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両片思いの拗らせゆり❤️×💙
──❤️視点──
時おり、懐かしい夢を見る。
口下手な俺にいつも構ってくれた幼なじみとの 大切な思い出。
一緒に園で工作をしていた時の夢。
『りょーた、これあげる!』
『…なに?ゆびわ?』
『そ!おりがみでつくったんだぜ!これで、おれとりょうたが、けっこんするの!』
『……おとこどうしは、できないんだよ?』
『えぇ!?うそ!?』
『…みらいじゃできるようになってるかもね』
『うーん、じゃあ、おおきくなったら、ほんもののゆびわをりょうたにあげる!』
「……わかった、まってる…」
口から出た言葉で、目が覚めた。
アラームが鳴り響いて、見慣れた天井が目に入る。
もう一度、目を閉じてふーっと息を吐いて、それからゆっくりと身体を起こしてアラームを止めた。
ベッドから降りて、カーテンを開ける。
眩しい朝日に目を細めて、ベッドサイドのチェストに目を配る。
メンバーとの写真が数枚ある中、端っこに飾られた小さな古い写真。
俺と、翔太がくっついてピースしている写真。
産まれた病院から一緒で、大人になっても離れることがなく、同じメンバーとして仕事をしているほど不思議な腐れ縁の俺ら。
そんな俺と翔太の小さい時の約束。
写真を指で撫でて、その下のチェストの引き出しに手をかける。
一番上の棚を開けると、そこにコロンと転がった折り紙の指輪。
もう忘れているだろう約束を、 俺は未だに未練がましく待っている。
「舘さん、今日家に行っていい?」
「……いいよ」
収録の終わり、メンバーの後ろをゆっくり歩いていると、そっと寄ってきた翔太がメンバーに聞こえないように話しかけてきた。
みんなと居る時は、なぜか舘さん呼びだが、ふたりになると涼太呼びされる。
気恥ずかしいのか、それとも距離を取っているのか。
俺には翔太の本心は分からないけれど、大抵家に来る時は落ち込んでいる時だ。
「ついでにご飯食べたい」
「翔太はいつもそれ目当てじゃん」
「分かっててOKしてんだろ」
「はいはい。何がいいの」
「んー、オムライスかな」
リクエストを聞き入れて分かったと言えば、やった、とくしゃりとした笑顔を見せてくる。
幼少期の頃からずっと変わらない笑顔を、俺は可愛いとすら思ってる。
冷蔵庫の中身を思い浮かべて、足りてない食材を数える。
買い物しなきゃな、と思いつつ、楽屋へ戻り、着替えをして、翔太とは別で楽屋を出る。
一緒に行動はしない。それはいつからかの暗黙の了解。
俺は翔太の思うまま、翔太がすることに従うだけ。
楽屋を出てタクシーに乗り、携帯を取り出す。
『先に帰ってて。買い物してくる』
合鍵を渡したのは何度目か。
一人暮らしを始めた時、ジュニアで少し調子が出始めた時、デビュー後など。
俺が引っ越す度に、合鍵を渡すのも恒例になっていた。
買い物を済ませて、再びタクシーで自宅まで。
鍵を開ければ、揃えられた靴が目に入る。
ただいま、と声をかければ、リビングから翔太が顔を覗かせた。
「ごめん、遅くなった。今からご飯つくるか、ら……っ、翔太…」
荷物を置いて、鍵を閉めるために向けた背中に、トン…と体重がかけられた。
遠慮がちに服の裾を握られて、深く息を吸って吐いた吐息が、背中越しに熱を帯びる。
コレも、翔太に話しかけるタイミングの合図。
「…今日はなに?」
「…こないだの収録、対談うまく喋れなかった」
「一昨日放送されたやつ?いつも通りだったでしょ」
「本当にそう思うか?…マジで、顔引き攣ってたし、最悪…」
ぐりぐりと背中に額を押し付けてきて、遠慮がちに握られていた手が、腹に回ってギュッと俺を引き寄せる。
その腕を解いて、翔太の方に振り返って優しく抱き締め、背中を摩った。
力んでいた身体から、力が抜けたのが腕の中で分かった。
「……涼太…」
さほど変わらない身長で、翔太が顔を上げれば唇が触れるほど距離が近い。
でも、俺らはコレに慣れている。
翔太が瞼を閉じて、首を傾ける。
そこに俺も首をちょっとだけ傾けて、ほんの数センチ下の翔太の唇に重ねた。
付き合ってはいない。
これ以上はない。 ただ重ねるだけ。
離れようとした翔太の唇を追いかけるように重ねて、抱きしめた腕に力を入れた。
「ん…ちょっと…涼太っ…」
「口寂しいんでしょ?だったらあと少し…」
「ッ、もぅ…ん……」
眉をひそめて俺の胸を押す。
だけどその手は本気で嫌がってはない。
翔太が吹っかけてきたのだから、多少のワガママは許して欲しい。
何度も重ねて、触れるだけのキス。
その先はタブーであることをお互いに分かってる。
翔太の身体が微かに震えるのを見て、唇と腕を離した。
「…ご飯にしようか。お風呂は入ってくの?」
「…風呂溜めた。先に入ってくるから、作ってて」
「了解」
俺から離れて、急ぎ足で風呂場へと向かった翔太の背中を眺める。
反応しそうになった身体の火照りを沈めるべく、深く息を吐いて、荷物を持ってリビングへと歩き出す。
ここまでしても、俺と翔太の関係はあくまで『幼なじみ』だ。
翔太はあの日の約束なんてとっくに忘れている。
こんな拗れた関係になってるのは、ただ寂しさを埋めているだけ。
それを始めたのも翔太からだった。
ジュニアに入ってから、高校との両立で忙しい中、もちろん思春期ともなればそういうお年頃でもある。
周りの女子だって、ジュニアともなれば色目も使う。
俺はずっと翔太だけを追いかけているから、そういうのに全く興味はなかった。
ただ、あの日、ほんの少しの嘘が全部を変えたんだと思う。
真夏のうだるような暑さの夕方、久しぶりに翔太が実家の自宅へ突然来た日。
インターホンが鳴って、ドアを開けると学校の制服を着て、セカバンを肩にかけて俯いた翔太が立っていた。
今より長い前髪から覗く目が、入れて、と訴えていた。
2階の自室へ招いて、とりあえず翔太が口を開くまでしばらく待った。
シン…とした部屋に、外で鳴く蝉の声が響く。
あのさ、と翔太が口を開いて、目線を合わせれば、次に聞こえた言葉で俺の中で何かが崩れる音がした。
「……彼女に振られた」
そう言って、立てた膝を抱えて俯いている翔太に、俺は何も言えなかった。
『彼女』、そっか、俺だけだったのか。
その気持ちが先走って、言葉が出なかった。
あの日の約束を覚えているのは俺だけで、ずっと守っていたのは俺だけだった。
その事実が突き刺さる。
「……涼太だって、そういう経験あんだろ?どうしてんの、こういう時…」
ねぇよ、しらねぇよ。
苛立ちなのか、悲しみなのか、胸が苦しくて、出た言葉は余計に複雑なもので。
「────そうだね、寂しさは他で埋めるかな」
彼女なんていた事もないし、失ったこともないのに、ついた嘘。
そうだね、なんて肯定する言葉を口にして、俺は今ちゃんと翔太に笑えてるのだろうか。
なに笑ってんだって、悪態をつけばいい。
それでいつもの翔太にもどるなら、俺はもうそれでもいい。
そう思っていたのに、翔太は顔を上げて、思いがけない言葉を口にした。
「……だったら、今この寂しさをお前が埋めろよ 」
「…え?」
ぐい、と引っ張られて、翔太の唇が重なった。
たった一瞬。触れてすぐ離れて。
それだけなのに、俺の心臓は飛び出そうなほど脈を打っていて。
固まっていると、ふっと笑った翔太が、俺の手に指を絡めてきて、もう一度唇を重ねてきた。
「…案外、いけるのな。涼太だからかな」
「な、んで…バカじゃないの…」
「涼太は嫌なら顔に出るじゃん。俺を否定しないってことは別に良かったんだろ。口寂しいのを埋めただけ」
「…なにそれ」
「幼なじみの特権〜」
ハハハッと笑った翔太は、いつも通りに戻っていて。
さっきまで落ち込んでいたのに、俺とキスをしたのに、何も無かったかのように笑っている。
それから、何かなくても、お互いにキスだけはする関係をずるずると引きずって。
翔太が家に来て、俺のベッドで漫画読んで、俺は勉強してても、ふと目が合えばキスをして。
時にはジュニアの練習で怒られた苛立ちをキスでぶつけられたり、失敗して泣いてる翔太を慰めるためにキスをしたり。
そうやってお互いの何かを埋めるためだけの関係を大人になっても続けている。
コレは俺らだけの秘密。
メンバーも知りえない俺らだけの関係。
見えないように、隠すように繋いだ手をどちらも離せないでいる。
いつまでも俺らは『幼なじみ』の鎖を切れずにお互いの首を絞めている事を、分かっているのに断ち切れない。
「オムライス、美味そ」
風呂上がりの翔太が、俺の肩に顎を乗せて皿に盛られたオムライスを見る。
髪から滴り落ちる水が、ポタポタと足元を濡らす。
手を止めて、振り返って首にかかったタオルで翔太の髪をわしゃわしゃと拭いてあげた。
それを分かってて、されるがままの翔太が目を瞑る。
このままキスしたい欲をぐっと飲み込んで、もう一度首にタオルをかけてあげた。
「…サラダ食べる?」
「ん〜…ひとくちだけ頑張る」
「スープは?」
「いる」
盛り付けられた料理を、翔太が机まで運ぶ。
二人分の料理が並んで、二人でいただきますをする。
スプーンでオムライスを割って、口に入れた翔太が「やっぱ美味ぇな」なんて笑うのを見て、俺が笑って。
このままでいい、という気持ちと、このままじゃダメだという気持ちがずっと心の奥底でせめぎ合っていて、ぎゅうっと苦しくなった。
翔太が忘れているのなら、俺も待たずに先に進むべきである。
アイドルという職業柄、恋愛をする気は更々ないが、俺という枷を外して、翔太には自由でいて欲しい。
いずれその時が来ても、笑って祝福をしてあげたい。
それはあの日、キスをした時からずっと変わらない。
あの日に全てを置いてきたからこそ、幸せであればそれでいいと思えるようになった。
なのに、この男はいつまでも俺を翻弄する。
食べ終わって、ソファーでゴロゴロする翔太をよそ目に、キッチンへと皿を運んで片付けて。
ついでに明日の準備もして、その流れで風呂にも入って。
翔太に構わず自分のことをしていて、気付いた時には翔太はソファーで眠っていた。
起こすべきか、とも迷って、もう少しだけ甘やかしたくてブランケットをそっと掛けた。
ふわふわした髪の毛を撫でて、離れようとした時に腕を引かれ、唇に柔らかい感触が当たる。
切れ長の目が、ゆっくりと瞬きをして、俺を映した。
「……起きてたの」
「いや、寝てた。何時…」
「23時回ってるよ。帰るんでしょ」
「明日朝早いから帰る。…涼太、もっかい」
「……はいはい」
ソファーで背伸びした翔太の腕が、首に回される。
背面と座面に手をついて、寝転がった翔太に体重をかけないように優しくキスを落とした。
満足そうに笑って、起きた翔太がご機嫌で帰っていく。
それを見送って、静まり返った部屋の中、さっきまで居た翔太の面影を思い返して息が詰まった。
ずっと、胸が痛い。
いつまでも続かないだろうこの行為も、いつまでも続いて欲しいと思うこの気持ちも、終わりが来る恐怖も、翔太を欲するこの想いも、全てが苦しくて息が詰まる。
寝室へ向かって、チェストの棚を開けて、指輪を取り出す。
崩れないように優しく手のひらで包んで、抱きしめる。
それから、左手の薬指に小さな指輪を嵌めた。
第一関節までで止まる指輪へキスをして、目を閉じてあの時の言葉を思い返す。
『おおきくなったら、ほんもののゆびわをりょうたにあげる!』
「……俺はもう、十分すぎるくらい大きくなったよ、翔太…」
あの日の約束を覚えてない翔太へ期待してる訳じゃない。
だけど、俺はいつまで待てばいい?
返事のない答えに眠れない夜が続く。
それでも夜は必ず朝を連れてきて、限界を迎えるのは案外早いものだった。
「なぁ、今度のオフ、みんなで涼太ん家に集まろうぜ!ご飯作ってよ!」
そう言いだしたのは佐久間だった。
全員が帰る準備をしている最中、何を思ったのかおもむろに提案してきた。
これまでもメンバーが俺の家に来ることはあったが、全員集まることなんて久しくなかったから、佐久間の提案に意外と全員乗り気だった。
ふっかと照は、大丈夫?と心配してくれたが、メンバーが頼ってくれるのは嬉しいから、二つ返事で承諾した。
そうして、数日の仕事を経て、珍しく全員がオフになった日。
先に家に来たのは翔太だった。
まだ予定時刻まで2時間はある。
普段ならメンバーと来るか、大抵遅刻してくるのが翔太なのに。
玄関のドアを開けて、まだ眠たそうにポヤポヤして立ってる翔太を見て、少し笑ってしまった。
「…おはよ、早いね」
「ん…目ぇ覚めて…暇だったし、手伝うことあんなら手伝う」
「いいのに。眠たいんでしょ」
「……涼太」
背中越しに、くい、といつもの如く服の裾が引かれる。
振り返ると、翔太が目を閉じていた。
玄関の鍵を閉めるために手を伸ばし、そのまま翔太を扉に押し付けて、唇を合わせるのと同時に鍵を回した。
翔太が薄らと目を開けて、もう一度閉じて、俺の背中に手を回す。
「ふ…んン…は、涼太…ッ」
「なに…」
「今からメンバー来んのに、こんな事してる俺ら、なんかウケるね…」
「それ、翔太が言う?」
まだ唇が触れ合うほど近くでクスクスと笑って、もう一度触れ合わせて。
それから一緒に珈琲を飲みながら、料理の下準備をしてメンバーを待った。
程なくして続々とメンバーが集まってきて、て、昼間から乾杯をした。
俺が作った料理やおつまみを食べて、佐久間が持ってきたボードゲームで遊んだり、罰ゲームつきでふざけたり。
程よく皆が酔いが回った頃、康二が急にルームツアーやりたいと言い始めた。
「舘さんええやろー?ちょっとだけ見るだけやし〜」
「はいはい!俺も見たーい!」
康二が肩にもたれかかってきて、それに佐久間も乗り始める。
こうなったら段々と収拾がつかなくなる訳で。
言っても聞かないだろうし、好きにしていいよ、と伝えると二人は早々に走って行った。
「舘様がいいなら俺も見たいなぁ」
「ちょっと阿部まで…」
「じゃー、俺も。寝室とかクローゼット気になるじゃん」
「ふっかはなんかヤダ」
「なんでだよ!」
結局、なんやかんやで全員が各々散らばり始める。
といっても、皆が気になるのは寝室兼クローゼットらしく、大量の服を見て騒いだりして。
そんな中、翔太だけがチェストの上の写真をじっと見つめていた。
それに気付いた他のメンバーも、覗くように写真を見始める。
メンバーの写真はもちろん、俺と翔太の幼い時の写真に注目が集まる。
「え、舘さんコレ何ー!?折り紙の指輪…?」
写真の下のチェストを開けたラウールが、隠していた指輪を取り出した。
見られるかもしれない、という事を忘れていたのと同時に、翔太に見られた、という焦りが出た。
咄嗟にラウールの手からそれを取った。
クシャ、と微かに手の中で潰れた音がした。
「ッ…あ、ごめん。コレは何でもなくて…」
「なに、舘さん。…まだ持ってたんだ?」
動悸が激しくなる。
翔太の声にすぐ反応できなくて、顔をあげれない。
どんな顔をしている?
まだ持っていた?
翔太は覚えてる……?
恐る恐る顔をあげて、翔太と視線が重なる。
口元は笑っているのに、細められた目はどこか寂しげで。
それは一体どういう表情なのか。
問いかけたくても言葉が出ない。
変な空気を察したメンバーが、顔を見合わせる。
そんな空気を切ったのは翔太の笑い声だった。
「これ、俺が作った指輪でしょ。懐かしぃな」
俺の手のひらでちょっと崩れた指輪を、翔太が取って皆に見せびらかす。
『覚えている』とは明確には言わない。
作ったことまでは覚えていても、言葉は覚えているとは限らない。
それは大半の人間がそうであるように、記憶というものは薄れ、美化される。
言われた側だけは記憶の片隅にずっと残っているというのに。
翔太は本当に忘れているのだろう。
その一言がない、というのは俺の中で決定打ともなった。
「……もう、苦しいな」
俺だけが覚えているという事実が惨めに思えて、翔太から返された指輪をチェストに戻すのと同時に、もう開けないと決めた。
この想いごと、棚の奥に眠らせて、ただの『幼なじみ』に戻る。
それが俺にとっても、翔太にとってもベストな答えだ。
いずれ何かがあった時に、お互いの足枷にならないよう、俺が切らなければきっと翔太も引きずってしまうから。
皆が出ていった寝室から足を踏み出す。
誰にも知られない恋心に蓋をして。
けれど、翔太がそんなことを知る由もなく。
いつも通りに話しかけてくる分には答えるも、家に来たいという時はそれとなく避けるようにした。
予定があるから、ちょっと具合悪いから、明日早いから。
言い訳なんていくらでもあって、だけどそんなの翔太が一番嘘だと見抜いてて。
あからさまに段々と不機嫌になっていくのが分かる。
俺に構ってもらえないから?
口寂しいのを補充出来ないから?
そんなのは俺じゃなくても他を見つければいい。
覚えてもないくせに、俺に縋るのをやめてくれ。
苦しさと、でも結局は自分も翔太にキスしたくて堪らない。
依存している。お互いに。
「…涼太、今日、家…」
生放送後の裏に捌けたあと、まだスタッフもメンバーも近くにいるのに、汗まみれの翔太が衣装の裾を引っ張って呟いた。
『涼太』なんて、二人きりでしか呼ばないくせに。
俺がそれに弱いのも分かってる。
真剣な眼差しが俺を刺す。
でも、分かってほしい。離れた方がいいことを。
「……ごめん、今日は疲れたから早く寝たい」
「なんで…?最近変じゃねぇ?俺なんかした…?」
「…俺は、翔太が分からないよ」
「なに…どういう意味…?」
「終わろうよ、翔太。もう、終わろう」
掴まれた翔太の手を解いて、離した。
翔太の鼻根に皺がよる。
なんで翔太がそんな苦しそうな顔すんの。
何か言いたげな顔をして、言葉に詰まらせて、もういいと言って楽屋に戻って行った。
これでいいと自分に言い聞かせる。
表ではちゃんとメンバーとして。
裏ではきちんと距離を保って。
仕事を終えて、虚しく帰路へ着く。
ただいま、と言ってもリビングから覗く顔も、俺の背中に当てられる額も、キスを待つ唇もない。
未練がましいのは分かってる。
何十年もずっと恋していたのだから。
電気もつけず、そのままリビングのソファーに身を投げて、深く息を吐いて目を閉じる。
スマホが震えても見る気もなくて、時計の針の音だけに耳をすませて。
何も考えないよう、何も思い出さないよう。
そうしてどれくらい時間が経っただろうか。
インターホンが鳴った気がして、ゆっくりと瞼を開けた。
気付かないうちに少し眠っていたらしい。
気のせいだったか、と思ってもう一度瞼を閉じかけた時に、今度はしっかりとインターホンの音が聞こえた。
重たい身体を起こして、モニターを見る。
「……なんで…」
あの日、初めてキスをした夏がフラッシュバックする。
玄関先で俯いて立つ翔太の姿。
あの時とは違って分けられた前髪から、伏せられた目がゆっくりとモニターを見る。
入れて、と訴える目は変わらない。
出なければいい。そう思ってるのに、足は玄関に向いていて。
ゆっくりと鍵を回して、少しだけドアを開ける。
靴先から視線をあげていく。
翔太と目が合うまでに、ドアノブを持つ手が震えた。
「……なに」
絞り出して出た声が意外に小さくて、自分でも驚いた。
冷たく聞こえたかもしれない。
俺の声にぴくりと肩を動かした翔太が、泣きそうな顔で俺を見る。
だから、なんで、翔太が苦しそうなんだよ。
顔を見ると揺らいでしまう。
ふい、と視線を逸らすと、翔太が小さく口を開いた。
「…入れてくんないの」
「…寝たいって言ったよね…」
「嘘…。俺が…!お前の嘘、分かんねぇわけねぇだろ…!」
「ッ…ごめん、帰って…。翔太は悪くない。俺の問題だから」
「~~~ッざけんなよ!!」
ドアを掴んだ翔太が、勢いよくこじ開けて俺を押して無理やり中に入ってきた。
胸ぐらを掴まれて、唇が重なる。
歯がぶつかって、それでも構わずに唇を押し付けてくる翔太の顔は見えなくて。
足が絡んで、体制が崩れる。
倒れる、と思った時、無意識に翔太に手を伸ばして胸に抱えた。
どうやったって、大事なのは変わらないんだ。
傷ついて欲しくない。
でも今、確かに傷付けてしまってる。
二人同時に倒れ込んで、俺が起き上がるより先に俺の腹の上に跨るようにして、翔太が顔を上げた。
俺の顔に、ぼたぼたと雨が降る。
それを翔太の涙だと理解するのに、少しだけ時間がかかった。
泣いてる。あの、強気で、傲慢で、ワガママで、誰よりも負けず嫌いの翔太が。
俺を見て、こどものようにぼろぼろと涙を零していた。
翔太、と呼ぶ前に、翔太がおもむろにポケットを探り出して、俺に目がけて何かを投げてきた。
ゴンっ、と軽く頭にぶつかって、何かがカランと床に転がる音がした。
カラカラと音を立てる方へと目を向けて、息が止まる。
と、同時に込み上げてくる何かに胸が痛くなった。
「…ふざけんな…ッ、今さら…離れるとかなんだよ…。何が終わりにしようだ…勝手に終わらせんな……ッ結婚すんじゃねぇのかよ、俺ら…」
言葉を詰まらせながら、初めて翔太の本音が溢れた。
腕で目を覆って小さくなって震える翔太を、身体を起こして抱き締めた。
俺の膝の上で、俺の胸の中で、翔太が声にならない声をあげる。
何度もごめんと呟いて、抱き締めた腕の力を強めた。
口下手な俺をいつも引っ張ってくれていた翔太に甘えていたのだと、初めて気付かされる。
翔太ならいつか言葉にしてくれるだろう。
翔太なら分かってくれるだろう。
全部、俺の甘えだ。
翔太が落ち着くまで、しばらく背中を摩って待った。
軽く背中を叩いていると、腕の中で翔太がもぞ、と少し身を捩って、胸の当たりの服を引っ張ってきた。
話していい合図だ、と少しだけ口元が綻んだ。
「…翔太、覚えて……?」
「……当たり前だろ…俺が忘れるかよ…。俺は、お前が忘れてると思ったのに、指輪持ってるし…」
「先に彼女作ったのは翔太じゃん。だから俺は、覚えてないんだと…」
「アレは…涼太がどんな顔するか見たかっただけで……嘘に決まってんだろ。てか、お前だって…そうだねって…居たんだろ、彼女…」
「俺は5歳の頃からずっと翔太だけだよ。その嘘は見抜けなかったんだね」
「なっ……んだよ、それ…。バカみてぇ…」
お互いの嘘に、お互い騙されて、お互い忘れてると思い込んで、すれ違って。
なのにお互いに縋りあって。
言葉を交わせば済むはずだった。
臆病だった。
この関係を崩すのが怖くて、お互い待ち続けて。
本当に馬鹿みたいだ。
ゴツ…と額を合わせて、はぁ、と息をする。
翔太と目が合って、それからどちらともなく吹き出した。
「ふは、ハハハッ!!マジかよ。拗らせすぎだろ、俺ら」
「俺も、指輪投げられたの初めてなんだけど」
「涼太が終わらせる〜なんて言うからだろ」
「……ねぇ、ちゃんと嵌めてよ、翔太」
後ろに手を伸ばして、転がった指輪を拾う。
シンプルなシルバーの細めのリング。
よく見ると、裏側にふたつの石がはめこまれていた。
少し青みがかった濃赤と、少し柔らかみのある青の石。俺らのメンバーカラー。
誕生日石じゃない所が、また翔太らしくて笑ってしまった。
「これ、普通のルビーとサファイアではないよね…」
「ピジョンブラッドと、コーンフラワーブルー。俺らにぴったりだろ 」
そう言って、俺の手から指輪を取った翔太が、俺の左手を絡め取る。
俺より細い翔太の指が重なって、握られる。
薬指へと滑っていく手を目で追いかけていく。
翔太の伏せられた目が、俺の指を見て、そうしてゆっくりと嵌めこまれた。
あの小さくなった折り紙の指輪と違って、ぴったりと俺の指に合っている。
よかった、と翔太が小さく呟いた。
「サイズ合ってた…」
「ふふ、さすがだね」
「…ずっと、いつ渡してもいいように持ってた。渡せてよかった…」
「…翔太」
堪らなくなって、翔太の頬を優しく手のひらで包む。
その手に翔太が重ねてきて、俺の名前を呼んだ。
呼ばれ慣れている名前さえ、嬉しくて笑うと、翔太も笑った。
いつものように、目を閉じる。
ほんの数センチ下の翔太の顔。
俺のキスを待つ唇が、少しだけ尖る。
その唇に触れるのさえ少し怖くて、堪らないほどの愛しさが込み上げて、泣きそうになった。
そんな俺を待ちかねてか、薄らと目を開けた翔太が、ちゅ、と唇を重ねてきた。
目をぱちくりさせると、大口を開けて翔太が笑う。
「…結婚、してくれる?涼太」
「もちろん。俺でよければ」
「ずっと前から約束してただろ」
「うん、ずっと…待ってたよ」
あの日、誓った約束も、嘘をついてキスを始めた日も、すれ違った日々も全て、今の俺らにとっては大事なものだったのかもしれない。
もう、間違わなくていい。
口寂しいからと理由もいらない。
隠すように繋がれた手を解かない。
「翔太、愛してる」
触れるだけのキスを何度も交わして。
今はただ、それだけで満たされる。
これから何度でも、幾つすれ違っても、俺らはきっともう、大丈夫だから────……。
END.
いつもいつも長いよね…:( ˙꒳˙ ):
どうしてもゆり組の両片思いを書きたくて…
逆プロポーズっていいよねぇ…っていう( ˇωˇ )
珍しく🔞ナシです…!
でもゆり組ってキスだけでもエロいのなんでしょね…😇ジャスティス…
ちなみにフォロワー100人を超えました…!!
たくさんの方に見ていただいて本当に嬉しいです😭✨
ありがとうございます♡♡♡
コメント
19件
刹那くて拗らせて、でもハッピーエンドですっごく読み応えがあって良かったです🥰
絡みが無いなんて、珍しい 最終的に結婚出来て、良かったです😊 どちらが受けか、気に掛かる…🤔 フォロワー100人おめでとう🎊🎉🍾

切なくてキュンとして、堪らない気持ちになりました… 2人が分かり合えて良かった…!!多幸感でどうにかなってしまいそうです🤦♂️ 素敵な作品をありがとうございます!!