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都築七美
322
#夫婦
設楽理沙
981
#深澤辰哉
クリオネ?
132
保育園なのでお母さんたちも働いている人が半数くらいはいるよう
なのだが、16時頃のお迎えには仕事を終えてから来ているので、
帰りは知り合いに会うと彼女たちはしばしお喋りという気晴らしをして
帰るようだった。
苺佳は近所周りに娘と同い年で同じ保育園に来ている子がいないので
必然的にここで話込んで帰るほどの知り合いはいない。
娘を迎えに来て、先生と少し話して帰るだけ。
眞奈と園の入り口までの道のりを歩いていると聞こえてくる母親たちの
お喋りの中に『大林さんって……』と、あの彼女の名前が聞こえてきた。
その時、ちょうど眞奈が居残りの仲良しさんと立ち止まって
しゃべり出したので、意図的に聞こうなんて思っていなかったけれど、
彼女のことを聞いてしまう羽目になった。
『彼女、背が高くって目鼻立ちがはっきりしてて、カッコよくない?』
『うん、分かるぅ~、マニッシュコーデでよけい中性的魅力が
際立ってるっていうか、いいよね~』
『『『きゃははっ』』』
『私たまたま、この間彼女と少し話したんだけど、すごいよー。
眼を見てくらくらってきたもんっ。瞳の中に星が見えたのよ。
キラキラしてた』
『なんかそういえば、クォーターっぽいよね。
骨格なんかもさ、中性的プラス外国人の血、みたいな』
『ずっと思ってたんだけど、ほら宝塚の天海祐希に似てない?』
『『『似てるー!』』』
確かに見目麗しく美人というよりイケメンと形容したくなるような
容貌ではあるが、大林が同性から異性を見るような眼差しを向けられて
いたとは。
十代の頃から夫LOVEで結婚してから五年、これまで夫以外の異性に
余所見などしたことがなく、また見た目も内面も夫以上の異性と出会ったことのない
苺佳からすると不思議な感覚だった。
彼女たちの立ち話を聞いていると、大林にトキメイているような
話し振りなのだ。
苺佳からしてみれば、これまではまず宝塚というものに興味を持ったことがなく、
男役の女性を異性を慕うように好きになるという感情そのものが理解し難く、
そういう世界もあるのだと思うしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
――――― 苺佳自身入園式の日、大林から
「去年、外来に来てた人……かな?」
と鳶色の瞳を向けられた時、ドキドキするという経験をしていたのだが、
そこはカウントされなかった。
苺佳自身、忘れてしまいたいことだったから。―――――
きっと皆の注目の的である王子からあんなひどい言葉を掛けられたのは
100人くらいいそうな母親たちの中できっと自分だけなのだろう。
「ふんっ、何か素敵ぃ~カッコいい~、よ。
あんなへっぽこ野郎、ヤブ医者ぁ~」
立ち話している人たちの方に向けてキタナイ言葉で彼女のことを
罵っていたら、いつの間に? 自分のところまで戻ってきていた娘に
問われた。
「ママ、へっぽこ野郎ってなぁに?」
「えっ? へっぽこじゃなくて、ひょっとこ野郎って言ったのよ。
面白い人のこと」
「ふ~ん。ヤブ医者ってなぁ~に?」
「お医者様なのに病気を治せない人のこと。
ねぇ、眞奈、今日の晩御飯何がい~い?」
急いで話題を変えたけど、危ないあぶない。
子供の前で迂闊に口から思ってること出せないわね。
もう4才で人の話すことよく聞いてるもの。
気をつけなきゃだわ。
◇ ◇ ◇ ◇
ほんとは少し残念な気持ちだったのだ。
別に特別スター扱いしたいわけじゃないけど、周りの母親たちと
一緒になって『カッコいいよね』って言えたら良かったのだ。
へっぽこ野郎だのヤブ医者だの言わなければならない自分の立ち位置が
苺佳は残念でならなかった。
悪態をつきつつも、彼女たちの他愛のない会話を耳にした苺佳は
自然と彼女の佇まいを思い返していた。
そう、今耳にしたように彼女の瞳の色と輝きは顔の造形とマッチしていて
人を虜にする魅力がある。
頬から顎にかけてのラインが素晴らしい。
シャープで造形が美しく、前髪を上手く7:3に斜めにサイドへと全体的に流し、
毛先の跳ねているショートヘアーがそんな彼女を一層引き立てている。
耳にはBLACKの小さなピアスが嵌っており、服装がこれまた小粋な
マニッシュ風で高身長ときている。
宝塚の男役に嵌れる女性なら完全に彼女の虜になるのは必至だろう。
すごいな、彼女。
まだ入園式から一か月足らずだというのにこの人気振り。
なんだか分からないけど、モヤモヤする。
『あんな奴に人気があるなんて、人生舐めてるよ』
胸中の呟きに、ン?誰が人生舐めてることになるのかしら?
そそそ、大林だよ。大林はさぁ、人生舐めてんのよ。
と、むちゃくちゃな理論をぶちかましつつ、苺佳は眞奈と帰路についた。
◇お迎え
-翌日のお迎え時は午前中晴れていたのに、そのあとはお日様が顔を隠してしまい、
どんよりとした曇り空だった。
眞奈は比奈ちゃんと砂場で遊んでいた。
「ママ、もう少し遊んでてもいーい?」
「いいよぉ~。比奈ちゃんちのママが迎えに来るまでね」
そう言って大林さんを待っていたけれど、1時間過ぎても
彼女は現れなかった。
「眞奈、お買い物して晩御飯の用意もしなきゃいけないから
ぼちぼち帰ろっか」
「はーい。じゃあ、比奈ちゃんばいばいっ」
「ばいばい」
ちょっと比奈ちゃん、寂しそうだ。
一度は眞奈と帰りかけたんだけど、なんか気になって比奈ちゃんに
訊いてみた。
コメント
3件
ああもう、苺佳のモヤモヤがめちゃくちゃ伝わってきました……。周りのママたちが大林さんに「カッコいい」って盛り上がってるのに、自分だけ悪態つかざるを得ない立場、めっちゃもどかしいですよね。でも入園式でドキドキしたこと「カウントされなかった」って一文で、彼女の本心がチラッと見えてニヤリとしました。最後にひとりぼっちの比奈ちゃんを気にかける優しさも、この人の本質を感じさせてくれて良かったです。続きが気になります!