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コメント
4件
あーーーー素敵😍✨🖤💚
楽しみに読んでます😊ついにですね❤️ 本当に何となくですが、私も躊躇めめと背中押す阿部ちゃんの図式を書きがちです。笑
「うん、だいぶ良くなったと思う!やっぱりラウールくんは賢いね」
「ありがとう!でも、僕そんなに頭良いって思ったことないけどなぁ…」
「ううん、ちゃんと質問の意図を理解してから答えてくれてるってわかるから、きっと面接してくれる人も、ラウールくんが頭いい子だって気付くと思うよ。」
「うん、俺が社長だったら合格って言う。」
「二人ともありがとう!嬉しい!すごく自信湧いてくる!」
ラウールくんの最終面接は、来週の火曜日。あと少しで本番だ。
回数を重ねるごとにどんどん上達していくラウールくんに、なぜかこの練習に参加している目黒くんも、太鼓判を押してくれている。毎週日曜日に必ず付き合ってくれてるけど、お仕事は大丈夫なのかなぁ…と少し心配になる。
先々週から始めて、ここまでとても良い調子で進んでいるので、今の状態で十分に内定はもらえると思うのだけれど、真面目なラウールくんのことだからきっと、、
「阿部ちゃん、他に、もっとこうしたほうがいいと思うことある…?」
、、やっぱり、まだまだって自分では思っちゃうよね…。困ったなぁ…。
この練習を始めたばかりの頃は、敬語の使い方や、聞かれた質問に対して会社の人はどういう回答を求めているのかなど、そんなことくらいだけど、俺でも伝えられることがあった。しかし、ラウールくんは飲み込みが早くて、すぐに自分のものにしてしまい、俺が教えられることなんて、もう無くなってしまった。
「うーん…そうだなぁ…あ、、」
間が空いてしまわないようにと言葉を繋いで、一つだけ浮かんだ。
「言葉の発し方、気を付けてみて?」
「発し方?」
「うん、いつものほわほわ〜とした話し方も可愛くて素敵だけど、素直で誠実そうな話し方にすると結構印象が変わって、仕事をする上でこの人だったら大丈夫だって相手に安心してもらえると思うよ。」
「なるほど〜!でも、話し方って難しいね。いつもの自分とは、ちょっと違う人になってみるみたいなことだもんね。」
「そうだね、、伝えたいこと自体は自分が思ってることを話すけど、伝え方はちょっと自分を変えるようなイメージかもね。」
「なんだかお芝居するみたいだね…難しそう…」
困ったように眉根を寄せるラウールくん。
「そっち方面なら、俺が教えられる。」
唐突に目黒くんが手を挙げた。
「え!ほんと!?」
「これでもドラマやらせてもらったこともあるし、任せて。」
「ありがとう!よろしくお願いします!」
次の課題が見つかったことに喜んでいる様子のラウールくんに少し安心して、ふと時計を見ると、なんと、時刻はもう19時を回っていた。
「わ!もうこんな時間になってたの!?ラウールくん時間大丈夫!?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
「じゃあ、ラウールくんと目黒くんで特訓してる間、俺ご飯作っておこうかな。みんなで一緒に食べて、今日は解散にしようか」
「わーい!阿部ちゃんありがとう!」
「ぅっしゃぁ…! 阿部ちゃんのご飯…!」
「あと少し、頑張ってね。目黒くん、よろしくね。」
そう二人に言い残して、キッチンへ向かった。
最近、人付き合いが多くなったので、いつ何があってもいいようにと、久しぶりにスーパーに行って、日持ちするような食材を買っておいてよかった。
と言っても、難しいものは作れない。
大きい鍋に水を入れて火にかけてから、まだ封を切っていないパスタの袋を戸棚から取り出した。
阿部ちゃんがご飯を作ってくれている間、ラウールと二人で面接の練習をする。
正直、面接なんてほぼしたことがないから、良し悪しが何もわからなくて、今まではずっとラウールと阿部ちゃんのやり取りを見ているだけだった。
練習を重ねるごとに、ラウールは俺から見ても間違いなく合格だろうと思う程に、上手になっていった。
真剣な表情をして、ラウールは俺に尋ねる。
「目黒くん、お芝居ってどうやるの?」
「うーん、人によってやり方は違うと思うけど、ラウールが相手にどう見られたいかって考えた方が早いかなって俺は思う。」
「どう見られたいか?」
「そう。同じ男性でも、いろんな雰囲気の人がいるでしょ?声が大きい人は元気な人に見えるし、落ち着いて話す人はクールに見えるでしょ?」
「うん、確かに」
「だから、どんな人だと思われたいのか、そのイメージに自分の雰囲気を近づけて行くって考えてみな。ラウールの中に理想の人がいたら、その人の真似をしてみるのもありだよ。」
「うーん、それで言うと、僕オーナーみたいに落ち着いて話す人とか、阿部ちゃんみたいにニコニコしてる人とか、いいなって思うかも」
「なら、オーナーの話し方と、阿部ちゃんの表情真似してみな」
「ありがとう!イメージ湧いてきた!」
また何度も練習を重ねた。
質問内容は、阿部ちゃんが作ってくれていたメモがあったので、面接官役に困らずに済んだ。
そのメモには質問内容の他に、質問の意図はこうだとか、「いい回答例、△な回答例」とか、面接官はどこを見ているのか、とかも書かれていた。
きっと仕事の合間に、阿部ちゃんは対策を立てていたんだろうなと想像できた。人のためにここまで時間を使える人なんてなかなかいない。
やっぱり阿部ちゃんは優しいな。
誰かのために一生懸命になれる阿部ちゃんに、心がじんわり温かくなって、楽しそうにご飯を作ってくれている姿を眺めていると、ラウールに話しかけられた。
「そんなに見てたら、阿部ちゃんに穴が空いちゃうよ?」
ラウールは高い声で楽しそうに笑い、「大好きなんだね」と続けた。
「うん、大好きだよ。何よりも大切な人。」
特に気持ちを隠す理由もないので、素直にそう答えた。
「いいなー、僕も早くそうやって言いたい」
「ん?好きな人いるの?」
「うん、ずっと大好きなの!」
「その人とは連絡したりしてるの?」
「ううん、もうずっと会ってないし、連絡先も知らないの。僕、一目惚れしたんだ。その人と会ったのはその一回きり。」
「そうなんだ。会えないのって辛いよな。」
「確かにもう一回会いたいなって思うけど、その人が言ってくれたんだ。「いつかまた、ここで会えるのを待ってる」って。だから、絶対にまたもう一度会いに行こうって決めたし、その人が言った「ここで」っていう場所で会うことが大事だなって思うから、それが叶うまでは会えなくても、その人が好きだって思う気持ちで頑張れるよ。」
ラウールは見かけによらず、なかなか強い子だと思った。俺だったらきっと耐えられない。
毎日だって阿部ちゃんに会いたいし、なんなら待てなさすぎて本当は一緒に住みたいし。もし、阿部ちゃんと約束を果たすまで会わないと決断しなければならないことになったとしても、こんなに辛抱強く会いたい気持ちを抑えて踏ん張ることは、俺にはきっとできない。
「すごいな。俺ならできない。」
「えー、目黒くんも僕と同じタイプだと思ってたけどな。まだ付き合ってない頃からの阿部ちゃんを見てた感じ、阿部ちゃんが目黒くんのこと好きになるまで結構時間かかったでしょ?」
「あー、そうだね」
「それまで目黒くんはずっと待ってたわけだから、そう言う意味では目黒くんも、成就するまでずっと一人で頑張ってたんじゃないかなって、僕は思うけどな。」
「ありがとう。」
「どういたしまして!キャハハ!それよりも、阿部ちゃんが目黒くんを連れてきた時はびっくりしたよー!まさか、目黒くんが探してた人が阿部ちゃんだったとは思ってなかったよー!それに友達少なそうなしょっぴーの仲間だったってのもびっくりしたんだから!」
「俺も驚いたよ。あの日俺がたまたま入ったお店に、阿部ちゃんもよく行ってたって初めて知ったし、しょっぴーがそこにいることも、ずっと気になってたしょっぴーの恋人がオーナーだったことも。」
「なんか、世間って意外と狭いんだね」
「そうだな。俺もそう思うよ。まぁ、 頑張れよ。」
「うん、ありがとう!」
こんないい子が幸せになれなかったら、俺はきっと神様を恨む。
この子の願いが全部叶いますようにと祈りを込め、この子があと少し踏ん張れるようにと励ましの意味も込めて、ラウールの肩に腕を回して3回叩いた。
ご飯を作り終えて、両手で持てる人だけのお皿を持って二人のところへ運んだ。
「練習はうまくいった?なんだか楽しそうだね、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
俺がご飯を作りにいく前よりも二人は楽しそうにしていて、嬉しくなる。不思議な繋がりだけど、ラウールくんと目黒くんが仲良くなってくれてよかった。
「ちょっとね。ご飯作ってくれてありがとう、俺が運ぶよ。」
目黒くんが手伝ってくれる。
「ありがとう!」
「阿部ちゃん、阿部ちゃん!目黒くんとね恋バナしたんだよー!」
「そうだったの!」
「そしたら、友情が芽生えた!」
「そっか、二人が仲良くなってくれて、俺も嬉しいよ」
「それからね、目黒くん、ご飯作ってる阿部ちゃんのことずっと見てたよ。阿部ちゃんが何よりも大切なんだって…!」
「そっか………っ」
ラウールくんが小さな声で教えてくれた内緒話に、俺は赤面するばかりだった。
もう、、ラウールくんにまで何言ってるの、、、、。
阿部ちゃんは、サラダとカルボナーラを作ってくれた。
おいしいと伝えると、阿部ちゃんは「ありがとう、レトルトだけどね」と照れくさそうに笑った。でも、そういう出来合いのソースよりも全然美味しくて、阿部ちゃんがなにか一手間加えてくれたんだろうなと思う。
料理上手で優しくて、控えめで、毎日好きが増えていく阿部ちゃんに、いつプロポーズしようかな、なんて考えていたら、あっという間に平らげてしまった。
「阿部ちゃん、目黒くん、今日もありがとう!僕、頑張ってくるね!」
「うん、頑張ってね!」
「うん、いろいろ応援してる。」
「じゃあ、お邪魔しました!」
「またね」
ご飯を食べ終えて、ラウールを見送った。
本番まで明後日か、、緊張しているだろうが、ラウールは楽しそうに手を振って帰っていった。
玄関のドアがバタンと閉まる音が、突然二人だけの空間になったことを知らせる。
少しの沈黙。
阿部ちゃんはくるっと向きを変えて、リビングの方に戻っていこうとする。
俺は追いかけるようにして、阿部ちゃんについていき、後ろから抱き締めた。
「わっ、目黒くん、どうしたの?」
咄嗟のことに驚いた様子の阿部ちゃん。久しぶりに二人きりになれたような気がして、ずっと隠れていた恋しさが飛び出していったんだ。
「しばらくこうさせて」
うまく言葉にできなくて、こんなことしか言えない。
でも、阿部ちゃんはくすっと笑って、俺の手に優しく触れる。一度離すように促して、俺の方を向いてくれる。
「せっかくなら、俺はこっちがいいな」
そう言って阿部ちゃんは、少し背伸びをして俺を抱き締めてくれた。
「ふふ、あったかいね」
俺の肩に顎を乗せて笑う阿部ちゃんの声が、じんわりと響く。俺の首に回してくれた細い腕にたまらなくなって、阿部ちゃんを抱き上げた。
「ぅわッ!?目黒くんどうしたの!?恥ずかしいから下ろして…っ!」
落ちないようにと、俺の首にしがみつく阿部ちゃんを抱えたままリビングへ向かう。ソファーの上に阿部ちゃんを優しく下ろして寝転がせる。阿部ちゃんを見つめるだけで、苦しくなる。伝えたいことが山積みになって、ぎゅうぎゅうに俺の中に押し込まれていく。隙間もないほどに詰め込まれた気持ちを引っ張り出せなくて、言葉が紡げない。
今はただ触れたくて、それだけを尋ねた。
「キスしていい?」
「っ…」
両手で顔を覆いながら、こくこくと頷く阿部ちゃん。
あぁ、、すごくかわいい。
「顔、みせて…?」
そう言って頭を撫でれば、阿部ちゃんはゆっくりと手をどけて顔を見せてくれる。
赤く染まって潤んでいる。ふるふると揺れる瞳に吸い込まれるように顔を近づけて、そのまま口付けた。
唇、頬、鼻、目尻、額と、顔中にキスをして、もう一度唇に触れる。
啄むように何度か触れると、阿部ちゃんはもどかしそうに眉を寄せる。
「口開けて」と伝えれば、おずおずとゆっくり開かれるそこに、なんの躊躇もなく入り込む。
「んッ、ぁ…は……っ、、ふぁ…ん…」
阿部ちゃんの甘い声が直接体の中に共鳴して、何度も理性が飛びそうになる。
重なった唇が、交わった舌が、絡まった唾液が、その全てが熱くて溶けてしまいそうだった。それでもキスだけじゃ足りなくて、何度も阿部ちゃんの頭を撫でて、耳の形を指でなぞる。俺の服を小さく掴む阿部ちゃんの指を絡め取って強く繋いだ。
俺が触れるたびに震える阿部ちゃんの体が愛おしかった。
こんなに触れ合っているのに まだ足りない。まだ欲しい。阿部ちゃんの全部に触れたい。
でも、阿部ちゃんに無理はさせたくない。怯えさせたくはない。
狭間で葛藤する俺の気持ちに気付いてくれたのか、阿部ちゃんは覆い被さる俺の首に、空いている方の腕を回して俺を引き寄せ、
「俺は大丈夫だから、俺が行けるところまで連れていって」と言ってくれた。
阿部ちゃんが俺を受け入れてくれること、許してくれること、一緒に歩いてくれること、その全てが嬉しくて泣き出してしまいそうだった。
「怖かったらすぐに教えて」
そう伝えて、もう一度キスをしてから、阿部ちゃんの首に口付けた。
To Be Continued…………………