コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深瀬視点
ピコンッ
オフのため家でゆっくりと寛いでいた。
そんな俺の元にあるメッセージが届く。
誰だろう?
送ってきたのは彼だった。
「あれ⋯たっくんだ。
何だろう?」
どうやら話を聞くと、
大森くんから打ち上げの誘いを受けたらしいが、
一人で行くのが不安らしかった。
確かに世の中は「スマドリ」なるものがあり、
以前に比べればお酒を飲まなくても、
無理やり飲まされることはなかったが、
打ち上げには独特な雰囲気がある。
おまけにリハビリ中の星崎くんにとっても、
アルコールは大敵だ。
後遺症の治りが遅くなる可能性があり、
控えるように言われていた。
(まさか飲む気?)
ちゃんと監視しないとダメだなと思い、
一緒に行くために、
僕は彼を指定された時間より早めに迎えに行った。
「あの⋯ストーカーの件はもう片付きましたよ?」
「狙われやすいからたっくんが心配なんだよ」
確かにストーカーの件は終わっていた。
但し元社長が枕営業の切り札として使った、
盗撮写真は誰が撮ったものかだけはっきりしていなかった。
彼が後から追加で調べるとどうやら小鳥遊社長には、
カメラの知識も経験がないことが分かった。
つまり盗撮魔は別にいるのだ。
その人物が誰か判明しない限り、
この件は解決したとは言えないのだが、
どうにも彼にはその危機感がない。
だからこそ余計に心配になる。
「ふーさん?」
「ちょっと考え事してた。
ごめん⋯じゃあ行こうか」
アパートから彼を連れ出して、
俺は車を走らせた。
目的地まではいつもより少しだけ速度を落として、
なるべく彼と長く話せるように運転していた。
不思議なほどに彼といると時間が短く感じる。
その短さも特別で愛おしいだなんて、
笑っちゃうかな?
しばらく走っていると店の近くを通りかかったため、
駐車場に車を回す。
二人で車から降りて店まで歩く。
この何気ない二人の時間が続けばいいのに。
(やっぱり「好き」って伝えてみようかな?)
例え友人でいられなくなったとしても、
僕の気持ちに気づいてほしい。
好きでいるってことをわかってほしいから。
そんな俺の覚悟なんて知らない彼は、
店先で俺を持っていた。
先に入らないところが彼らしい。
「えっと⋯⋯こんばんわ」
「今日は急に誘ってごめんね」
「いえ、
大丈夫です」
大森くんとは以前のようなよそよそしさがなくなり、
言葉もきちんと聞き取れるような話し方で、
会話が成立する。
ただそれだけのことなのに、
彼が大森くんへ歩み寄りをかけたことに、
嫌でも気づいてしまい、
嫉妬する。
俺ってこんなに執着心というか、
束縛が強かったのかと、
自分自身でさえ知らなことに彼を通して知った。
「それよりも部外者なのに、
参加しちゃっていいんですか?」
こういう遠慮がちなところにはまだ距離を感じるが、
少なくとも前よりは距離が近いように感じる。
もしかしてもう大森くんのこと、
好きになったりしていないのだろうか。
告白を覚悟したはずが、
決意が揺らいでいく。
あまりに二人の距離の詰め方がはやいため、
俺は不自然に勘繰ってしまう。
「たっくんってお酒強いの?」
二人の会話を遮るように話題を変える。
あまり大森くんと楽しそうに話して欲しくなかった。
普段なら会話に割り込むなんてしないのに、
彼のことが絡むと僕はどうにも余裕がなくなる。
「優里さんほど強くないですが、
少しならいけるくらいかな」
中には飲んだらキャラが変わる人もいたりするが、
彼はお酒が飲めても弱いタイプらしい。
さらにタチが悪いことに、
彼は酔っ払うと普段以上に接触癖が出て、
誰にでも抱きつくところがあった。
そのため外では飲めないことにして断るように言い聞かせて、
彼か俺の家で宅飲みしかしないように制限をかけているほどだ。
「でも今日はダメだよ」
「何で!?」
食い気味にショックを受けて食い下がろうとする彼をみて、
やっぱり飲む気だったのかと呆れて、
俺は思わずため息をつく。
本当に油断も隙もない。
ついてきてよかった。
彼にはやはり監視が必要だと改めて実感した。
もっと自分の体のことを考えてほしいものだ。
高音を失って自暴自棄になっているのだろうか?
理由はわからないが、
彼の中に何かしらの不安があるなら、
それを全部消したい。
自分に何ができるかわからないけど、
彼が辛い時にはそばにいて支えることはできるはずだ。
その「役」は誰にも奪われたくない。
「一口だけは?」
「だめ」
「グラスに口つける程度なら?」
「だめに決まってるでしょ」
彼はシュンとあからさまにテンションが低くなる。
その姿が可愛い。
一方でまだ食い下がる気かと、
彼のしつこさに少し笑う。
(ああ、
本当に好きだな)
彼の右側に目を向けると独占欲丸出しの大森くんと目が合う。
怖っ!
俺よりも束縛が強そうだな。
そんなことには全く気づいてない星崎くんは、
退屈した表情でテーブルに突っ伏して、
不満気に「お酒〜」と恨めしそうな抗議の声を上げた。
俺は彼の隣で「我慢してね」と宥めすかす。
先輩後輩の関係よりも、
まるで兄弟のようだ。
その後も和やかに打ち上げが続いていた。
しかしーーーー
「大森さ〜ん!
飲んでますか?」
悪酔いしていると一目でわかるほど、
スタッフの一人が大森くんに絡んできた。
馴れ馴れしくその腕に自分の腕を絡めていたが、
肝心の大森くんは隣にいる彼を意識していた。
(分かりやすいくらいすぐ離れてほしそうに、
嫌な顔してるな)
そうは思うが、
相手は女性のため、
振り払えないようだ。
それを知っていてかどうかはわからないが、
抵抗できないため、
大森くんはどうにか言葉で説得しようとした。
ちょうどそのタイミングで彼がいきなり席を立った。
俯いてはいたが、
髪の隙間からのぞいた表情は暗い。
何となく直感で彼が泣いてしまう気がして、
俺も追いかけるように席を立つ。
一時的にトイレに逃げ込んだ彼は案の定泣いていた。
理由なんて聞かなくても分かる。
大森くんと女性スタッフのことだろう。
僕だったら絶対に泣かせないのに。
「たっくん⋯おいで。
ぎゅーしてあげるから」
泣きすぎてうまく話せないのか、
彼は何も言わないまま抱きついてきた。
「こんな時にごめん。
俺たっくんのこと恋愛の意味で、
恋人になりたいくらい好き」
腕の中でビクリと彼の体が反応した。
違う。
本当はこんなふうに告白するつもりじゃなかった。
怖がらせてしまっただろうか。
そもそも彼がゲイかどうかも分からないのに、
大森くんに彼を取られたくなくて少しはやまったか。
俺の腕の中で泣きじゃくる星崎くんと、
背中を撫でながら慰める俺の姿を見て、
視界の端で追いかけて来たらしい大森くんが固まる。
その時だった。
迷ったような表情で彼が言葉を紡いだ。
「僕は、
ふーさんのこと⋯⋯」
まだ目に涙を溜めて、
途切れ途切れでどうにか話す。
なんだろう。
受け入れてくれるのかな?
トイレのドアを開けたまま固まっていた大森くんが、
嫉妬やら焦りやらを隠そうともしないで、
僕らに詰め寄ってきた。
「星崎!」
名前を呼んだと思ったら、
大森くんが強引に引き剥がした。
突然のことに彼が驚いた表情をするのも構わず、
腕を引いて歩く。
「たっくんに乱暴なことしないでくれる!?」
咄嗟に僕は叫んでいたが、
大森くんは立ち止まらなかった。
何だよ、
今すごくいいところだったのに。
あんなふうに邪魔されるなんて思わなかった。
あともう少しで告白の返事が聞けるかもしれないところだった。
それが叶わなくて俺は正に生殺し状態だ。
やっぱり彼が弱っているところに告白して、
付け込もうとしたのがダメだったのか?
好きな人にはどんな形でも意識されたい。
これってエゴ?
ちゃんと恋?
分からないや。
ねえ、
俺のものになってくれなくてもいいから、
せめて「好き」って聞かせてよ。
雫騎の雑談コーナー
はい!
大変申し訳ありませんが、
ここで力尽きたので、
中途半端ではありますが一旦切ります。
ガッツリ長く書くよりもまったりいきたいので、
まだしばらくはお付き合いくださいませ。
では本編へ行きましょう。
大森さんから打ち上げに誘われた星崎ですが、
どうにも(酒癖悪いから)一人で行くのは怖いんです。
あとね短めにまとめるためにサラッと流してますが、
ストーカーと盗撮魔は別人です。
またしても不穏な動きがありますね。
さらに大森さんへ女性スタッフが絡み酒からのボディタッチで、
はっきりピシャリと断らないため、
ショックを受けて泣いてしまう。
そんな中で深瀬さんがついに動き出して、
星崎に告白をするんですね。
でも返事を聞くのを怖がった大森さんに星崎を掻っ攫われて、
深瀬さんも肝心の返事が聞けなくて不完全燃焼状態に陥ります。
果たしてここからどうなることやら。
次回では大森さんがついに!?な展開に(したい)なる予定です。
予定ではね。