新たな仲間と旅を初めて数日後。アランたちは、地図にすら載っていない小さな村にたどり着いた。木々に囲まれたその村は、まるで誰かに忘れられたかのように静かだった。
「人の気配が……ない?」
フィオナが辺りを見回しながら言う。
村は不自然なほど整っていた。洗濯物が干されたまま、食事が残された食卓――まるで、みんなが一斉に消えたかのようだった。
「……なにかいる」
カイルが剣に手をかけた、その時だった。
カリ……カリ……
背後の小屋から、爪で木を引っかくような音がした。振り返ったアランの目に映ったのは――
顔が影で塗りつぶされた人間のような“何か”だった。
そいつはぬるりと立ち上がり、ぐにゃりと首を傾けながら口を開いた。
「……たすけて……たすけてって……いったのに……」
次の瞬間、影の腕がアランに伸びかける――が、カイルの剣がその腕を断ち切った。
「後ろへ!アラン!」
影は一声も上げず、闇に溶けるように消えた。
「今の……人だったのか?」
アランの手が震える。
「わからない。でも“影病”と関係あるのは間違いないわ」
フィオナの目が鋭く光った。
アランは黙って村の広場を見渡した。中心に、黒く焦げたような円があった。その中から、またあの“声”が聞こえた気がした。
「この世界を“終わらせる”のは……君だよ、アラン」
アランは、意味が分からなくも、ゾクリと背筋を冷やす気配に気づきながら拳を握りしめた。
闇は、すぐそこにあった。
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