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柔太朗side
1年が経った。
あの日から止まったように思えた時間が、気づいたら1年を過ぎたらしい。
それでも俺はいつものように家を出て
いつものように仕事に行って
いつものように振りを入れて
いつものようにレコーディングをして
いつものようにカメラに笑顔を送って
いつものように帰宅して
変わらない日を送っていた。
ただひとつを除いては…
「ただいまー」
『おかえり。今日はどうだった?』
「んー?変わんないよ。なにも」
『そっか笑』
病院後から勇斗は俺の家にいた。
連絡もつかない、行方不明になっている勇斗はこうして俺と一緒に暮らしていた。
『柔、今何時?』
「今?今は22時になるとこ」
『まじ?もうそんな時間かよ…もう風呂入る?』
「入るよー」
『おっけー』
「はい」
『うっし…じゃあよろぴくー』
勇斗の手を俺の肩に乗せ、風呂場まで誘導した。
そう、あの日から勇斗の視力はほぼ無いに等しかった。
顔すれすれまでに近づければ色は区別できる程に。
『柔、いつもありがとな 』
「全然笑てかさ、もう1年も俺ん家住んでんだから風呂くらい一人で出来るでしょ笑家の配置変わんないんだし。わざと?」
『…バレた?笑いいじゃーん一緒に風呂入ろーよー』
「一緒に入ってどうすんの?笑何も無いでしょ」
『柔太朗の裸見る』
「見えないだろ笑」
『うそうそ笑ほんとはこうやって話したいからさ!』
こうして見えないことをネタに出来るほど、俺自身も勇斗自身も回復していた。
「いや、ほんと最初はびっくりしたよ。目蓋切っただけかと思ったらふらついてたから」
『いや、それは俺もよ?』
「良かった一緒に病院ついてって。てかはじめどんな感じだったの?」
『んー…なんか世界が真っ黒になった。』
「ん〜…?わからん笑物理的にってこと?笑今はどんな感じ?」
『…まぁそんな感じ,,笑今はめっちゃ近づければ見えるかなって感じかな、』
「へー…てか、いつみんなに会いに行くの?」
『もうそろそろ行こうかなって思ってる。仁人やばいんしょ?』
「うん…なんか、仁ちゃんまでいなくなりそうなくらい。相当きてるね」
『じゃあ尚更早くいかないとだわ。でも会って俺が目が見えないの知ったら余計にショック受けるかな…』
「受けると思うよ。でもちゃんと会って話した方が俺はいいと思う。」
『そうだな』
「M!LKは?どうすんの?戻んの?笑」
『戻ってもいいよ?笑すっ転びまくりだけど笑』
「なんか逆におもろいかも笑」
『まぁ、流石に辞めるよ。遊びの誘いも減らすわ。こんなんだから迷惑かけるし 』
「こうやってお世話してるけど、別に迷惑とは思わないよ?」
『そう?じゃあ、普通に誘っちゃお』
「…ねぇ、1個聞いていい…?」
『いいよ』
「勇ちゃんはさ、仁ちゃんのこと好きなの?」
『好きだったよ。あの顔も声も性格も。嫌いなところなんてひとつもなかった』
「"だった"って…」
『ほら、今こんなんだからさ。好きって言ったって迷惑なだけっしょ笑あいつきっと俺がいなくなったのは自分のせいだって思ってるだろうし。幸せになってほしいのよ』
「そっか…」
『あんま自分せめんなって言ってやりたいわ笑』
「ねぇ」
『ん?』
「もしさ、もし仮にだよ?仁ちゃんが勇ちゃんのこと好きだったって言ったら?」
『え…まじ?』
「うん」
『まじかー笑両思いなんて聞いてないってー笑それはちょっと迷うなー笑』
「あんだけかっこいいこと言ってたのに笑」
『笑』
「はいはい、もう出るよ。足気を付けてね」
『ありがと』
風呂を出て、髪を乾かし、ベッドに入った。
初めは俺も現実を受け入れられなかった。
ただの切り傷だと思っていたものが、眼球にまで到達してしまっていたらしく、視力に影響した。
それからは勇斗の望み通り、メンバーには内緒にして俺の家に同居することになった。
行動するときは俺の腕や肩を掴み、物の配置は変えないようにした。
「勇斗ー」
隣のベッドに横たわる勇斗に話しかけた。
『んー? 』
「明日みんなに会いに行こっか…」
『わかった。』
「おやすみ」
『おやすみ』
いつも俺は勇斗の安定した寝息が聞こえるまで寝ることはなかった。
ここに来た当初はうなされていたことが多々あったから
"仁人は自分をせめるから"なんて言ってたけど、勇斗自身も相当自分のことを追い詰めていると思う。
けどきっと、勇斗の本音を聞くのは…聞き出せるのは俺じゃないから
どうか夢の中だけでも幸せでありますように。
to be continued…
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