テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「へぇー、ぺいんとくんもコ◯ン好きなんだ!」
満面の笑みで、仲間がやっと見つかったような顔をしていて、もっと早く声をかけられたのなら、と今頃になって思う。
「う、うん…誤解させてごめん。」
申し訳なさと、悔しさに顔を俯かせてそう言うと、トラゾーは「いやいや!勝手に誤解したのは俺だし!」と笑顔でそう言ってくれた。
胸が暖かくて、なんだか気持ち悪い。こんな気持ち、1日に何回も感じるものじゃないはずなのに。こうして幸せを噛み締めている自分が、気持ち悪いのはおかしいだろうか。
「……ちょっと、うるさいんですけど。」
ふと聞こえた高い声。後ろを振り向けば、そこにいたのはいつも図書室にいた女子のようで男子の生徒───しにがみくんだった。
怒っているのかわからないけれど…言われた言葉は、いいものとは思えなかった。
「あー、ごめんなさい!!」
「だから声がうるさいって言ってるんですけど?!」
トラゾーがあまりにも大きな声で謝ると、相手は不意を突かれたかのように大きな声でツッコんだ。…でも、相手の方が声が大きいような気もする。
「……ふふっ。 」
微かに漏れた笑い声。それはトラゾーからでもなく、相手の声でもない。
───俺だ。
本当にしょうもない。なんで笑ったのかもわからない。クラスでこれが起きていたのなら、真顔で無視できるのに…なぜか笑いが込み上げてきたのだ。
「あはははははっ!!」
「いや笑い声でかいな?!」
またしにがみさんは俺の声と同等の大きさで笑ってくる。でも…いや、うん。なんだか初めて学校で大笑いした気がする。
「ちょっと、図書室にいる人たち?」
ふと聞こえた声は3人ではない新しい声。低いけど落ち着いていて、のんびりできるような声。
「…って、またトラゾーとしにがみくん?」
その人は図書室に入りながらも少し呆れ顔で入ってきたのは、同じクラスである真面目キャラ───クロノアさんだった。
「っあ、君は…ぺいんとくんだよね?」
「え…あ、はい。」
どうやら相手は教室の隅にこびりつくような俺のことを詳しく知っているようで、なんでか満面の笑みになった。
「……なんか、イメージと違いますね。」
「へっ?!そ、そうかな…?w」
俺の中のクロノアさん像はもっときっちりした人───・・・いや、それはないか。
クラスで面白いことがあった時、この人大体最後まで笑っていて、笑いを堪えてるときをよく見る。…案外、思ってるほど真面目じゃないんだな。
「あっ、それよりさっきの笑い声…」
「「あっ、ぺいんと/さんです。」」
ふとサラッと言われた2人の言葉に俺は肩を震わせる。いや、笑い声そんなに変かな。…変な自信はあるけども。
「……はははは!!へー。トラゾーから話聞いてたけどほんと面白いね!」
「ちょっ、クロノアさん!!」
「えっ、お、俺のこと…?」
ふと言われた言葉に、俺は聞き返す。どうやらみんなトラゾーから話を聞いて俺のことを知っていて、トラゾーはずっと俺がコ◯ンの小説を見ているのを知っていて話しかけたかったけれど、勇気がなかったんだと。
そして不意に見つけた俺のアカウント。それで話の種ができたから話しかけたんだと。
「…へーっ、なんか”キセキ”だね!」
「ですね!!」
クロノアさんがそういうと、しにがみくんがそう返した。
「……そっか、キセキ……。 」
ふと、小さくつぶやいた。
キセキ。
そう思うと、なんだか胸が激しく鼓動した。初めて体験したキセキ。今までの俺ではあり得なかったしょうもなさと面白さ。そしてクロノアさんに怒られそうになった───不真面目感。真面目だったら疲れてるんだろうけど、今の俺は不真面目だ。
だって、図書室は静かにする場所なのに──────こんなに笑ってる。
「っあの!一つ提案なんですけど…」
ふと、みんなの視線がこちらを向く。怖い。まだ人の視線は怖い。…けど、この人たちの視線は楽しい。クラスメイトよりも遥かに面白くて、しょうもなくて、不真面目で。
───これが、どうしようもないほどの大きなキセキなんだ!
「みんなで一緒に、ゲーム実況しませんか…?」
───その日、その瞬間に、俺は繭を破った。