠くから声が響いてくる。それは忘れたくても忘れられない、あの“クソ上司”の声だ。
「鋼谷!お前またやらかしたんだってな?ったく、だから言っただろ、ちゃんと報告しろって!お前が勝手に動いたせいでこっちがどれだけ迷惑してると思ってんだ?」
鋼谷の脳裏に、過去の光景が次々とよみがえっていく。あの日、初めて「錆の都送り」を宣告された時のこと、毎日のように叱責され、無理難題を押し付けられたこと。そして、何度も限界まで追い詰められ、それでも歯を食いしばって立ち向かってきた日々――
「あぁ、忘れられるわけないな…クソ上司、アンタのせいで俺はここまで来ちまったよ…」
彼の脳裏に、仲間たちの姿も浮かんでは消えていく。厳しくも頼もしい仲間たちと、命を懸けて戦った現場が蘇る。だが、それらの記憶も次第に薄れていき、新幹線の車内はますます静寂に包まれていく。
突然、鋼谷は車内の奥から誰かが歩いてくるのを感じた。振り向くと、そこには信じられない光景が広がっていた――
「あんた、どうしてここに…」
そこに立っていたのは、まさにその“クソ上司”だった。だが、彼の顔は普段の苛立たしげな表情ではなく、どこか穏やかで柔らかな笑みを浮かべている。
「鋼谷…お前、よくやってくれたな」
普段の彼からは考えられないほど優しい声が響き、鋼谷は目を見開いた。これが、死ぬ間際に見る“走馬灯”というやつなのか――自分でも理解できないまま、鋼谷は虚ろな思いで上司を見つめていた。
「お前はこの任務を背負って、よくやり遂げた。俺が助けに来たんだ、さあ、もう少し頑張ろう」
クソ上司がゆっくりと鋼谷に手を差し伸べる。その瞬間、新幹線の車内は明るい光に包まれ、鋼谷の体がふわりと浮き上がるような感覚に襲われた。
「クソ上司…いや、あんた…本当に、助けに来たのか…?」
その疑問に答えるように、クソ上司は強い力で鋼谷の手を引き上げ、満面の笑みを浮かべながら頷いた。そして、車内の風景が消え、鋼谷は再び現実へと引き戻されていく。
次の瞬間、目を開けると、そこにはクソ上司が立っていた。本物の上司が、錆の都の廃墟の中に佇み、戦場に降り立ったかのように強い眼差しをしていた。
「待たせたな、鋼谷。錆の都送りなんてふざけた話は終わりだ。さあ、行くぞ」
その言葉に鋼谷は一瞬戸惑いながらも、上司の背中を見つめ、心の奥からこみ上げる力を感じた。
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