「あっ! アックさん、ルティちゃんはどうなりましたか?」
ルティとのことが片付いた後、リリーナさんのいる所に戻ると彼女は直ぐに声をかけてきた。ドワーフとエルフの人垣は解散しているようだが、シーニャとミルシェ、それにサンフィアは正気を失ったままのようだ。
彼女のさじ加減がよく分からない。悪い人ではないとはいえ、リリーナさんはその辺をあまり意識していないんだろうか。
「ルティならおれの背中にいますよ」
ずぶ濡れになったルティはおれに抱きついてキスをしてきた。そのまま火の神アグニの力も返してきたこともあってか、疲労が一気にきて突然のように眠ってしまった。
とはいえ、ルティには火の精霊竜アヴィオルがついている。精霊竜が一部の力を取り除いたかのように、アグニの力だけおれに戻された感じだ。
とことこと可愛く歩きながら、リリーナさんがおれの背中に近づき確かめにくる。見た感じは悪い人には見えないのだが、おそらくこれは性格の問題だろう。
「ふむふむ。ルティちゃん、すっかり力を使い果たしちゃっていますね。魔石の姿が見えないということは、”覚醒”したんですね?」
「――まぁ、そういうことになりますね」
「警戒しなくてもいいですよ? 元々魔石が欲しいわけじゃなかったですし、ルティちゃんのことは期待していただけなんですから」
油断出来ないから警戒もしたくなる。しかしルティへの期待ということに関しては信じてもいいか。
「そこの三人についてはどうするつもりがあるんです?」
ルティへの想いは伯母だけあって強そうだ。だがシーニャたちを拘束していることは、決して許されることではない。
「そうですねぇ……、予定通り、一人ずつ戦ってもらおうと思います! その方が彼女たちの為にもなりますし、アックさんも不安があるはずです。特にミルシェさんのことについて!」
何から何まで厄介な人だな。この人もただの薬師というわけでも無さそうだ。
「それじゃあ、サンフィアは?」
「エルフさんはですね、禁じられている武器を隠し持っていまして~それでこちらとしても仕方なく。ですので、大人しくしてもらっているだけなんですよ~」
「意識はあるんですか?」
「はい、それはもう! とにかく暴れられまして大変でしたので。そのうち目を覚ましますよ」
なるほど。サンフィアはそういう理由か。自前の槍は渋々置いて来たようだが、短剣でも忍ばせていたってことだな。
「――で、シーニャを戦わせるつもりですか? 操った状態とか、あまりいい行為とは言えませんが」
ネーヴェル村へ入る前から仕組まれていたし、何かの狙いがあるのは分かる。しかし無意識状態の彼女たちを勝手に戦わせることにはさすがに憤りを感じてしまう。
「魔石は成長要素があります。ご存じですよね?」
「……まぁ」
「しかしアックさんは彼女たちの専用魔石を覚醒させてから何もしていないし、させていない。それでは駄目なんですよ!」
専用魔石となってから確かに袋に入れたままだが。
「駄目って何が――」
「アックさんがそこまでお強くなられているのに、ルティちゃんも含めて彼女たちは弱点を克服出来ていません。自分だけがお強ければいいとお思いですか?」
「……そんなことは」
痛いところを突かれた。シーニャにしても、ルティにしてもそれぞれ苦手なものがある。彼女たちが単独で戦うことを考えなかったわけじゃないが、弱点があっても強いと認識していた。
きっとリリーナさんはそのことを言っているはず。
「ですので、まずはシーニャさんと本気で戦ってもらいます」
「本気ってのは、魔法を使って……ですか?」
「もちろんそうですよ。拳でもいいですけど、公平じゃありませんし」
「いいですよ。そこまで言うならやりますよ」
シーニャも何だかんだで強い。うかうかしていたらやられかねないし、本気でやるしか無さそうだ。
「ルティちゃんはこっちで休ませますね。霧で魔法防壁を展開しますので、存分にどうぞ」
「……そうしますよ」
果たして魔法攻撃だけでシーニャを何とか出来るのか、やってみるしかないか。