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第2話 ごめんなさい
保健室は静かだった。
窓の外から聞こえるのは、グラウンドで体育をしている生徒たちの声だけ。
黄は椅子に座りながら窓の外を見ていた。
みんな楽しそうだな。
そう思う。
でも、自分もあそこに混ざりたいとは思えなかった。
混ざりたい。
でも怖い。
そんな気持ちだった。
「黄くん。」
紫先生の声が聞こえる。
「はい。」
「少し慣れた?」
黄は少し考えた。
昨日初めて保健室に来た。
知らない人ばかりだった。
だけど、思っていたより怖くはなかった。
「……少しだけ。」
そう答えると、紫先生は微笑んだ。
「そっか。」
それだけだった。
無理に理由を聞いてくることもない。
教室へ行こうと言われることもない。
その優しさが少しだけ嬉しかった。
ガラッ。
扉が開く。
「失礼します。」
青だった。
青は黄を見ると優しく笑った。
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
黄は慌てて頭を下げる。
青は近くの席に座った。
それから本を開く。
静かな時間が流れた。
黄は何度か青の方を見た。
昨日から思っていた。
この人は不思議だ。
優しい。
でも、どこか寂しそうだった。
「どうしたの?」
突然声をかけられ、黄は肩を震わせた。
「ご、ごめんなさい!」
反射的に謝る。
青はきょとんとした。
「え?」
「その……見てしまって……。」
「別に気にしてないよ。」
青は困ったように笑う。
黄は俯いた。
まただ。
すぐ謝ってしまう。
怒られる前に謝る。
嫌われる前に謝る。
いつの間にか、それが癖になっていた。
すると青が小さく言った。
「謝るの、癖?」
黄は顔を上げる。
青は優しい目をしていた。
責めているわけではない。
ただ聞いているだけだった。
「……たぶん。」
黄は小さく答えた。
青はそれ以上聞かなかった。
昼休み。
保健室には赤も来ていた。
赤はいつものように窓際に座っている。
誰とも話さない。
でも帰ろうともしない。
そんな距離感だった。
橙もやって来た。
「腹減ったー!」
そう言いながらパンを取り出す。
「保健室で騒ぐな。」
赤が言う。
「えー。」
「うるさい。」
「ひどくない!?」
橙が騒ぐ。
青が笑う。
桃も少しだけ笑った。
黄はその様子を見ていた。
みんな色々な事情を抱えている。
でも、ここでは普通に話している。
教室ではないのに。
いや、教室じゃないからかもしれない。
「黄?」
突然橙が話しかけてきた。
「えっ!?」
「そんな緊張しなくていいって!」
橙は笑った。
黄は戸惑う。
「俺、怖い?」
「い、いや……。」
「じゃあ大丈夫!」
そう言って橙は笑う。
黄は思わず吹き出した。
「あ。」
笑ってしまった。
その瞬間だった。
頭の中に昔の声が蘇る。
『また黄が変なことしてる。』
『なんかムカつく。』
『気持ち悪い。』
胸が苦しくなる。
体が強張る。
気付けば口が勝手に動いていた。
「ご、ごめんなさい……。」
保健室が静かになる。
黄は慌てて俯いた。
まただ。
また言ってしまった。
すると。
「なんで?」
橙が不思議そうに聞いた。
「え……?」
「笑っただけじゃん。」
黄は言葉を失う。
当たり前のように言われたその言葉。
今まで誰も言ってくれなかった。
笑うこと。
話すこと。
そこにいること。
それだけで責められたことが何度もあった。
だから謝るのが当たり前になっていた。
でも。
「笑っていいんだよ。」
青が静かに言った。
「……。」
「黄が笑うと、なんか安心する。」
黄の目が大きくなる。
胸の奥がじんわり温かくなった。
嬉しかった。
ただ、それだけだった。
窓の外ではチャイムが鳴る。
昼休みの終わりを告げる音。
黄は保健室のみんなを見た。
まだ怖い。
まだ不安だ。
だけど。
ここなら少しだけ頑張れるかもしれない。
そう思えた。
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コメント
1件
寺島あおいです🌷 第3話、読み終えました。 黄くんが「笑っただけじゃん」って橙くんに言われて、青先生に「笑っていいんだよ」って言われるシーン、すごく沁みました……。謝ることが癖になってしまうって、どれだけ辛かったんだろうって胸が苦しくなりました。でも、保健室で少しずつ安心できる場所ができていく感じが、じんわり温かくて。周りの色の子たちも、それぞれ何かを抱えているけど、無理に踏み込まない距離感がリアルで好きです。 次が楽しみです🍀
#すとぷり
azunatubaki
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