コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夏希や梨花ちゃんは、もう出社していた。
「おはようございます、恭香先輩」
「梨花ちゃん、おはよう」
「昨日、帰ってから頑張っていくつかコピーを考えてきたんですけどぉ。見てもらえますか?」
すごい……
私は何も思いついていないのに。
いくつか……だなんて。
「あっ、うん、ちょっと待ってね」
とりあえず、私はカバンを下ろして呼吸を整えた。
まだ正直、さっきの出来事を消化しきれてはいない。
「ごめんね。お待たせ、梨花ちゃん」
「大丈夫ですか? 恭香先輩、もしかして寝てないんですか? 顔が死んでますよ。寝不足は美容の大敵なんですから、気をつけなくちゃダメですよ。もうそんなに若くはないんですから」
朝からかなり厳しい言葉を浴びせられた。
梨花ちゃんには、他人を傷つけている……という認識はないのだろうか?
こっそりため息をつく。
「そうね……気をつけなくちゃね。そんなことよりコピー見せてくれる?」
「は~い!」
梨花ちゃんは嬉しそうに言った。
渡されたメモには可愛い字でいくつかのコピーが書かれている。
うわ、すごくいい――
見た瞬間に心で感じた。
梨花ちゃんには、やはりコピーライターとしての才能が溢れている。
先輩なんて言われている自分が急に恥ずかしくなった。
「こ、これとかいいと思う。お菓子のイメージに合ってるし、シンプル4のメンバーに言ってもらいたい感じだよね」
「本当ですか~! ありがとうございます! これ一番自信あったんです。嬉しいなぁ」
素直に喜べる梨花ちゃんがうらやましい。
きっと私なら、この10分の1くらいのリアクションしかできないだろう。
いや、100分の1……かも知れない。
「あとで石川さんに見てもらおうか。これからOKもらえると思うよ」
「は~い!」
私は自分の机に戻り、頭を抱えた。
「何してるんだろ……私」
小さくつぶやいた、その時、
「おはようございます」と挨拶しながら、本宮さんと一弥先輩が一緒に入ってきた。
2人とも背が高くてカッコ良くて、一気に部屋が華やかな雰囲気に包まれた。
女子社員達も、2人の登場に、自然に笑みが浮かんでいる。
「恭香、朝から梨花ちゃんのパワーに押されてたね」
夏希が隣に来て、私の肩をポンっと叩いた。
「おはよう、夏希。……別に押されてたわけじゃないよ」
完全な負け惜しみだ。
めちゃくちゃ押されてたくせに。
全く情けない先輩だ。
「まあ、そんなことはいいけどさ、今日の本宮さんのスーツ姿、すごく素敵だと思わない? なんでスーツなんだろ」
「そうだね……」
もうすでに本宮さんのスーツ姿でドキドキ済みだなんて、夏希には言えない。
「会議でもあるのかな?」
夏希も、本宮さんをじっと見ている。
やはりカッコ良いと思っているのだろう。
恋愛感情が無かったとしても、あのスーツ姿のイケメンに魅力を感じない女性はいない……と断言する。
「そ、そうかも知れないね。きっと会議だよね」
その時、石川さんが入ってきて、すぐに朝礼が始まった。
「今日も、昨日に引き続きよろしく頼む。気を引き締めて頑張ってくれ。それから、本宮君は、今日は社長に同行して大事な会議に出られるから」
「すみません。会議で抜けますが、よろしくお願いします」
社長と一緒に大事な会議……
スーツ姿の謎は解けた。
でもやっぱり本宮さんはすごい。
経営陣にも加わって、これから先の会社の未来を担っていくんだ。
何だか想像もできない世界。
朝礼が終わり、私たちはプロジェクトの成功に向け、一致団結して仕事を開始した。
いつものメンバーがいるフロア。
みんなそれぞれに机に向かったり、バタバタと動いたり、打ち合わせをしたりと、広いミーティングルームは常に慌ただしい。
これが私たちの日常だ――
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何?」
「あの、コピーを見ていただきたいのですが」
「ああ、ちゃんと考えてきたくれたのか? 見せて」
昼の打ち合わせで、私と梨花ちゃんは石川さんにコピーを見せた。
「何だこれ。ダメ、やり直し。こんなんじゃ、相手にバカにされるに決まってる。もう少し気合い入れてやってくれないと。遊びじゃないんだから」
見事に却下された。
今回のイメージに合っていないという理由で。
梨花ちゃんだって、もちろん遊びではないことくらいわかっているのに。
「もう、石川さん、ほんと厳し過ぎませんか? せっかく考えたのに! もう少しちゃんと見てくれたらいいのに~。ムカつきます!」
梨花ちゃんは口を尖らせた。
「……だね。仕方ないね、もう一度考えよう」
私も、集中してしっかり考えなければ。
「は~い、わかりました」
周りでは、一弥先輩や菜々子先輩、夏希達も、みんな忙しくしている。
なんとなく声を掛けづらい。
とにかく私と梨花ちゃんは自分の世界に入り、それぞれでコピーをひたすら考えた。
グッと集中していたら、あっという間に夕方になった。
「まだやってるのか?」
誰かが肩に手を置いた。