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神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせられた。
(『旧約聖書』3章24節)
このクラスは、何かがおかしい。先日、同級生が死んだ。事故だった。僕ら生徒たちの動揺が激しかったため、1週間ほど高校が休みになった。
その間に担任が自殺した。教え子の死にショックを受けて? だけど、それは本当に自殺だったのだろうか……。
学校としても、ずっと休みにし続ける訳にはいかないのだろう。予定通り、1週間後に再開された。だけど、今朝登校して教室に入った瞬間に感じた違和感。クラスメイトたちの雰囲気がどこか違うのだ。
「おい、席につけ」
教壇には自殺した担任の教師の代わりに、見知らぬ若い男の人が立っていた。彼は自分の名前を御上玲司(みかみ・れいじ)だと告げ、これから2年A組を担当すると言って、出席を取り始めた。背が高い。顔立ちはとても整っているけど、無表情だ。年齢は20代半ばくらいかな。前髪は長くて、サラサラで銀色に見える。
「あれって……」
僕の前に座っていて、よく話をする友人・加藤拓海(たくみ)君が小声で話しかけてきた。
「うん、そうだね。この人、うちの先生じゃないよね……」
拓海の問いかけに対して、僕も同じトーンの小声で答えた。そうなのだ。けっこう大きな学校だから、知らない先生がいてもおかしくない。だけど、さすがにこんな目立つ先生がいたら、2年間の間にどこかでみているはずだ。それに、あの銀髪……もしかしたら、外国の人かもしれない。先生にはどこか、日本人離れしたところがあった。
かといって見るからに外国人、という感じでもなく、人種不明、というのが一番しっくりくるかもしれない。
「じゃあ、授業を始めるぞ」
その教師は自分のことをただ『先生』と呼ばせた。そして英語の授業が始まった。教科書を開きながら、チラッと前を見ると、拓海はすでに机の上に突っ伏していた。居眠りをしているらしい。相変わらずマイペースな奴だと思った。僕はというと、眠気なんて全くなかった。……短期間に二人もの人間が死んだのだ。教室の中は異様な雰囲気に包まれていた。
だけど時間はあっという間に過ぎ去り、午後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。いつもなら、そのまま部活に行くところだが、今日はそのまま帰宅することにした。拓海にも声をかけたけれど、「用事がある」と言って、すぐに帰ってしまった。何の用事なのか聞いてみたけど、教えてくれなかった。
「まぁ、いいか」
しかたないので一人で家路につくことにした。校門を出てしばらく行くと、人気のない森の近くを通る。今は、この道が怖い。まるで子どもみたいに自分が怯えていることに気づく。そうだ、今日のクラスメイト達の雰囲気、あれもみんな怯えていたのだ。得体の知れない不安に……。
「おい、光司!」
突然、森の中から声をかけられ、心臓が跳ね上がった。だが、声をかけたのは拓海だった。
「あれ、お前、用事があるんじゃなかったのか?」
「それどころじゃないんだ、こっちにきてくれ!」
拓海に引っ張られるようにして、僕は一緒に走り出した。どこへ連れていかれるんだろうか? いったい、何を急いでいるのだろう? やがて拓海が立ち止まった場所は、森の中にある小さな祠の前だった。
「ここは……?」
「説明している暇はないんだ! 早く中に入ってくれ!」
拓海が僕の背中を押してくる。僕は言われるままに、その祠の中に入っていった。拓海も続いて入ってくる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。一体なんなんだ!?」
「いいから静かにしろ。くるぞ」
拓海がそう言った時、扉の向こう側に誰かが近づいてくる気配を感じた。
「そんなところで、隠れたつもりか?」
その声は『先生』だった。名前は確か、レイジとかだったと思う。なんで先生が……?
「光司、助けてくれ、実は先生に追われているんだ」
拓海が小声で囁いた。
「追われているって、どういうことだよ」
と、そのとき先生の鋭い声が聞こえた。
「一人ではないのか? 出てこい」
再び先生の声が聞こえた。僕は拓海と一緒に隠れるようにして、その場にしゃがみ込んだ。
「出てこないのなら、こちらから行くぞ」
そういうと先生は祠の扉を開いた。僕は恐ろしくなって立ちつくしていた。
「秋川、か。そこをどけ」
先生の威圧するような口調に尋常じゃないものを感じて、体が震えた。なんだ、何がおこっているんだ? その時、拓海が僕に隠れるようにして叫んだ。
「秋川助けてくれ! こいつ、人殺しだ!」
拓海の必死な様子に、僕は混乱した。先生が人殺し? 一体どうなっているんだ?
「秋川、頭を下げろ!」
先生はそう叫ぶと、懐から何かを取り出し構えた。訳が分らず、でも先生の声に逆らえず、僕はとっさに伏せた。
パァンッ、パァンッ、パァンッ、と乾いた銃声のような音が連続して三度聞こえ、続けてどさっと思い何かが倒れる音がした。
音のした方をふり返ると、拓海が倒れていた。
「た、拓海……?」
そのとき、先生の鋭い声がした。
「秋川、離れろ。そいつは加藤拓海ではない」