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僕の体調を気遣う岬くんの優しい声に、僕は安心感を覚える。
「うん、今日は頓服薬と抗うつ薬ちゃんと飲んだし、予備も持ってきたから、今は全然元気だよ!」
「そっか、ならいいけど…気分悪くなったら無理しないで教えてね」
「うん、ありがとう」
僕らがそんな会話を交わしながら歩いていると、前方から華やかなメロディーが流れてきた。
そちらに視線を向けると
煌びやかな装飾に彩られたメリーゴーランドがゆっくりと回転していた。
金色の馬たちが優雅に上下し、子供たちの楽しそうな声が響き渡る。
色とりどりの馬や馬車が陽光を浴びて輝き、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
夢のような光景に
「わ……」
思わず立ち止まって見入ってしまう。
童心に返ったような感覚と同時に、なんだか胸がきゅっと締め付けられるような切なさも感じた。
小さい頃はこういう場所で自由に走り回りたかっただろうけど、現実はいつも違っていたから。
発作の恐怖に怯え、遠くから眺めることしかできなかった幼い自分が
今、目の前のキラキラした世界に吸い込まれていくような気がした。
ふと隣を見ると、岬くんも同じようにメリーゴーランドを見ていた。
少し懐かしそうな、でも穏やかな眼差し。
彼の瞳には、僕と同じように過去の思い出が映っているのだろうか。
「乗ってみる?」
不意に岬くんが僕に問いかけてきた。
「あれなら二人乗りもあるし、どう?」
そう言って岬くんが少しだけ口元を緩ませる。
その優しさがじわりと心に沁みた。
僕の気持ちを察してくれたかのような提案に、胸が熱くなる。
「うん…!乗ってみたい」
素直に答えると、岬くんはそのまま僕の手を引いてメリーゴーランドの方へと歩き出した。
彼の指が僕の手に触れる。
手を引かれる感触が心地よくて、少しだけドキドキする。
彼の掌から伝わる温かさに、僕の心臓はさらに高鳴った。
こんな些細なことでさえ特別に感じてしまう自分が恥ずかしいけれど
それ以上に幸せな気持ちでいっぱいになった。
まるで夢の中にいるような、ふわふわとした感覚だ。
メリーゴーランドの入り口に立つと、係員のお姉さんが明るく迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!お二人乗りですか?」
「はい」
岬くんが簡潔に応じると、僕たちは案内されるまま木馬のうちのひとつに腰掛けた。
僕が先に座り、その後ろに岬くんが続く形になる。
ふわりとした柔らかいクッションの感触が心地よい。
まるで小さな子供のころに戻ったみたいで、ちょっとだけ照れ臭い。
背後から感じる岬くんの気配に、僕はそっと息を吸い込んだ。
《では、動きますのでしっかりつかまってくださいね!》
係員さんの合図とともに、周囲の風景がゆっくりと動き出す。
回転し始めたメリーゴーランドは
次第に速度を増していき、きらびやかな装飾が目の前で踊るように揺れる。
カランカランと金属音が響き渡り、まるで夢の中にいるような錯覚すら覚えた。
色とりどりの光が僕たちの周りを彩り、まるで時間が止まったかのようだった。
思わず声を上げると、後ろから岬くんの声が聞こえてきた。
「朝陽くん、こういうの好きなんだね」
「うん、初めて乗ったし」
「昔はこういう場所来られなかったんでしょ?」
「まあね。だから余計に新鮮っていうか……」
少し言い淀みながら答えると
「そっか、じゃあ今日はめいいっぱい楽しもっか」
と返され
強く頷いた後はお互い黙って景色を眺めていた。
風が髪を撫で、メリーゴーランドの音楽が心地よく響いて
この瞬間がずっと続けばいいのに、なんて思った。
やがて回転がゆっくりと減速し始め、再び元の位置に戻る。
降りるときに、先に降りた岬くんが俺に向かって手を差し出してくれて
その仕草があまりにも自然だったので一瞬固まってしまった。
まるで、僕が助けを必要としていると分かっていたかのように。
その手を取って地面に足をつけて降りると、岬くんは僕の顔をじっと見つめ
いたずらっぽく微笑んだ。
「なんか、朝陽くんがお姫様に見えてきた」
なんて言ってきて。
その言葉に、僕は頬が熱くなるのを感じて
「それを言うなら岬くんこそ王子様みたい」
と、照れ隠しに言い返す。
「…いいね、それ。朝陽くんを守る王子様なら喜んでなるよ」
彼の言葉に、僕の心臓は再び大きく跳ね上がった。
真剣な眼差しでそう言われると、冗談だと分かっていても、胸の奥がキュンとなる。
「へっ…あ、ありがとう…?」
小声で礼を言うと、彼は小さく微笑んでくれた。
その笑顔は、僕の心を温かく満たした。
そしてメリーゴーランドを降りたあと、僕たちは園内をぶらぶらと歩きながら
次はどこに行こうかという話になった。
「朝陽くん、次なに乗りたい?お化け屋敷は…やめといた方がいいよね?」
不意に問いかけられて思わず身構える。
正直得意ではないけれど、苦手だとも言いづらい。
彼の優しさに甘えてばかりいるのは申し訳ない、という気持ちが頭をよぎる。
「えっと…うん、狭くて暗いところは、みさきくんに抱きついてても、発作起きちゃいそうだから……」