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人魚姫

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人魚姫

12 - 扉

♥

14

2025年10月16日

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ルーシャンはひとつ頭かぶりを振った。

(…それにしても、広い屋敷……物が少ないから、とても)

ゆっくりと首を巡らせる。と、すぐ近くにあった扉が、目に留まった。

また、好奇心が疼き出す。

(…ちょっと、覗くだけ)

…その扉も鳴いた。

開けた途端、ムワッと、埃と湿っ気がルーシャンを襲う。

慌てて、口を守ったルーシャン。

(―――……)

部屋の有様は、そう、整然としているのだが、“塵も積もれば山となる”を実現してしまっている。一体、埃は何センチあるのか…

(…スゴイ部屋。でもここだけなの、かも……)

と、思ったが、小瑪の言葉を思い出す。

――…ここが一番マシな部屋。

他の誰でもない、小瑪が言ったのだ。

ルーシャンは、左にある扉を見た。借りている部屋と、今見た部屋の間にある扉。

(…ここは)

ノブに手を掛け、

キイィ、パタンッ…

薄く開いて中を見て、一秒が経つか経たないうちに扉を閉めた。

(ここも、埃…!)

次に、後ろの扉を振り返る。

キィ、パタンッ

(埃!)

次は、その右横、ルーシャンが借りている部屋の向かい。

ギ……

(……)

ルーシャンは安心すべきか迷った。

そこは書庫のようなもので、埃は言うほどないが、書物で埋め尽くされている。壁一面に並んでいる本棚は、窓まで隠してしまっていた。その本棚に入りきらず、足の踏み場もなく、書物が床に溢れている。とにかく、何百何千冊という書物が突っ込まれていた。

(――…)

大量の書物に圧倒され、扉を閉める。

ルーシャンは、そこから向こうの廊下の端まで歩き、左手側にある扉の前で止まった。

キュイィ……バタンッ

(ダメ、埃!)

へぅ、と、呆れて肩を落とす。

小瑪のために掃除をしてあげようかと思ったが、気持ちがとうに萎えてしまっていた。

(小瑪は独りだから、部屋はひとつでいいと思ったんだわ。私が来るなんて、思いも寄らなかったでしょうね……)

ルーシャンは、カーディガンをパタパタ叩はたき、埃を払う。

(…じゃあ、小瑪はどこで寝ているのかしら? 唯一の部屋は、私が使うことになってしまったから……)

思い至り、左斜め後ろを肩越しに振り返った。

まだ見ていない、最後の扉。

(……ここかな?)

二階にある部屋の中で、一番広そうな部屋。

(どんな部屋だろう…)

恐る恐る、ノブに手を掛け――

(?)

扉はビクとも動かなかった。

(あ…)

鍵穴がある。

(ここだ。ここの鍵なんだ…)

ルーシャンは階下を覗き、耳を澄ました。

(…小瑪はまだ帰ってこないよね……)

ゴクリと唾を飲み、鍵を取りに戻る。

…真紅の薔薇が嗤った。ルーシャンの行為がとてつもなく愚かだと――白い茨が、秘密を守ろうとする――暗い底には、鍵が横たわり、成り行きを傍観していた。

(…鍵が掛けられているのは、誰の立ち入りも拒んでいるから。そこにある秘密を、私は暴こうとしている……ううん、秘密なんてないのかも…ただの部屋かもしれない。小瑪の部屋…)

心臓をバクバクさせ、鍵を握り締める。

(知りたい。私は、真実を…小瑪を…)

最早、どんな気持ちよりも好奇心が勝っていた。

(小瑪はまだ帰ってこない。ちょっと見るだけ…黙っていれば、大丈夫)

ルーシャンは、玄い箱に背を向ける。

ルーシャンの悪い癖…好奇心に勝てず、高を括る。そのせいで、人間に捕まったというのに、少しも直らない。

(何が、あるのかしら…)

鍵を、鍵穴へ――

(やっぱり、ここだった…)

時計回りに、鍵を動かす。

カチッ…――――

…扉は、鳴かなかった。


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