「はい?」
訝しく思う気持ちが声に漏れ出ていたように思う。
ひとりで酒とおつまみに夢中な女に何の用があるというのか。
見上げた視線の先には、ほのりよりも少し……いや、かなり年下だろう男性が、イスの背もたれ部分に手をかけて微笑んだ。
くっきりとした二重の目。それを柔らかそうな髪が少しだけ覆う。
毛先に動きがあるそれは、パーマなんだろうかくせっ毛なんだろうか。どこか小動物のふわふわな毛並みを連想させ触ってみたい衝動に駆られる。けれどそれはまずい。
若い男の子にベタベタ触れるなど、会社にいなくともセクハラ認定だ。
……気をつけなければ。
(しっかしまぁ、髪もだけど、可愛い顔してるなぁ)
ほのりと目を合わせる為にかなり背中を折り曲げている。背が高そうだけれど、童顔といえばいいのか。大きく形のいい瞳とふわふわの髪の毛のせいで、あえて形容するなら”可愛い”のだ。
つい見とれてしまったのはどうしてだろう……などと己に問いかけるまでもない。
可愛い男の子は大好きだ。
「キレイな女の人がひとりでおるなぁって、まわりみんな気にしてチラチラ見てますよ」
「あはは、それはどうもありがとう」
しかし残念。
言動はちっとも可愛くなかった。
それにしても何の必要があっての褒めの言葉なのか。
曖昧に笑うと彼は薄暗い店内の淡いライトを逆光にして笑みを深めていく
「まぁ、それゆうたら俺もなんやけどね」
「ありがと」
再びそっけなくお礼だけ返すと、可愛い顔は困ったように苦笑した。
「あ〜、あはは、アカン感じ?」
「何が?」
「何がって、ナンパしてんねやけど」
思わず面食らう。
そんなことは長らく経験していなかったし、ここ最近は押しすぎて引かれることばかりの婚活の日々だったから。
別に分別つかなくなるほどに酔ってなんかない。これは、きっとあんまり真面目な流れじゃないなって判断はできていたけれど。
「それならもっとわかりやすく言ってよ」
なんて、口走ったことに自分がビックリ。
きっと少し嬉しいと思う気持ちがここまで来ても出てしまったんだろう。
どうにでもなってしまえと、頭の中で弱い自分が囁いてしまった、ような……気がしていた。
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