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昨日の相合い傘の余韻が冷めないまま迎えた、翌日の昼休み。
私が自分のお弁当を広げようとすると、隣の席からスッと、治くんの大きな手が伸びてきた。
「……朱里。今日、これと交換せぇへん?」
差し出されたのは、昨日のおにぎりとは打って変わって、彩り鮮やかでずっしりと重い二段重ねのお弁当箱。
「えっ……これ、治くんが作ったの?」
「……おん。昨日のアイスのお礼や。……朱里のおかず、全部俺に食べさせてほしいねん」
治くんは銀髪を少し揺らしながら、当たり前のような顔で私のお弁当箱を手元に引き寄せた。
これじゃ、ただの交換じゃなくて「共有」だ。
「……治くん、それじゃ私が治くんのお弁当を食べるってこと?」
「……正解。……俺の『中身』、朱里に全部知ってほしいからな」
さらりと言い放たれた言葉に、心臓がトクンと跳ねる。
私は恐る恐る、彼のお弁当の蓋を開けた。
中には、出汁の効いた卵焼き、甘辛い肉巻き、そして……ハート型に型抜きされた人参。
「……っ、治くん、これ……」
「……あ。……それは、手が滑っただけや。……効率悪いから、気にせんと食え」
無表情を装っているけれど、彼の耳の先がほんのり赤い。
一口食べると、驚くほど優しくて、深い味がした。
治くんの「執着」が、丁寧に、一品ずつ詰め込まれているような。
「……美味しい。……治くん、料理上手だね」
「……朱里にだけや。……他の奴には、絶対作らへん」
彼が私の卵焼きを幸せそうに頬張った、その時。
「あーーーっ!! 治、自分だけ朱里ちゃんと『夫婦弁当』しとるやんけ!! 卑怯やぞ!!」
案の定、廊下から侑くんが猛烈な勢いで突っ込んできた。
後ろには、スマホのシャッターを切る角名くんが「これ、部活のグループに流していい?」と楽しそうに続いている。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……今、一番大事な『味見』の最中やねん」
「味見って何やねん!! 朱里ちゃん、こいつの弁当には『治色に染まれ』っていう呪いがかかっとるからな!!」
「……呪いやない。……愛や。……角名、今のツムの『不法侵入』、録画しとけ。放課後の練習、こいつだけ倍や」
治くんは侑くんを箸で追い払うと、私のお弁当箱に残った最後のおかずを、自分の口ではなく、私の口元に運んできた。
「……はい、あーん。……これ食ったら、俺と『秘密の契約』成立な」
「……契約?」
「……卒業するまで、俺以外の弁当、一口も食わんっていう契約や。……ええやろ?」
スナギツネのような細い瞳が、独占欲たっぷりに私を閉じ込める。
お弁当箱の、秘密の契約。
お米の甘さよりもずっと濃い、彼なりの「束縛」という名のスパイスが、私の胸をいっぱいに満たしていた。