テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
「はぁ……どうしよ……」
リビングの床に座り込んだまま、レトルトは大きなため息をついた。
部屋にはノートPCと、ネットショッピングのページを開いたままのスマホ。
けれど、どれもピンとこない。いや、そもそも“着こなす自信”なんてない。
「パーティーって言っても、どんな服着たらええんやろ……」
ぼそりと呟く声に、誰も答えない。
普段、仕事は完全在宅。
Tシャツにパーカー、下はジャージ――それが”正装”だったレトルトにとって、
「きちんとした格好」なんて、もう何年も縁がない。
「やっぱ無理かも……」
頭を抱えてうずくまっていた時、ある言葉を思い出した。
『今度服を選ぶときは俺と一緒に行こう』
土砂降りの雨の中、キヨに抱きしめられて
言われた言葉。
今でもその時の事を思い出すの、ちょっと顔が赤らむ。
(あの時のキヨくん、かっこよかったなぁ)
「キヨくんに相談してみよう!」
さっきまでの暗い顔は嘘の様にレトルトの心は浮かれていた。
《レトルトLINE》
-キヨくん、仕事中にごめん。あとでちょっと話したいことがあるんだけど電話してもいいかな?-
送信してすぐ既読になり、3秒後には電話がかかってきた。
レトルトは驚いてスマートフォンを落としそうになる。
『レトさん、どうしたの?』
「き、キヨくん仕事は?電話してて大丈夫なの?」
『仕事なんてどうでもいい!愛する可愛い恋人が話したいって時に仕事なんてやってられるか!』
「も〜!ちゃんと仕事しなよー/////」
顔を真っ赤にしながら言うレトルトに
『さてはレトさん、今顔真っ赤だなぁ。照れちゃって可愛いんだからぁ』
電話越しでも分かるキヨのイタズラそうな顔。
キヨにはすべてお見通しのようだ。
レトルトは正直に打ち明けた。
「パーティーに着ていく服のことなんだけどさ…。俺ちゃんとした服……持ってないんだよね。どれがいいのか全然わからなくて。だから、キヨくんが嫌じゃなかったら…その…
一緒に選んでくれへん? 」
恐る恐る言葉を選びながら喋るレトルトとは対照きキヨの声は嬉々としていた。
『もちろんだよ!俺と一緒に選ぼ!あ〜嬉しすぎる。レトさんのお願いならなんでも聞いてあげたくなっちゃうなぁ。俺ワクワクしてきた!どんなのがいいかなぁ、ふふふ』
「キヨくん、ちょっと落ち着いてよ笑」
困った様に笑ったがキヨの嬉しそうな声に内心とても嬉しいレトルト。
『明日オフでしょ? 俺も休みだし出かけよか!レトさんに似合う服、一緒に見つけるから!』
「……ほんとに?」
『うん!てか、レトさんは何着たって可愛いし!』
何故か自信満々に笑うキヨに、レトルトはぷっと吹き出した。
「……じゃあ、お願いしてもいい?」
『もちろん!あ〜レトさんと服探しデートかぁ。絶対似合うやつみつけてやるぞー!
よし!デートの為にさっさと仕事片付けるか!』
「もう////キヨくん、はしゃぎすぎやって。
でもありがとう、凄い心強いわ」
電話を切ったあと、肩の力がふっと抜けて
ソファに倒れ込みながらキヨとのデートに心躍らせながら笑みが溢れる。
「よし!俺も残りの仕事片付けるぞー!」
《早く逢いたいな》
同じ思いで仕事に向かう2人だった。
『やっぱ、レトさんと買い物って新鮮だな〜』
駅を出た瞬間から、キヨはずっと上機嫌だった。
その軽快な足取りに、レトルトは苦笑いしながらも、どこか安心していた。
「そんなにはしゃいでたらこけるで?」
『だって、レトさんと“外デート”だよ? そりゃ嬉しいでしょ』
「まぁ、俺も…逢えて嬉しいけど…」
恥ずかしそうに下を向くレトルト。
『まーた照れルトなってるじゃん笑
よし!今日は目一杯楽しむぞー!』
そう言ってニカッと笑うキヨの横顔に、レトルトはつい微笑んでしまう。
思えば、キヨと外を歩くこと自体、珍しい。
連れてこられたのは、駅前の少し裏手にある、落ち着いた雰囲気のスーツ専門店。
ウインドウ越しにディスプレイされたスーツたちは、どれも形が美しく、レトルトには別世界のようだった。
「ここ……入っていいんかな、オレ……」
『もちろん。オレの行きつけ。担当さんもいるし、安心して』
そう言ってキヨがドアを開けると、すぐに店員が笑顔で出迎えてくれた。
キヨは慣れた様子で挨拶を交わし、レトルトをぐいっと店内へ導く。
――そこからが、レトルトにとって本当の戦いだった。
黒、紺、チャコールグレー。光沢のある生地、マットな質感、タイトなライン、クラシックなもの……
一着ごとに細かな違いがあって、どれが自分に合うのかまるで分からない。
「……なんか、全部オレには背伸びしすぎてる感じする」
鏡の前で肩を落とすレトルトに、キヨは隣からそっと声をかける。
『大丈夫だよ。レトさんが“いいな”って思えるやつ、絶対あるって』
「……うん」
いくつか試着を重ねて、そろそろ諦めようかとレトルトが思い始めた頃――
ふと、視界の端にある1着が目に留まった。
深い黒に近い落ち着いた色味。キヨくんの目の奥にある深い熱い黒に似ている。
細めのシルエットだけど、どこか柔らかさもある。
飾り気がないのに、印象に残る――そんなスーツだった。
「……これ、着てみていい?」
『綺麗な色。 めっちゃいいじゃん。似合うと思う』
レトルトはそっと袖を通し、鏡の前に立つ。
――予想外だった。
身体のラインがきれいに見えて、窮屈さもない。
肌の色とも相性が良くて、何より「自分で選んだ」ことが不思議と誇らしかった。
レトルトが鏡の前で、試着したスーツの前ボタンをそっと留める。
「……どうかな、これ……似合ってる?…」
声こそ控えめだが、レトルトの表情には確かな手応えがあった。
普段のレトルトとは少し違う、凛とした気配――
『……やばっ……』
後ろから見ていたキヨが、思わずぽつりと呟いた。
レトルトがゆっくり振り返るより先に、
キヨはすっとその背後に近づいて、軽く肩に手を添えた。
「……な、なに……?」
声を出すより早く、キヨの唇がレトルトの耳元にふっと触れる。
『…すごく、似合ってるよ』
その囁きは、体温を伝えるように近くて、
そのままキヨはそっと耳の後ろにキスを落とした。
「っ……!? ぅわっ、ちょ……なにすんねん……!」
レトルトはびくんと肩を跳ねさせて、一歩前へ逃げるように離れた。
鏡の中、頬どころか耳まで真っ赤に染まった自分の顔を見て、さらに目を逸らす。
「……そんなん……急にやめてよ…」
『いや、だって、似合いすぎて……我慢できなかった』
キヨはおどけるように笑うが、目は真剣だ。
レトルトのスーツ姿に、ほんとうに見惚れていたのだと、その目が語っていた。
「……もう……あほっ…」
ぼそりと呟きながらも、レトルトの唇の端が、わずかに緩む。
キヨに見つめられているのが照れくさくて、でもちょっと、嬉しくて。
その胸の奥が、じんわりと熱くなる――
納得のいく一着をようやく手に入れたレトルトは、
買い物袋を抱えてほっと息をついた。
「……やっと、決まったなぁ」
『よかったね、レトさん』
隣を歩くキヨは、どこか嬉しそうににやけながらレトルトを見つめる。
スーツ屋から出た夕方の街は、まだ少し暑く、けれど心地いい風が吹いていた。
レトルトはふと視線を上げて、歩道を並んで歩くキヨの横顔をちらりと見る。
「あとは……パーティーの日を待つだけ、やな」
小さく呟くその声には、不安も、緊張も、全部含まれている。
でも確かに、ほんの少しの期待も混ざっていた。
キヨはそんな彼の手を、自然に取る。
『うん。レトさんが来てくれるってだけで、もう俺は十分だけどね』
その言葉に、レトルトは目を瞬かせて、照れたように少しだけ笑った。
つづく
コメント
4件
パーティーで何がおこるか楽しみ!
なんて素晴らな表現、、ほんと大好きです!