テラーノベル
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「…………」
アーウィンはレナの小さな背中が闇に飲み込まれていくのを、じっと見送る。
その気配が離れやがて感じられなくなると、ようやく瞬きをした。
赤く散った少年を振り返る。
これは人の抜け殻。
やがて腐りゆくだけの肉の塊。
「オーゼンナートの第七子もこんなものか……」
選ばれた子。首座に就くべき者。再来。
「…………」
長い沈黙の後、黒い髪の冥使はポツリと呟いた。
「フレデリック……」
「…………」
灯火堂を抜けると、そこには網目の洞窟が広がっていた。
どっちに行けばいいんだろう。
闇雲に進むと迷ってしまいそう……。
でも大丈夫。
必ず何か手掛かりがあるわ。
だってこの闇は私を招いているのだもの。
風の向きを追って迷路のような洞窟を抜けると、そこには大きな巨大な扉が聳えていた。
「…………」
大きな扉を開ける。
大聖堂は朽ちて尚、その威厳を保っていた。
静謐な空気に、澱んだ水の臭いが混じっている。
地下へ地下へと潜ってきた。
ここは、地の底。
月の光さえ差し込まない、真の闇が支配する場所。
「………」
ゆっくりと聖堂内に歩みを進める。
背の高い燭台に火が灯っているのに、明るさはまるで感じなかった。
光と闇の濃さを一層際立たせているだけ。
カツン、カツン……。
靴の踵が床に当たって、硬い音を響かせる。
立派な聖堂……。
上にあった聖堂よりもずっと広い。
どうしてこんな大きな建物が、地中深くにあるんだろう。
奥には階段があり、その上には祭壇が設えていた。
堂内を確かめながら歩いていた私は、そこに横たわるものを見て息を呑む。
「お母さん!!」
壇上には、まるで悪魔に捧げられる生け贄のように、お母さんが横たえられていた。
顔色は悪い。
まさか。
「おかあさーー!」
駆け寄ろうとして、私は凍りついた。
祭壇の裏からーー『私』が顔を出す。
#一次創作
ruruha
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血や泥でベタベタになった前髪の隙間から、赤い目で見下ろしていた。
「あ……」
「レナ……」
“影”は、ぬるりと祭壇の奥から這い出してくる。
「レナ……」
四つん這いのまま、のたりのたりと階段を下りてきた。
全身に緊張が走ったものの、比較的落ち着いてそれを迎えいれる。
出会う覚悟は、もうずっと前にできていた。
ぺたり、ぺたり。
私たちの距離が、一歩ずつ近づいていく。
「レナ……」
不明瞭な声で笑いながら、影はさらに一歩近づいた。
右手に下げた銀の銃を握り直す。
大丈夫、私、やれる。
だってもう、どこにも逃げ場はないじゃない。
「ねえ……」
私の声に影が動きを止め、静かに対峙した。
「血って美味しい?」
影は、クキッと首を横に曲げた。
まるで不思議がるように。
その様子を見ながら呟く。
「私も……血が欲しくなるのかな……」
考えたくない、そんなこと。
でも、きっと考えなくちゃいけない。
リズが死んだ。マシューが死んだ。
アーウィンはヒトじゃなかった。
どんなに小さい脳みそだって振り絞って、私は私なりの道を探そう。
例えそれが正しくなかったとしても。
「これでおしまい」
宣言した。
「私を追いかけ回すのも、あなたに怯えるのも」
静かに銃を持ち上げて構える。
「これでおしまい」
そして、私かあなたのどちらかが終わる。
ずっと、悪夢だけを終わらせる方法を探していた。
きっとあると思っていた。
いつでも誰かが助けてくれたから。
いつでも私は何不自由なく生きてきたから。
この悪夢だって、いつかは優しい誰かとか時の流れとか、そういうものが終わらせてくれるのだと信じていた……。
今思えば、それはおとぎ話。
王子様がお姫様を助けて終わる、美しく整えられた物語。
揺れる銃口の向こう、影が不満気に唸った。
アーウィンは屈服させろと言ったものの、私にはその方法がわからなかった。
でも、そんなものはどうだっていいの。
分からないなら、違う道を選ぶだけ。
正しい方法なんて分からなくても、止まるわけにはいかない。
「私はあなたを野放しにできない。あなたを置いては終われない」
そう。それだけ分かっていれば、充分だ。
例え、私も一緒に終わることになったとしても。
「絶対に一人では逝かない!」
顔を上げ叫んだ。
「来なさい!終わらせてあげる!!」
「レナ!!」
影が躍りかかるように立ち上がり、迷わず銃の引き金を引く。
「ギャアッ!」
影が体をひねってのけぞった。
しまった!
弾は影の肩をかすめただけだ。
弾道が大きく逸れてしまう。
反動があることは分かっていたのに、私の力じゃそう簡単に制御できない。
急いで銃を構え直そうとした。
その隙にタックルして足を踏みつかれ、そのまま後ろに押し倒される。
その拍子に銃が手から跳ね飛んだ。
銀色の銃は石床の上を回転しながら、滑っていく。
いけない!
素早く体を起こして銃を拾おうとした時。
視界の端で、影の舌がズルッと伸びたのが見える。
「!」
私にしては奇跡的な反応で、その舌を掴んだ。
「くっ……」
くねる舌は今にも手から逃れそうだ。
ウナギを掴もうとする人と同じく滑稽な動きを続けながら、必死に目で銃を探した。
あった、あそこ!手を伸ばせば、きっと届く!
でも銃を拾おうとすると、それよりこの舌が私を襲うだろう。
そうしたら負ける!
負けたら、死より恐ろしい現実が待っている。
どうしよう。どうしよう!
その時、銃の手前に立つ棒が見えた。
これなら取れる!
そう思った瞬間、ほとんど反射的にそれをかなぐり寄せる。
「ギャッ!」
影が私の上から飛び退いた。
必死に掴んだそれは長い燭台で、その熱い蝋が彼女の皮膚を焼いたのだ。
けれど、蝋の熱さなど微々たるもの。
影が孕んだのは、ほんの一瞬だった。
すぐに跳ね起きて、カッと口を開ける。
だめ、防ぎきれない!!
そう思った瞬間、舌が矢のように飛んできた。
思わず目を瞑って、手にしていた燭台を突き出す。
そこからは不思議な時間だった。
コメント
1件
いや〜、今回もすごかった……!レナがついに“影”と対峙して、覚悟決めて立ち向かうシーン、めちゃくちゃ胸に来たよ。今まで逃げたり助けられたりしてきたのが、全部自分で終わらせるって決めたんだなって思うと、成長がしみじみ感じられる。燭台で応戦するところ、めっちゃハラハラしたし、相変わらず戦闘描写がリアルで好き。そしてアーウィンの「フレデリック……」の一言、ヤバすぎる。何か知ってるのか、それとも……続きが気になりすぎる!次も楽しみにしてる🔥