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…自分の名前は、『ナナシ』らしい、だってシハさんにそう呼ばれたから。
ホントの名前はあるけれど、その名前はもう誰にも呼ばれちゃ…いけないから。
だから…ね、ぼくはナナシ。
シハさんに頼まれた、風文さんのスパイと新しい子へのアドバイスをするために、ぼくは歩く。
その子の名前も居場所も言われていないけど、ぼくにはわかる。
ぼくの能力は、実質的に心を読むことができるから。だからシハさんはぼくをスパイにさせたがる。…でも、ぼくが優しいから、そんなこと出来ないってずっと思ってる。
だから、今回こそは…成功させなきゃ。
……シハが帰ってこない。いくらなんでも遅くないか…?周りもすっかり暗くなっているし…これは夜ってことでいいのか?
まあシハの様子を見ていれば、一日二日くらい、帰ってこなくても不思議では無さそうだが。
…やはり一白さんが分からない。あの人、会ったことがある様な気がするんだが、思い出せない。
かたん、とペンを机に叩きつける。今の僕の精製能力では文房具くらいが限界らしいとはわかったものの、実際どうすればいいのかも分からない。…まあ、なんとなく今自分から見てきたものを絵で描き起こしてみた。
過去の景色にも色が見えなくなって、もう色という存在を思い出せなくなってきている。
アカリさん以外に綺麗な色など知らなかったが、意外と不便かも知れない。色の区別が出来ないということは、もうこの運転免許証はどうやったって使い物にはならない。
この脱色された世界で、君を創り出すことだけを目標に生きている。
「…今日はもう寝よう。」
ようやく風文さんの診療所の前に着いた。着いてしまった。あぁ、ぼく…風文さんを裏切らなきゃいけないんだ…
あんなに優しくしてくれたのに…?
シハさんは、ぼくに何かしてくれたの…?
考えちゃ…、駄目なのに…!
シハさんが困ってたのはぼくのせいでしょ…なのに切り捨てずに…!
やめないと…こんなこと考えて、何になるの!
「…あ、あァ…!」
また、間違えるの…?もう嫌だよ…。
「っ…」
どうして自分のことも解決出来ないの…
あの時は上手くいったのに!
あの時…って、いつ…?
あ、れ…?ぼくはどうしてここにいるの…?
誰か、たす、け、て…
もとの、記憶もう、…。
思い出せない。ぼくのせいで、かあさんもとうさんも…
事故なんかじゃない…!ぼくのせいで…!!
みんな…死んだ。
ぼくを見て欲しいなんて思ったから…。。
…あれ、何考えてたんだっけ…、ぼく、このままでいいのかな…。風文さんの心なら、もっと強くて、もっと色んな人の役に立つんだ…。
ごめんなさい…風文さん。
ぼくは、ずっと風文さんの優しいところに憧れてました。ぼくみたいな自分勝手な人にもちゃんと接してくれたし、利用するようなこともなかったです。あなたは完璧でした。…だから、だからね、風文さん…。
ぼくは醜く歪な存在だから、あなたを見ているとどうしようもなく、あなたを消してしまいたくなるんです。
これからシハさんがあなたの敵になったら、あなたも醜くもがく日が来ると思います。
だから、あなたを裏切ります…本当にごめんなさい。
あなたのような完璧人間なんて、存在していいはずがない…!
気が付くと、風文さんと目があっていた。
それも、ぼくの知っている暖かくて優しい目では無い、出来損ないを見るような、煮えたぎる怒りを宿した目で…!
ドンッ!
「あぐッ…う゛ぅっ!?」
バチャアッと大きな音がして、目の前が赤一色へと変わる。
「…きみも、可哀想なやつだな…。」
痛くて痛くて霞む視界で風文さんがそう言った。風文さんは、完璧でも優しくもなかった…。そんなことなら、まだあなたに利用されて居たかったな…。ぼくの人生は、どうやったって、間違いしか起きない…。
風文さんは…目の前で、足を振り上げて…
思い切りソイツの頭を蹴り潰した。
「…ッ、胸糞悪いッ…!」
「何だって俺にアイツを殺させるんだよ…、ネガリシハム…ッ!」
…俺は、人生よりも長い、戦争の準備を始めた。