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今年もまた、灼熱の日光が降り注ぐ、いわゆる「夏」というやつが俺のところにもやってきた。そしてこの「夏」の厄介なところは、気温だけでなく周りのカップルが熱くなるのだ。それはもう40℃超えの日に一日中日差しによって温められたマンホールのように。昨年まで、俺はその熱すぎる人たちを指をくわえて眺めていることしかできなかった。そう、昨年までは。俺は今年の4月、運命的な出会いをした。見た瞬間ビビッとなにか衝撃が走ってような、そんな感覚だった。あのとき香ってきた甘くも少しスパイシーなカーネーションの香りは今も俺の中に深く刻み込まれている。まぁこじらせて言っているが結局のところ一目惚れなのだが。しかしそれは相手も同じだったようで俺たちはすぐに恋仲になった。そして今年の夏、俺は、俺たちは、夏祭りで熱々になる!!……予定だ。つまり俺は今年はとりあえず勝ち組が約束されているのだ。これは素直に言っていいか?

「めっっっっちゃ嬉しィィィィ!!!!!!」

「ちょっとうっさいんだけど!」

「あ……ごめんごめん」

「近所にも迷惑だから叫び散らかすんじゃない!!」

「ハイ……すんません……」

いかんいかん、つい気持ちが高ぶってしまった。でもそれだけ嬉しさがこみ上げてきているということなのだろう。

しかし、それはそれとして、1つだけ気がかりなことがある。彼女はとにかく写真を嫌うというところだ。別に大きな問題ってわけでもないのだが、写ってくれてもいいのでは?と、思うところはある。まぁなにか事情があるのかもしれないしあまり気にしすぎるのも良くないか。そんなことより俺は、来たる8月15日の夏祭りで彼女楽しませるために準備をしないとな!!

「えーと……あれと、あれと、それから……」


──10日後

「ッハ!!今何時だ?!」

壁にかけられた時計の短針はちょうど5を通り過ぎたあたりを指していた。

「や、やべぇ…!!」

昨日の夜は今日があまりに楽しみすぎて徹夜をしてしまい、眠いまま行くのも良くないと思ったので、2時から2時間だけ寝ようと思っていたのだ。「待ち合わせ5時10分くらいなのに~!!」

ここから走ってギリ15分くらいだから遅刻確定だ……急いで支度をして俺はせわしなく家を出た。(あぁ……まずいまずい……)心の中で焦る気持ちがだんだんと膨らんでいく。そんな中、人の気も知らずのんきに話しかけてくるやつの声が俺の足を止めた。

「おーい、想大(そうた)〜」

振り返るとそこには俺の数少ない友達、心助(しんすけ)が車の窓を開けてこっちに手を振っていた。

「だいぶ急いでるみたいだったけど、どしたの?」

「いや、実は彼女との待ち合わせにほぼ確実に遅れそうなんだよ!!じゃあな!!」

「あ、おい!!待てよ!!」

「え?俺急いでるんだけど?」

「間に合わねーんだろ?乗ってけよ!!」

そう言うと心助は後ろ座席を親指で指した。やっぱ持つべきものは友だな……

「じゃあお言葉に甘えて……」

「おし!!飛ばすぞ~!!」


「いやーサンキューな!!おかげでギリ間に合ったわ。」

「あぁ、それよりデート、楽しんでこいよ!!」

「おう!!じゃあ、またな!!」

心助に手を振りながら俺は駆けていった。


さてと、待ち合わせ場所についたけどまだ来てないみたいだな。まぁしばらく待っとくか。と思った瞬間、誰かに両肩をガシッと掴まれた。

「うぉ!!」

咄嗟に振り返るとそこには、俺の反応を見て笑う彼女、花園 華穂(はなぞの かほ)の姿があった。

「ふふ、びっくりしすぎでしょ」

「いきなり肩掴まれたら誰だってびっくりするだろ!!思わず変な声出ちゃった……」

「想大ってほんと面白いよねw一緒にいて飽きないよ」

「え?あぁ、ありがと?」

一緒にいて飽きないのは俺も同じだけどな。流石に自分で言うのはなんか照れくさいから言わないんだけど。

「じゃあ、行こっか?」

「お、おう!!」


俺たちはとりあえず屋台を回ってだいぶ早めの夜ご飯を調達した。

「いやー、やっぱ夏祭りの屋台は格別だね〜」

「だね〜なんか特別感があるもんね〜」

「あ、そうだ!!」

「ん?」

「あ~んってしてあげようか?ほらほらw」

そう言うと華穂がスプーンにのせたかき氷を俺に近づけてきた。

「えっ、ちょっ」

「え?させてくれないの?」

「ぬ……あ、あーん……」

なんだこの痛い視線ととてつもない恥ずかしさは。

「あ……もう6時か……」

不意に華穂がそう呟いた。

「そうだけど、どうかしたの?」

「えーと……もういかないと……かな」

申し訳無さそうに華穂が言う。

(?! このあと一緒に花火を見ようと思ってたのに……てかまだ遊びという遊びさえしてないよな?まさか嫌われた?とりあえず理由だけ聞いてみるか)

「えっとー、な、なんで?」

俺は恐る恐る質問した。

「え?えーっと……えっとー……」

華穂の言葉が完全に途絶えてしまった。やっぱり俺は……

「理由は……ごめんね、言えない……でも、嫌ってるわけでも楽しくなかった訳でもないから!!これだけは信じて?」

「じゃ、じゃあなんで……それじゃ納得できないよ!!」

「わ、分かった、じゃあ日が暮れるまで、それまでだったらいいよ」

「花火は……一緒に見れないの?」

「う……じゃあ今日だけだよ?ホントのホントに今日だけでいいの?」

「?それってどういう……?」

「あぁ〜なんでもないなんでもない、花火、見に行こっか」

「え?あ、あぁ」

俺はこのとき疑問を持ったもののそのまま流してしまった。まさかこんな取り返しのつかないようなことになるとは思ってもみなかったから。


──30分後

「この花火は8月15日というこの日にちなんでお盆の送り火を盛大にやろうということで初めたのがきっかけと……」

花火会場では花火のアナウンスガ流れている。

「場所取れてよかったね〜」

「う、うん、楽しもうね!!」

なんかやけに緊張するな。やっぱりこういうのが初めてだからか?

ヒュ~ バーン

ぎこちない会話でその場を繋げていると夜空にきれいな花が咲いた。そしてみるみるうちに夜空は鮮やかな花で満たされていった。


「ねぇ、華穂?俺、まだ華穂と付き合って半年もたってないけどさ、華穂が俺にとって初めての大事な人なんだ……だから、だからさ!!俺といるときはいつもより楽しくしてみせるって約束するから、また来年も一緒にここに来てくれませんか?

聞いた勢いでそのまま彼女の方を向くと、そこには……彼女の姿は無かった。が、代わりに手紙と一輪の白いカーネーションが置いてあった。

「想大君へ 今まで隠しててごめんね。私はもうこの世界にいてはいけない人です。この送り花火と一緒に私は向こうへいきます。姿を見せながらの約束をすることはできませんが、姿が見えなくてもずっと近くにいることは忘れないでください。最後に、私の思いをその花に込めました。楽しい時間をありがとうございました 華穂」

そんなのありか?そんな一方的なのって……ありかよ。もし、俺があのとき引き止めてなかったらもう1秒でも長くいられたんだろうか?そう思うと、だんだんと視界が滲み出した。俺の勝手な考えのせいで……

俺はその日、頭が痛くなるくらいまで枕を涙で濡らした。


──翌朝

昨日は気にしてなかったが、最後のメッセージをしっかりと受け止めようと思い、白いカーネーションについてネットで調べていた。そこにある白いカーネーションの花言葉を見た瞬間俺はなにかに撃たれたかのように家を飛び出した。流石にお墓までは分からずとも、あそこへ俺はいかなきゃならない。初めてあったあの場所へ。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

2

ユーザー

ホントですか?良かったです!! 直接言わずともメッセージを伝えられるのがいいなと思って今回入れて見ました。

ユーザー

白いカーネーションの花言葉、調べました…… 私の愛は生きている。 鳥肌がたちました。

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