大森視点
とりあえず自分の車に星崎を押し込んで、
マンションに向かって走らせた。
その車内でも彼の涙は止まる気配すらなく、
ボロボロとこぼれ落ちて、
空気は当然重かった。
とても気安く話しかけられる状態ではない。
泣いているその理由が知りたい。
もしもスタッフからのボディタッチでこうなったとしたら、
不謹慎にも嬉しいと思う自分がいて、
自己嫌悪に陥りそうになった。
お互いに無言のままマンションの部屋の入っていく。
振り払われることすら覚悟して、
俺はおそるおそる彼の手を引いた。
弱っているからか抵抗もされなくて安心した。
その一方で握り返してこない手に、
僅かな寂しさも感じる。
とりあえずリビングのソファに彼を座らせ、
少しでも彼が落ち着けるように、
コップに牛乳を注いでホットミルクにするためレンジにかけた。
数分でコップを持って彼の隣に座る。
「飲む?
少し落ち着くと思うよ」
返事はない。
それどころか受け取ろうともしなかった。
どうしたらいいのだろう。
情けないほどこんな時に何と声をかけて寄り添えばいいのか、
何も言葉が思い浮かばない。
ススッ
そっと肘掛け側に寄って、
星崎が俺から距離を取った。
何で?
何が嫌だったの?
言ってくれなきゃ分からないよ。
俺は一旦コップを近くの机に置いて、
彼の手に指先だけ触れる。
店先で手を繋いだ時よりもさらに冷たさが増していた。
少しでも温まるように冷め切った彼の手を、
俺は両手で包み込む。
体温を分けるためだ。
じわじわと温まっていくの感じる。
「お⋯おおも、
りさん?」
消え入りそうな僅かな声で、
切な気に俺の名前を呼ぶ。
目元には乾くことを知らない涙がまだ残っていた。
その涙を止めたくて、
俺は無意識で彼にそっと目元にキスをしていた。
「ぁっ⋯⋯」
突き飛ばされるかと思ったら、
星崎が俺にしがみついてきた。
やっぱり守るために、
彼のそばにいたい。
もっと笑ってほしい。
もっと俺を意識してほしい。
「やっと泣き止んだ。
星崎⋯⋯好きだよ」
一瞬ポカンとした顔をした後で、
彼が呟いた。
ただ一言「嘘」とだけーーー
あれ?
信じてないのか?
「それじゃあ⋯スタッフとイチャついてたのは、
僕への当てつけですか?」
俺に怒りをぶつけてそう星崎が問い詰める。
そうじゃない。
俺を疑っているわけではなく、
彼は嫉妬していた。
俺への好意がなければ、
そんなことは思わないはず。
少しでも自分に気持ちが傾き始めていることを感じて、
俺は嬉しくなった。
「当てつけじゃないよ。
俺も嫌だった。
出来れば信じてほしい」
「じゃあもう一回。
それで⋯信じます」
ん?
もう一回って何だ。
よく分からず考え込んでいると、
星崎が少し上を向いて目を閉じた。
もしかしてキスのこと?
無意識で煽ってるのか!?
俺の中に知らなかった彼の一面として、
星崎が弱っている時は「意外と小悪魔」が追加された。
俺は腕を彼の腰と背中に回して抱き寄せて、
もう一度今度は唇にキスをする。
段々と深いものに変わっていくと、
彼の慣れた舌使いで俺は理性を完全に崩された。
俺はそれに対抗するため、
噛み付くような、
貪るような、
激しいキスになる。
(勝手に下手そうと思ってたけど⋯コイツ上手すぎるだろ)
つまりそれだけだけ、
経験の差があるってことか?
なんか悔しい。
こんなこと俺以外知らないでいてほしい。
彼に恋をしてからは一向に独占欲が薄まることがなかった。
俺は思わず彼の腰に回した腕にグッと力をこめる。
「うっ⋯⋯首、
痛い!」
俺の胸を押し返しながら苦言を言う。
夢中になりすぎていた意識が、
彼の言葉で急浮上してくる。
あ、
そうだった。
俺たちにはかなりの身長差があり、
キスをしようとすれば、
どちらかの体に負担がかかるのだ。
俺が背中を丸めて小さく屈むか、
星崎が背伸びや膝立ちしなければならないため、
無理な体制をしなければならない。
「ごめん」
彼の辛そうな首元を俺は優しく撫でる。
もっと楽にキスができたらいいのにな。
そう思わずにはいられなかった。
「信じて⋯くれる?」
「まあ、
そうですね。
気持ちは⋯十分に伝わりました」
雫騎の雑談コーナー
はい!
今日は嬉しいご報告があります。
なんとフォロワー様が20人(2025.04.20付)となりました。
励みになるのでありがたいことです。
やっぱり数だけじゃない繋がりって大事ですね。
期待に添えるものが書けるかどうかはわかりませんが、
これからも雫騎は日々精進していきます。
では本編にいきます。
星崎が泣いたその理由を知りたい大森さんですが、
無理に聞き出すことは躊躇われるものがあり、
本人が話せるように落ち着せようとしている様子が⋯⋯⋯⋯伝わっているのか?
そして深瀬さんを制した大森さんも、
遂に告白に踏み切ったんですね。
でもスタッフのことがあって揶揄われているのでは?
と信じきれない星崎に、
ちゃんと説明して大森さんは誤解を解いていく。
そして大森さんの気持ちも伝わりはするんです。
ちなみにキスのテクはこのシリーズでは、
大森さんより星崎の方が上の設定で展開しています。
ただ「好き」とは言っても、
はっきり「付き合おう」とは大森さんが言わなかったこともあり、
次回では星崎がやっぱりおかしな方向に解釈してしまいます。
引き続きお楽しみに〜♪
コメント
15件
わぁ、めっちゃ好きです…!!! いろいろあって全然読めてなかったんですが、やっと追いつけた… 続き楽しみすぎます! 派生の「ヒロインになりたくて」も読まなくちゃ! コメント失礼しました!!!