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第11話【アレス編】魔王様に隠し子疑惑!?鼻水まみれの魔王と、トイレ掃除を命じられた勇者
「うふふ、アレスちゃん。ちょっといいかしら?」
魔王軍の錬金術師ベラドンナが、若草色の巻き毛をなびかせて現れた。白衣を羽織り、妖艶な微笑みを浮かべながら、禍々しく沸騰する液体をかき混ぜている。
彼女はアレスの〝人間としての脆弱な肉体〟を、魔界の薬学の力で無理やり強靭なものに作り替えようと考えていた。
「この特製薬〝超・魔界プロテインZ〟を飲めば、あなたの細胞は活性化し、全盛期……いえ、それを超える活力を手に入れられるわ」
「全盛期!いい響きだ!最近、ちょっと階段の上り下りで息が切れてたんだよね。いただきます、ベラドンナさん!」
アレスは、スライムのようにどろりとした虹色の液体を一気に飲み干した。
『……あーあ、飲んじゃった』
腰の魔剣サタンブレイドが呆れる暇もなく、飲んだ瞬間、アレスの体が激しく発光した。
「おおおっ!力が……力がみなぎって……あ、あれ?なんだか、視界がどんどん高くなって……。……いや、低くなってる!?服が……服がブカブカだぁぁぁ!」
光が収まった後、そこにはブカブカの闇のマントに埋もれた、3歳児ほどのぷにぷにのアレスがポツンと座っていた。
「あら、あらあら!若返り(アンチエイジング)が効きすぎちゃったみたい。うふふ、計算ミスね」
そこに魔王が通りかかった。
「ベラドンナ、例の強化薬の進捗は……。…………お前、それは何だ。なぜ私の城に、不法侵入した幼児がいる」
「魔王様、僕でちゅ!アレスでちゅ!薬を飲んだら、全盛期どころか〝生命の夜明け(3歳)〟まで戻っちゃいまちた!」
『その喋り方やめて。鳥肌が立つのよ、剣だけど』
アレスは必死に魔王に歩み寄ろうとしたが、長すぎるマントの裾を踏んづけて、顔面から派手に転んだ。
「ううっ……。鼻の奥がツーとする……。あ、あれ?涙が……。頭脳は大人なのに、赤ちゃんの体が勝手に泣き声を要求してきまちゅ……!ふぇ、ふぇええん!」
「……泣くな。お前、その顔と声で泣かれると、私が虐待しているように見えるではないか。止めろ」
魔王の困惑をよそに、アレスの〝幼児の体〟は本能を爆発させた。
「魔王さまぁ、おなかすいたでちゅ!その食べてるその高級な羊羹を、離乳食にしてよこすでちゅ!」
「断る。なぜ私が、自称勇者の幼児化に付き合って、羊羹を離乳食にせねばならんのだ」
「嫌だぁぁ!抱っこぉぉ!魔王様のその広い胸板で、高い高いしてくれないと、魔王城の結界が壊れるくらい大声で泣き叫んでやるでちゅー!!」
アレスは魔王の膝にしがみつき、高級な魔王のローブで鼻水を拭った。
『幼児の立場を最大限に悪用してるわね……』
「……ベラドンナ。今すぐ、一秒以内にこいつを元に戻せ」
「困ったわ、中和剤が完成するまであと三時間はかかるわ」
「…………(絶句)」
その後、魔王は地獄の三時間を過ごすことになった。
玉座に座る魔王が、無表情のまま、膝の上で暴れる幼児に「よしよし、お前は闇の勇者だ、強いぞー」と棒読みで声をかけながら、ガラガラを振らされている。
「あはは!魔王しゃま、もっと激しく振るでちゅ!」
『この光景、魔界の歴史書に刻んでおきたいわね……』
そこへ、何も知らない魔族の将軍たちが会議のために乱入してきた。
彼らが見たのは、頬を赤らめて魔王の頭を掴んで笑う幼児と、その幼児に
「こら、涎(よだれ)を垂らすなと言っているだろう!」
と、優しく(?)ハンカチで口元を拭ってやる魔王の姿だった。
「……失礼しました。魔王様に隠し子がいたとは……」
「しかも、どことなく勇者アレスに似ている……。禁断の愛の形か……」
「待て!違う!貴公ら、戻れ!誤解だ!」
『否定すればするほど怪しく聞こえるのが不思議よね』
三時間後。中和剤を飲まされたアレスは、激しい煙と共に元の青年の姿へと戻った。
「はっ!……戻った!戻りましたよ魔王様!いやぁ、一時はどうなることかと――」
アレスが笑顔で報告しようとしたが、目の前の魔王は、かつてないほど冷徹な、絶対零度の視線を放っていた。
魔王の頭にはアレスの涎がこびりつき、ローブは鼻水でカピカピになっている。
「…………お前」
「は、はい。なんでしょうか、魔王様」
「お前は明日から一ヶ月、魔王城の最下層にある〝魔獣のトイレ掃除〟を命ずる。……素手でだ」
「あれは生理現象です!赤ちゃんのフリをしたかったわけじゃ――!」
『……ご愁傷様』
翌日から、魔王城にはトイレ掃除をしながら、時折「…ばぶぅ…ばぶぅ……」と呟いて震える闇の勇者の姿が見られるようになったという。