テラーノベル
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9話
𝒈𝒐⤵︎ ︎
ヒロくんは、俺の様子に何も言わず、ただ静かに見つめていた。
その優しさが、俺の嘘を、罪を、暴いていくようで怖かった。
「無理して笑わなくていいんだよ、うり」
そう言って、ヒロくんの手が、ゆっくりと俺の頬に近づいてくる。
その手から逃げたかった。
でも、逃げたら、またヒロくんを悲しませてしまうかもしれない。
でも、触られても……
俺は、ただ息をのんで、その手が触れるのを待つことしかできなかった。
「やめて…! 触らないで…!」
俺は悲鳴のような声を上げた。
「俺が…っ、俺が触れたら、ヒロくんも…っ」
俺の言葉に、ヒロくんは少し目を丸くしたが、その顔に悲しみが浮かんだ。
「うり…」
俺は、じゃぱぱさんのことを思い出す。
俺を心配して、触れて、そして消えてしまったじゃぱぱさん。
同じことを、もう二度と繰り返したくない。
俺は震える声で訴えた。
「消えちゃうんだ…っ! 俺に触れたら、みんな、消えちゃうんだ…っ!」
ヒロくんは、俺の言葉をじっと聞いていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「…うん、知ってる」
「え…?」
ヒロくんは、俺が驚く間もなく、俺の頬にそっと触れた。
その手が、信じられないくらい温かくて、優しかった。
「大丈夫だよ、うり。俺、全部わかってるから」
ヒロくんは、俺の様子がおかしいことに気づいていた。
そして、その原因も、俺が言わなくても、きっとわかっていたんだ。
それでも、彼は俺から離れなかった。
「うり、今まで一人で、よく頑張ったね」
ヒロくんの温かい手が、俺の頬を優しく包み込む。
そのまま、俺を自分の方へ引き寄せ、優しく抱きしめた。
「やめて…! ヒロくん…っ!」
俺が叫ぶと、ヒロくんの身体が、じゃぱぱさんの時と同じように、砂のように崩れ始めた。
「嘘だ…っ、やだよ…っ!」
俺の胸に抱かれていたヒロくんの身体が、どんどん軽くなっていく。
「…うり…」
消えゆく身体から、ヒロくんの声が響く。
「…もしも、生まれ変わっても…、また一緒に笑ってくれる…?」
俺はただ、ヒロくんの消えていく身体を抱きしめることしかできなかった。
最後に残ったのは、温かい手の感触と、彼が残した優しい言葉だけだった。
もう、誰も信じられない。
俺の呪いは、優しさすらも罰するのだ。
「うっ…、ひぐっ…、うぅ…」
肩を震わせながら、枕に顔を埋める。
込み上げてくる嗚咽を、必死に喉の奥で押し殺した。
でも、止められない。
「っ…ごめ、なさ…っ…なんで…なんで俺が…っ…」
嗚咽が、喉から漏れ出して、静かな部屋に響く。
涙で枕はぐっしょりと濡れ、もう何も見えなかった。
じゃぱぱさん、ヒロくん。
二人とも、俺を心配してくれた。
俺が、一人で頑張らなくていいって言ってくれた。
俺を、抱きしめてくれた。
その優しさのせいで、二人は消えてしまった。
俺のせいで。
俺が、俺がみんなのリーダーを、そして友達を消してしまった。
俺の呪いは、もう二度と解けない。
そんなこと、最初からわかっていたはずなのに。
「うり」
声が聞こえた気がした。
ヒロくんの声だった。
幻聴だとわかっているのに、俺は顔を上げた。
そこに、ヒロくんの姿はなかった。
ただ、俺を呼ぶ優しい声が、頭の中で繰り返されるだけだった。
「もう…っ、誰も…っ、誰も俺に優しくしないで…っ」
誰にも、もう二度と、俺に触れてほしくない。
俺の背中の墨染桜が、まるで笑っているかのように、熱を帯びていた。
その熱が、俺の罪の重さを、改めて俺に突きつける。
俺は、この罪を背負って、一人で生きていかなければならない。
それが、俺にできる、唯一の償いなのだから。
コメント
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ひろくんまで消えちまったんか…… 続き楽しみに待ってます!