テラーノベル
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第154話:主の限界言い訳(突然変異と過剰同化作用)
ドバイの石油王がカボチャ1個に対して電撃的に提示した、大気圏を突き抜けるような「10億円」という超現実的な数字。
その衝撃が冷めやらぬ中、限界集落の畑を取り囲むパニックは、さらなる狂気的な次元へと突入していた。
ジンバルに固定された俺のiPhone miniの画面では、一千万人を優に超えた世界中のリスナーたちが、処理落ち寸前の超高速スピードでチャット欄を爆破し続けている。
だが、オイルマネーの独走を、世界の他のトップVIPたちが黙って見過ごすはずがなかった。
ピコーン! と、今度はスイスの最高級プライベートバンクのロゴを背負った、あの冷徹な銀行家のアイコンがチャット欄に降臨した。
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)×120連発』
画面がスイスフランを模した純金インゴットのエフェクトで埋め尽くされる中、銀行家は極めて合理的でありながらも、完全に理性を失ったタイピングで英文を叩き込んできた。
『”Wait, my friend! That golden pumpkin is a perfect stress-reliever for the global economy! The Swiss central vault will secure its ownership! I bid 1,200,000,000 YEN!“(待て、我が友よ! その黄金カボチャは世界経済のストレスを無に帰す究極の資産だ! スイスの秘密金庫でその所有権を管理すべきだ! 私は【12億円】を提示する!)』
「じゅ、じゅうに……12億……!? 上がったぁぁぁぁっ!?」
小春ちゃんが、自分の髪をかきむしりながら、まるでこの世の終わりを目撃したかのような悲鳴を上げた。
しかし、戦火はそれだけでは収まらない。間髪入れずに、今度は世界の歌姫にしてアカデミー賞女優、シャーロットのアイコンが極彩色のハリウッドエフェクトと共に乱舞した。
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)×150連発』
『”Oh, come on, boys! That magical pumpkin is the perfect coach for my next fantasy movie! I’ll buy it for 1,500,000,000 YEN! Master, let me sign the contract right now!“(ちょっと、男の子たち大人げないわよ! その魔法のカボチャは私の次回作のファンタジー映画の馬車にピッタリよ! 私は【15億円】で買うわ! 主、今すぐ私と契約書を交わしなさい!)』
中東のオイルマネー、スイスの巨大資本、そしてハリウッドのエンタメ帝王。
世界を動かす三巨大勢力が、十勝の過疎地にある畑の片隅で、ただの巨大なカボチャを巡ってリアルタイムで札束の殴り合い(オークション)を繰り広げている。
その経済規模の暴力の前に、リスナーたちのチャット欄は完全に思考を放棄していた。
『カボチャを巡る第三次世界大戦が始まってて草wwww』
『15億って何!? カボチャ1個で中規模のビルが建つぞww』
『石油王がさらに上を提示しようと裏で銀行口座をアクティベートしてるぞ!!』
『村長! しっかりして! 息して村長!!』
「あ、あわ……あわわわ……ワシはもう、この限界集落の土地神様に、何てお詫びしたらいいか分からん……っ!」
村長は、あまりの金額のインフレに脳の許容量が限界を突破し、白目を剥いたままおばあちゃん達に両脇を抱えられて、地面にズルズルと崩れ落ちていた。
おばあちゃん達も、数珠を握りしめたまま「ありがたや……ありがたや……」と涙をボロボロと流し、巨大な黄金カボチャに向かって五体投地のように拝み倒している。
畑全体が、札束の嵐と信仰心のカンストによって、完全に現実世界のルールがバグったカオス空間と化していた。
だが。
そんな世界中が発狂し、村人が奇跡に号泣し、VIPたちがカネの力で殴り合っている狂騒のド真ん中で。
俺は一人、静かに軽トラックの荷台の隅に腰掛け、おもむろに保冷バッグから『予備の』タッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、この事態をある程度予見して昨晩からストイックに仕込んでおいた『大豆ミートと(村の普通の)カボチャの風味煮』である。
「……よし。前線陣地における国際的資本の過剰流入、および住民の精神的パニックを確認。これより指揮官は、これからの長期戦(出荷作業)に向け、己の代謝を最適化するための定時エネルギー補給を開始する」
俺は、黄金に輝く馬車カボチャの圧倒的な光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。カボチャのベータカロテンと、大豆の植物性タンパク質。秋の防衛戦に必要な栄養素が完璧に満たされていくな)
脳内で、十勝の豊かな大地の恵みが完璧なロジスティクスを形成していたが、俺は需品科としての『どんな国家予算規模の暴走にも動じない鋼のポーカーフェイス』を維持し、淡々と咀嚼を続けた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 画面の向こうでハリウッドとドバイとスイスが15億円の札束で殴り合って、村長さんが泡吹いて倒れてるこの歴史的な大奇跡の瞬間に、なんで一人だけ秋の涼しい風を浴びながら真顔で『カボチャ大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を失い、畑の境界線付近に出番を待って置かれていた、長さ約一メートルの『丸めた黒い防草シート(頑丈な樹脂製ロール仕様)』を両手で大砲のように構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど国際市場のインフレが我が陣地に影響を及ぼそうとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、兵站(エネルギー補給)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなるオカルト現象の前でも己の血糖値を一定に保つ。これが需品科の鉄則だ」
俺は水筒のカップに注いだ熱いほうじ茶で喉を潤すと、二千万人を突破してサーバーを物理的に破壊しかけているカメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、カボチャが神獣の魔法によって黄金に巨大化し、15億円の価値を持つ奇跡が起きたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『ハリウッド女優が15億提示してるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・突然変異と過剰同化作用編ww』
『さあ、この10億円から15億円に跳ね上がったカボチャをどうやって植物生理学的なバグのせいにするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは魔法でも奇跡でもありません。十勝地方の非常に肥沃な土壌環境において、特定のカボチャの周辺で、土壌の窒素・リン酸・カリウムの成分バランスが局地的に極端な不均一(バグ)を起こした結果、その個体がクチクラ層の異常発達を伴う『過剰同化作用』を引き起こしただけの、単なる突然変異(巨大化現象)に過ぎません。黄金に光って見えるのも神聖な輝きではなく、細胞内の水分が過剰同化によって急速に結晶化し、周囲の紫外線と朝陽を効率的に全反射しているという、純粋な植物生理学的なバグです。15億円という金額も、海外の過激な『遺伝子変異植物の回収オークション』における、単なる学術的サンプルのデポジット(預け金)に過ぎません。ええ、すべてはただの『土壌バランスのバグによる突然変異』と『学術サンプルのデポジット着金』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた丸めた特大の黒い防草シートのロールを全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトなクリーンアップ・防草シートスマッシュを見舞った。
中身が詰まった樹脂製のロールが肉体に直撃した、重低音の利いた凄まじい大爆音が、十勝の秋の広大な空へと虚しく響き渡る。
「過剰同化作用で、カボチャからドバイの王宮に飾られるレベルの神聖なオーラが放たれるわけないでしょうが!! 学術サンプルじゃなくて、昨日シロちゃんがここで可愛くお昼寝してくれたから、その最強の豊穣バフがカボチャをお姫様の馬車サイズに変えちゃったんですよ!! 自分の手懐けスキルと、うちの猫が世界一の招き猫だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの防草シートスマッシュ炸裂www(いい音)』
『過剰同化作用(ただのファンタジー馬車カボチャ)』
『学術サンプルのデポジット(世界を揺るがす15億円のロイヤル取引)』
『適応力バグおじさん、ついに中東とハリウッドの札束ビンタまで植物生理学のせいにするww』
『言い訳のスケールが国連の環境委員会レベルで草ww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない植物生理学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの防草シートツッコミに、パニックになっていた村長やおばあちゃん達は「アッハッハ! アキヤ君の屁理屈は今日も世界一じゃのう!」と涙を流して大笑いし、二千万人を超えるチャット欄のリスナーたちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ふふっ、相変わらず言い訳だけは15億以上の価値がある屁理屈な下僕ね)』
俺の膝の上で、シロ様が満足げに神秘的な『オッドアイ』の瞳を細め、ゴロゴロと喉を鳴らして十勝の秋風を浴びている。
キツネ兄弟も、防風林の影から見ていた巨大ヒグマも、黄金の光に包まれながら、これから始まる大がかりな「出荷作戦」を予感して、楽しそうに尾を揺らしていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。学術サンプルの提供によって、村の公金口座がさらに天文学的に潤い、来期以降の防衛予算(冬支度)まで完璧に確保されたなら、ロジスティクスとしては完全勝利だ」
俺は背中の防草シートの衝撃をさすりながら苦笑し、シロ様の純白の頭を撫で、熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、世界中から見守るリスナーたち、そして札束で殴り合う大富豪たちに囲まれた、世界一バグった『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の放つ豊穣の奇跡と、元需品科のブレない限界言い訳。
限界集落の黄金の秋は、さらなる規格外の大爆笑と温かい癒やしを巻き込みながら、地球上で最も贅沢な収穫祭へと、どこまでも力強く突き進んでいくのだった。
ゆうき あきや
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#心理描写重視
コメント
1件
154話お疲れさまです!!いやもう今回も最高にカオスで面白かったです😂💕 国際資本vsハリウッドvsドバイ石油王のカボチャ争奪戦、しかも金額が10億→12億→15億に一気に跳ね上がる展開に私の心臓もバクバクでした!!笑 でもそんな中、一人だけ真顔で「過剰同化作用」とか言い訳しながら玄米かき込む主人公の鋼のメンタルが尊すぎる…!! 小春ちゃんの防草シートスマッシュ炸裂のとこ、想像しただけでお腹痛いですw シロ様の「ミャウ(ふふっ)」もツボでした…✨ 次回も楽しみにしてます!