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チリン、と鈴の音がまた響く。
キメラを倒す時に脳に流れてきた言葉を思い出す。自分の心臓は千鶴である。自分が忘れているだけで、過去に自分は千鶴の心臓を貰っていたのだろうかと。
夢を見た。
自分が小学生5年生で、妹の千鶴が小学生3年生の時。公園で2人でブランコを漕いでいた。
『ねえ、千鶴。もしも、私が千鶴の前からいなくなったら……どうする?』
『急になに?』
『んー暇だったから』
『…………いなくなるって死んじゃうってことだよね?』
妹は昔から賢く、鋭かった。知里が言いたい事の言葉の本質を的確についてくるのだ。
『お姉ちゃん、「心臓が弱い」ってお母さんとお父さんが話しているの聞いたことあるよ。それでお姉ちゃんが死んじゃうなら…………私、お姉ちゃんの心臓になりたい』
『ぷっあははは!千鶴自身が私の心臓にはなれないよ?』
『むー……なれるもん!お姉ちゃんの事いっぱいいっぱい手伝って、長生きしてずっと一緒に暮らすもん!』
白くてお餅のように頬を膨らませた千鶴の頬を知里はつつきながら笑う。すると、千鶴はブランコを降り知里の前に立つとはにかんみながら口を開く。夕焼け空が広がり眩しい太陽が眠りにつく時だった。
『お姉ちゃんは死なないよ!なんだって!千鶴の大大だーい好きなお姉ちゃんだもん!』
『ありがとう!千鶴』
場面が切り替わる。
雨が降っていた。知里と千鶴は、成長し中学生になっていた。丁度家を出る時だった。
『あ、見て!お姉ちゃん猫ちゃん!』
『ほんとだ、可愛いね』
雨の中、千鶴が指を差した方向には黒猫が1匹千鶴の声を聞いて知里たちの方を見ていた。その時だった。強い光が黒猫を照らす。
『危ない!』
車のスキール音が響く。ガシャンと鳴る音が鳴る。いつの間にか知里の目の前には、赤い液体が作る水溜りができていた。
『お姉ちゃんは死なないよ』
ああ、なるほど。そういう事か。
「あ、目が覚めたよ!潔!おはよう!知里!」
「お、はよう……ございます……」
「大丈夫か!?知里!」
「いさぎ、くん」
知里が見た景色は最初に目を覚ました時と同じ白い天井だった。少し違うのは、目を覚まして天井の次に見えたのはこちらを覗き込む青い瞳と黄色の瞳だった。
「苦しくないか!?痛いところとか違和感があるところとか……悪い、俺、助けるって言ったのに……」
「……潔くん、私は大丈夫だよ。ありがとう、お願い聞いてくれて」
「知里、大活躍だったね!凄いよ!スレイヴの訓練受けずに危険区域Gのキメラを倒すんだもん」
「いや……そんな、蜂楽くんが惹き付けてくれていたから……」
「謙遜しな〜い!」
上体を起こし、知里は自身の手のひらを見つめる。あの時、自分は何をした。眠っていた時の夢はなんだっけ。2つのことを思い出そうにもモヤがかかったようにはっきりせず、同時にズキンと自身を襲う頭への痛みに顔を顰める。
「知里、ほんとに大丈夫なのか?」
「あ……うん、ありがとう大丈夫。あれ?名前……」
「え、あ……悪い!俺!無意識に名前、呼び捨てに!」
「ううん、そっちの方が親近感がある」
「そ、そっか……」
潔は落ち着いたのか体を起こすとベットのそばに設えられた椅子に体を戻す。
「あ、そうだ。絵心からメッセージ」
蜂楽は、知里に向けてタブレット端末の画面を見せる。そこには絵心が写っており、椅子に座り肘掛に頬杖を着いていた。
「やあやあ、おはよう。無能小娘から才能の原石へと昇格した、スレイヴ篠崎知里」
「む、むのう……」
「ふむ、見たところ体に異常は見られないな。なら、おめでとう。お前はスレイヴとしての適性が合うのと同時にブルーロックに残るための「自分の価値」を示した。つまり、これからは元の世界に戻るまでここでスレイヴとして働いて貰う。勿論対価は支払うし、元の世界へ帰る方法の調査も本部が責任を持って請け負おう
ようこそ、篠崎知里。自らを生かすために互いを利用し合うエゴイストの集まり、ブルーロックへ」
「ぁ……いき、のびた……」
「これからお前はエゴを使いこなす訓練や基礎訓練などを受け任務を受けられるレベルまで鍛え上げる。ちなみに、それまでお前の面倒を見るのはそこの潔世一、蜂楽廻が所属するチームZだ。説明は以上明日から訓練開始だ」
「あ……待ってください!その、エゴというのは……」
知里の質問に答えることなく。画面は途切れる。突然告げられた合格発表と所属するチームの存在など多くの情報が一気に来たため混乱する。
「エゴについては俺から話すよ」
【エゴとは自我のこと。自我は人は誰しもある心だが、その自我に潜むもうひとつの自我から生まれる特殊能力を俺たちはエゴと呼んでる。基本スレイヴになる必須条件にはこのエゴがないとスレイヴになることは出来ない。だがエゴは自然に手に入る代物ではない。一生をかけてもエゴを手に入れることが出来ず生涯を全うする人間も少なくない。その逆でエゴを呼び覚ますことができる可能性が高い人間もいる。そいつらはスレイヴになる適性を持ってる。エゴは多種多様、人の数だけエゴの種類もある。今回、知里がキメラを倒した時のも……あれもエゴになる】
「なるほど……じゃあ2人もエゴを持ってるの?」
「あ、ああ俺はあまり戦闘向きじゃないエゴだけれど……蜂楽のエゴは結構すごいよ」
「蜂楽くんのエゴ……」
「知りたい?」
蜂楽へと顔を向けるといつの間にか近くに彼の顔は迫り知里の目を覗き込む。あまりにも彼の端正な顔が近くにあり、知里の頬に熱が籠る。
「え、あの、ちか……」
「ちょ、蜂楽!」
「あはは!まあ、戦闘訓練とか実戦の時にお披露目するよ!」
先程自身を覗き込んでいた時の彼は別人かのような狂気の笑みを浮かべていたが、体を離し朗らかに笑う彼はいつもの蜂楽廻に戻っていた。
「潔くんは?」
「あ、俺!?お、俺のは……その……地味、というか……」
「?」
首を傾げた知里を横目に見て恥ずかしそうに頬を掻く潔は、はぁ〜っとため息をつくとわかった。見せるよ、と立ち上がる。目を閉じた潔を中心に病院がパズルのピースのように散らばる。知里は非現実的な現象に見渡す。パズルのピースは次第に色を変えてまたはめ込まれていく。そして、最後のピースがハマった瞬間知里の視界を白く染める。眩しさに目を閉じていると目を開いてみて、と蜂楽の声にゆっくり目を開ける。そして、知里は息を呑んだ。
そこは病室ではなく、青い空の下、優しく吹く風に緑の草がさあさあと流れる先に鮮やかに咲く花畑と遠くに連なる山々の姿だった。
「おー凄い!潔、イメージ前よりも凝ってきたね!」
「結構頑張った方だわ、これ……えと、これが俺のエゴ……知里?」
「……きれい」
知里は目の前に広がる光景に目を離さず、口から言葉を零す。彼女自身無意識のようだが、潔は知里の言葉に目を見開く。
「これって……」
「潔のエゴ、凄いでしょ?」
「いや、これぐらいしかできないけどな!?えっと、俺のエゴは半径50mの範囲内にイメージした景色を見せる能力。すんごい応用もできそうにない能力だけど……あははは」
「凄い……潔くんのエゴって凄く綺麗なんだね」
「……っ!?」
「あははっ!知里、もしかして無自覚人たらし?」
「え?」
「潔、顔真っ赤だよ」
潔を見ると勢いよく顔を背け手をこちらに突き出していた。すると、また景色がパズルのピースのようにバラバラと崩れていき元の病室が現れた。
「頼むから……今は見ないでくれ……」
「あらら、崩れちゃった」
「い、潔くんごめんなさい!嫌な気持ちにさせたかな……」
「いや……嬉しいんだ。こんなエゴを綺麗って言ってくれて……俺も結構綺麗なイメージを知里に見せたかったから……」
「潔くん……」
「ありがとうな、知里。お前、凄く良い奴だ」
顔の熱が引いたのかはにかんだ笑顔を向ける潔に知里もつられて微笑む。すると、蜂楽が潔の背後に周り勢いよくのしかかる。
「はーい!いい雰囲気になってるとこ悪いけど、知里も今日は疲れてるだろうから俺らは退散しよ」
「は!?いや!そんなんじゃ、ちょ!押すな!蜂楽!」
「それじゃあ、おやすみ!知里!」
「あ、うん」
蜂楽は強引に潔の背中を押すと最後に知里にウインクし、扉を閉めた。一気に病室が静かになり、知里はふーっと肩を降ろしベットへ倒れ込む。体を横向きにし、自身の掌をじっと見つめる。
「私、これからどうなるんだろ……」