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月影
回想|未選択を渡そうとした夜
それは、
業務ログには残らない時間だった。
月影真佐男は、
帰路の途中で
立ち止まった。
理由は、
ない。
ただ、
いつもより
足が止まった。
以前、
未選択を
渡そうとしたことがある。
そのときは、
できなかった。
相手が、
困っていたからだ。
選択肢を
提示すれば、
楽になる。
最適を
示せば、
安心する。
それを、
月影は
知っている。
だから、
渡さなかった。
「……選ばない
というのは、
放り出すことと
同じなのでは」
その問いが、
胸の奥に
残った。
月影は、
人の困り顔を
避けてきた。
業務として。
善意として。
だが、
その夜、
別の記憶が
浮かんだ。
ある契約者が、
最適を
受け取ったあと、
小さく言った言葉。
「……これで、
考えなくて
済みますね」
その声は、
安堵していた。
同時に、
どこか
遠かった。
未選択を
渡すことは、
冷たいのか。
それとも、
戻すことなのか。
月影には、
答えがなかった。
その夜は、
渡さなかった。
現在
最適を選ばない
次の業務。
契約者は、
明確な選択を
求めていた。
「どれが、
一番いいですか?」
月影は、
間を置いた。
これは、
初めてだった。
最適化ロジックは、
即座に
答えを出している。
提示すれば、
評価は上がる。
安全で、
正しい。
月影は、
それを
使わなかった。
「……それぞれ、
良さがあります」
声は、
落ち着いていた。
嘘ではない。
ただ、
省略しなかった。
相手は、
戸惑った。
「えっと……
じゃあ、
どれを?」
月影は、
一呼吸置いた。
そして、
こう言った。
「今は、
決めなくても
大丈夫です」
最適は、
提示されなかった。
未選択が、
机の上に
置かれた。
それだけだ。
内側の変化
月影は、
自分の中で
何かが
切り替わったことを
感じていた。
怖さは、
あった。
評価が、
下がる。
注意が、
来る。
削除か、
更新か。
そのどれかだ。
それでも、
月影は
初めて思った。
「……これは、
私の
業務ではない
選択だ」
そして、
続けて。
「だからこそ、
今
やる必要がある」
余白
この瞬間、
未選択は
渡されたわけではない
しかし
置かれた
最適は
否定されていない
ただ
使われなかった
本部は、
まだ
何も知らない。
ログにも、
異常は出ていない。
だが、
選ばなかった事実は、
もう戻らない。