善仁
口悪い、ツンデレ
翔
面白い、優しい
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善仁は顔を真っ赤にしながら、翔から距離をとった。
とはいえ、屋上の隅っこ。逃げ場はない。
「お、俺が、お前のことなんか……す、好きなわけ、ねーし……!」
「うん。わかってるよ」
「わかってんのかよ!」
「うん。でも俺は、善仁のこと好きだし」
あっさり言い切った翔に、善仁の目が思わず泳ぐ。
風が吹いて、彼の前髪がふわっと浮かんだ。
「お前、ほんと……っ、ズルいんだよ……!」
「ズルいのは善仁でしょ?だってそんなに怒っても、優しいとこバレてるよ」
「バレてねーよ!」
「この前も、猫にエサあげてたじゃん。怒鳴って追い払うフリして、ちゃんと隠して缶詰出してた」
「そ、それは……たまたま腹減ってるかと思っただけで……!」
「そういうの、好きだなって思った。善仁の優しいとこも、うるさいとこも、ぜんぶ」
「……う、るさ……お前、そうやって本気で言うなって……!」
善仁はごまかすように、視線をそらす。
頬を赤くしたまま、小さく「……バカ」と呟くのがやっとだった。
翔は一歩、距離を詰めた。
「俺のこと、ちょっとだけでいいから、好きって言ってみて?」
「は?言わねーし」
「そっか……じゃあ、俺が何回も言うね」
「……なにを」
「善仁が好き。善仁が好き。善仁が、だいすき」
「ちょ、おまっ、調子乗んな!!!!」
「うん。でも照れてる善仁、かわいい」
「うるっせえ!!!!」
善仁は真っ赤な顔で翔の胸を軽く叩いた。
その手を、翔がそっと握る。
「ほんとに、好きだから。善仁のこと、大事にしたいって思ってるよ」
「……うるさい……」
でも、手は握り返してくれた。
翔に手を握られたまま、善仁はしばらく黙っていた。
風の音と心臓の音が、やけにうるさい。
「……善仁?」
「……なあ」
「うん?」
「お前、ほんとに俺のこと好きなの?」
「うん。大好きだよ」
即答するその声に、善仁はひとつ深く息を吐いた。
「……ならさ」
「うん」
「……ちゃんと、責任とれよ」
「え?」
「……俺が、お前のこと、ちょっとでも好きになったらさ。お前、逃げんなよ」
翔の目が、ゆっくりと見開かれる。
「善仁、それ……」
「誤解すんなよ!?今はまだ”ちょっと”だからな!!」
「……っ、うん……!!善仁……!」
翔は善仁の手をきゅっと握り直すと、そのままガバッと抱きしめた。
「わ、ちょ、バカバカ!!抱きつくな!!誰か来たらどうすんだよ!!!」
「来ないよ、屋上は立ち入り禁止だもん」
「いやじゃあ、なんで俺ら入れてんだよ!!」
「鍵、壊れてる」
「お前、絶対バカだろ……」
でも、抱きしめられた腕の中で、善仁はもう抵抗しなかった。
背中にまわした手が、ほんの少しだけ、翔の服をぎゅっと掴んでいた。
「……あーあ、マジで、めんどくさいやつに惚れちまったな……」
小さくこぼしたその呟きに、翔は「うん」と嬉しそうに笑った。
「俺も、めんどくさい善仁が、世界で一番好き」
「……うるせーよ、バカ」
けれどその返事も、もう怒ってはいなかった。
ーーふたりの“喧嘩”は、案外甘い。
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