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アットホームな二階建ての居酒屋で、侑哉と二人、お酒を飲んだ。
1階は、仕事帰りのサラリーマンや大学生たちががやがやと騒がしく飲んでいるが、2階はカップルや落ち着いて話す女子会用の見た目はBar。
観葉植物で区切られた、別府湾を一望できるガラス張りのカウンターに、隣同士で座る。
「ここさ、バイク仲間の師匠の店なんだ。裏にバイクの車庫があってヤバいんだよ!」
その台詞さえ無かったら、日頃女の子をこんなオシャレな所に誘っているモテ男くんかと期待できたのに。
ただのバイクの影響で出会った場所なんだね。
でも料理は居酒屋とは思えないぐらい美味しい。
中津からあげや、臼杵のフグ、関サバのカボスつけやら、地元の有名な名産物が次々運ばれてくるが、ホントに美味しい。
「……美味しいね」
「だろー? ここ、ジュースも美味しいんだって。ほら」
二人でメニューを覗いていたら、優雅なBGMをかき消す足音が階段からしてきた。
「侑哉! 彼女連れて来たんだってな」
ビールとカボスゼリーを持って現れた、いかにも昔ヤンチャでした、って感じのいかついおじさんがこっちにやって来る。
サングラスに顎鬚に、一昔前の少年漫画の主人公みたいな筋肉もりもりのおじさんは、ちょっと怖い。
「ちがうよ。姉さんだよ。福岡からこっちに戻ってきたんだ」
「な~んだよ。お前に似合わん純粋そうな子と一緒と聞いて、サービス持ってきたのによ」
「姉さん、この人が俺のバイクの師匠で、この店の店長。飛鳥(あすか)さんって言うんだ」
ご、ごついのに可愛い名前。名字なのかな?
「初めまして。姉のみなみです。弟が迷惑しかかけていないとおもいますが、よろしくお願いします」
頭を下げると、すぐさま豪快に笑いながら、カボスゼリーを差し出してくれた。
「いいって。いいって。初めてのバイクにドラッグスターを選ぶなんて、若いのにセンスあるじゃねーか」
「今度、一緒に走ってよ!」
「もちろんだ。何十人と集めて、お祝いしてやるよ」
別府と大分を繋ぐ別大国道は、昔、夜になると暴走族が警察と追いかけっこをしてたけど、絶対ここの店長も追いかけられてそう。
侑哉も何回か追いかけれてて、懲りちゃえ。怪我する前に。
とかなんとか、やっぱ私は危なっかしい弟のバイクは、乗るのに反対な気持ちがあるらしい。
「それにしても、お前の姉さんは大人しくて淑やかそうで、お前と全然似てねーな」
飛鳥さんは、侑哉の頭をポンポン叩きながら私と侑哉を交互に見ながらそう言う。
「ひっで。みなみは、あんな風に大人しそうで、優しそうだから馬鹿な男が寄って来るんだぞ」
プリプリと侑哉は怒りながら、私の過去の恋愛を暴露し始める。
――あー。こいつ酔ってるんだろうなぁー。
でも侑哉が知ってるのは高校までだから古傷にもならないから、暴露されても構わない。
大人しそうというか地味というか、真面目というか。
初対面でもそんなに打ち解けて話せないし、
小さいころから活発でおしゃべりな弟の聞き役したり、流されてたから、あまり自分の意見を言ったり話すのは苦手。
それが、大人しそうで、男の一歩後ろを歩いて着いてきそうらしく、
勘違い俺様とか我儘マザコンとかに言い寄られたことは多々ある。
『笑顔が素敵ですね』
だから初めて、穏やかで優しそうなあの人に声をかけられた時は嬉しかった。
――今は思い出したくもないけれど。
「みっなみちゃーん。そろそろ侑哉が眠りそうだよ。タクシー呼ぼうか?」
飛鳥さんが何回か侑哉の顔をぺちぺちするが、にへへと笑うだけで、結構出来あがっている。
――3杯目のビールで、この状態なら裕哉はかなりお酒が弱いのかもしれない。
「すいません。タクシーお願いします」
侑哉にお水を飲ませながら苦笑しつつお願いすると、すぐに一階に下りて行く。
むにゃむにゃと酔っぱらう侑哉の頬を抓りつつ、晴々しい気持ちがするのは侑哉のおかげ。
元彼を『勘違い俺様とか我儘マザコン』と言ってくれたのは、侑哉。
それまでうじうじ悩んだり、自分が悪いんじゃないかと思いつめたりしていた私の心を、軽くしてくれた。
私が言えないような悪口を、代わりに言ってくれたから。
だから未練なんてない。
私も元彼達も、お互いを知らなかった為の事故みたいなものだ。
「あと十分で着くってよ」
「ありがとうございます」
「福岡から戻ってきたなら職はあるのかい? 困ったらウチは昼間、嫁さんがカフェしてるから頼りな」
そう豪快に笑う飛鳥さんは、こんな私でもそう言ってくれる世話好きの良い人なんだろう。
侑哉が慕うのも分かる気がする。
「ありがとうございます。でももう決まってるんです。市役所から連絡来たので、直ぐに決めちゃいました」
県から私にきた連絡は『保育士資格を持った方へのアンケート』
資格を持っている方が、どれぐらい県から離れていて、どれぐらいちがう職種に就職したのか。
保育士が足りてない大分県は、もし資格を持っていて無駄にしているなら、と呼びかけを実地した。
それが確か数年前だったんだけど、地元に戻ることになり、市役所でその話をしたらすぐに係の人が来て、色々と紹介してくれた。
まずは非常勤からだけど、就職活動の手間が省けて助かった。
「神様からの、私への贈り物かと思いました」
「贈り物?」
「保育士の仕事は、私の欠陥部分を補ってくれるものだから」
――私の女としての欠落部分。
笑ってしまうような、未だにフワフワして掴めないような、現実。
苦しかったけど、代わりに吐きだしてくれたのは侑哉だったから。
「侑哉は単純。みなみちゃんは複雑、だな」
そう言われて、どう返答して良いのか分からず、笑って誤魔化してしまう。
すぐ笑って誤魔化すのも自分の嫌な部分だけど、侑哉は単純ではないと思う。
周りを和ませようと頑張ってくれている。
私は目の前の自分の悩みばかりで、私の方が単純かもしれない。
別府湾から見えるネオンは、海に映って綺麗だった。
――ひとつだけ、神様に見放されたしまった私の、部分。
けれど、侑哉が居てくれる。
泣いたら心配してくれる。
だから、乗り越えよう。
気持ちを切り替えよう。
そう祈るしか出来なかった。
でも現実は意地悪だ。神様のせいで、意地悪だ。