店を出ると、外はすっかり夜の帳が下りていた。
冷たい夜風が頬を掠めるけれど、不思議と寒さは感じない。
「送ります。家まで」
「いえ、悪いですよ。電車で帰れますから」
「俺が、そうしたいんです。……もう少しだけ、あなたと一緒にいたいから」
そう言って、彼は私の隣をゆっくりと歩き出した。
付かず離れずの距離。けれど、触れそうなほど近く。
(……私なわけない、って、もう思いたくない)
彼が私に向けてくれる言葉や、視線。
それらを一つ一つ、信じてみてもいいのだろうか。
駅の改札の前で、私たちは立ち止まった。
「今日は、本当にありがとうございました。白河さん」
「こちらこそ。……あの、凪さん」
初めて名前で呼ぶと、彼は驚いたように目を見開き、それから、今日一番の幸せそうな笑顔を見せた。
「……おやすみなさい、結衣さん。また明日、会社で」
別れ際、彼は私の髪に、一瞬だけ指先を滑らせた。
魔法が解けた後のシンデレラのように、私は、彼が去った後の夜の街で、いつまでも立ち尽くしていた。
左胸の奥が、今まで経験したことのない速さで、うるさいほどに鼓動を繰り返していた。






