「もう一度……“あの時”に戻ろうよ」
その言葉がアランの耳に響き渡った。どこからともなく聞こえる声。言葉はただの囁きのように、しかし確実にアランの心に爪を立てた。
「何だ、今のは…?」
アランは思わず振り返る。だが、周囲には誰もいない。静寂が支配する荒野の中、ただ風の音だけが耳に届く。
フィオナとカイルも警戒を強めている様子だった。
「アラン、気をつけて…これはただの村じゃない、何かが隠れてる」
フィオナが低い声で言った。
「影病」と呼ばれるこの村の異常。目に見える人間の姿がどこにもない。代わりに、村のあちこちに「何か」が潜んでいることを感じ取ることができる。それは、影のような存在で、しばしばアランたちをじっと見つめている気配を感じる。
「ここには、闇がある」と、フィオナが続ける。
「だが、影病の正体はまだ不明だ。でも、何か大きな力が村を支配しているのは確かよ」
その時、またその声がアランに届く。
「もう一度……“あの時”に戻ろうよ」
アランは振り返り、声のした方をじっと見つめた。だが、そこに立っていたのは――ただの影だけだった。
突然、目の前の木々が揺れ、周囲の空気が重くなる。
「誰か、いるのか?」
カイルが剣を構える。
だが、答えは返ってこなかった。代わりに、再びその声が響く。
「君が選ぶんだよ……アラン」
その瞬間、アランの視界が一瞬ぼやけ、全てが逆さまになるような感覚に襲われた。足元がふわふわと浮くような不安定さ。何かが、アランの心を引き寄せている。
そして、目を開けると――そこは、村の中心だった。
何かが変わった。周囲の風景が歪み、村が異次元のような存在に変わってしまったかのように感じる。まるで別の世界に来てしまったかのようだ。
「何だ、この感じは?」
フィオナが言った。
「これは……影の力だ。私たち、今完全に取り込まれてしまった」
その時、村の中央にある広場から、何かが浮かび上がった。
黒い影の中に、無数の目が光る。それは、まるで生き物のように蠢き、次々とアランたちに迫ってきた。
「これが、この村の真の姿か……」
アランは震える手で剣を抜きながら、冷や汗をかいていた。だが、背後でフィオナが叫んだ。
「アラン、後ろ!」
振り返る暇もなく、巨大な影が一気にアランに覆いかぶさろうとした。その瞬間――
――アランは、あの声を再び聞いた。
「選ばなければならない。今、君が決めるんだ」
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