落ち着いたあと、私は尊さんから聞いた長い話を整理しようと思った。
「……尊さんの話、おさらいしてもいいですか?」
「ああ」
彼の返事を聞き、私は思いだしながら尋ねる。
「尊さんの……速水家の実家は、オーディオ機器で有名な『HAYAMI』?」
「そうだ。だから祖母や母も音楽への造詣が深くて、俺も影響を受けた」
「なるほど……。……今はその叔母さん、……ちえりさん? 以外とは交流がないんですか?」
「そうだな。速水家では、母の話はタブーになっているらしいから」
勘当した娘と和解できないまま死別し、尊さんのお祖母さんが後悔していないはずがない。
けど、ちえりさんが言っていたように、意地になってどうする事もできないんだろう。
もう高齢だろうから、このままでは尊さんに会えないまま終わってしまうかもしれない。
(……何とか和解してほしいな)
そう思ったけれど、現時点ではどうしようもない。
「……っていうか……、亘さんは……」
さゆりさんの元をちょくちょく訪れ、尊さんがいるのに彼女を求めていたとか、呆れてものも言えない。
すると尊さんは皮肉げに笑った。
「あいつに呆れるのは今さら……、だろ」
「そうですけど……。あぁー、もう……」
小さい尊さんは、両親が何をしているのか理解していなかったとはいえ、彼が可哀想だ。
他の事についても「もっとしっかりできただろ!」と思ってしまう。
異性関係でこじれると、女性は女性を憎むのかもしれない。
けど、不甲斐ない男がいたから問題が起こった。
結婚したなら、どれだけさゆりさんに未練があっても諦めてほしかった。
逆に彼女が大切だったなら、勘当されてでも添い遂げてほしかった。
それができなかった亘さんは、今後すべての責任をとっていく……、のだと信じている。
「親父については成長と共に諦めてったな。……今は態度が軟化したっていうより、何も期待してないだけだ。俺は怜香のせいで色んなものを諦めたし、意地を張り続けても何にもならないって理解した」
諦めたと言った彼の横顔は、穏やかながらも寂しそうで、見ているだけで胸が締め付けられる。
だからこれからは全力で彼を応援していきたいと思った。
「尊さんは大人ですよね。ひねくれてるけど、心のキャパはとても大きいです。そうならざるを得なかったといっても、あなたの考え方に尊敬します。……だからきっと、これから幸せになれますよ」
「そんな……、何も出ねーぞ」
彼は苦笑いし、私の頭をクシャクシャと撫でる。
「今度、ちえりさんにお会いしたいって言ったら、応じてくれるでしょうか?」
「セッティングできると思う。俺もお前を紹介したい」
「はい!」
尊さんの親族に紹介してもらえるのが嬉しく、私は笑顔になる。
そのあと、陰の協力者を思いだして溜め息をついた。
「……そのうち、恵とちゃんと話さないと」
「どうなんだろうな。『言わぬが花』って言葉もあるし」
「……そうですね」
中学生の時に恵にキスをされたのは、今もまだ鮮烈に覚えている。
彼女がクラスの人気者だったのに対し、私は悪目立ちしているだけの社交性ゼロの陰キャだった。
恵が私に興味を持ったのを自覚した時は、『一匹狼だから珍しいんだろうな』と思っただけだ。
私はずっと一人行動を好んでいて、ボーッと考え事をする癖もあり、周りと足並みを揃える事ができなかった。
ほとんどのクラスメイトは私を『面倒だから関わらないでおこう』『面白くないやつ』『付き合いが悪い』と思っていただろう。
けど恵は面倒見がいいから私を気に掛け、個人的に話すきっかけができたから、今も付き合ってくれているんだと思っている。
恵が私に黙って尊さんに色々教えていた事については、「一言いってくれればいいのに」とは思う。
私だってずっと忍を気に掛けていたし、恵が教えてくれたなら昭人とは付き合わず、忍――尊さんと付き合って、今はもっと進んだ関係になれていたかもしれない。
でも、すべて過去の話だ。
私にとって恵は特別な人だし、彼女が気にする話題なら、よく考えてから行動すべきだと思った。
恵の話題になったからか、尊さんはばつが悪そうに言う。
「ずっとストーキングされてるって知って、気持ち悪かっただろ。……さっきも言った通り、俺は朱里の人生をねじ曲げた。お前がこうしてここにいるのは、運命じゃなくて俺が仕組んだからだ」
コメント
3件
12年間 大切に見守り続けたのは 本当に凄いと思う.... 朱里ちゃんを自分の人生に巻き込むことへの葛藤もあり、怜香に嗅ぎまわられる危険性もありで...😰 .それ以上のアプローチができなかったことも推察できる....😢 長い時を超えて、二人の純愛が実って嬉しい....💝✨
この12年間の見守りは凄いよね。これはやって欲しい。ストーキングじゃないよ( ´∀` )b
速水家のおばあさまと蟠りが解けるといいな〜。 尊さん!気持ち悪くなんてない!ずっと見守ってきてくれたって朱里ちゃん嬉しいはず。間違いない!怒られるよ〜!!!😭