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「えー、今日はですね、なんと、座敷童の出る宿、というのに来ています」
私はyoutuberをやっている……正確にいうとyoutuberもどき、といったところか。まだ登録者数が足りず、収益化できずにいる。でも、最近いい感じで登録者が伸びている。この調子、今が肝心な時だ。
私のチャンネルはオカルト系の動画を中心としている。有名な話なんかをまとめていたりしたんだけど、それだとやっぱり埋没してしまう。そういうわけで、最近は現場に取材にいく、なんてこともやっている。
これが受けたようで、少しずつ登録者が増えてきた。自分でいっちゃうけれど、私はそれなりにかわいい。世の中はやっぱりかわいい女の子に弱いのだ。
「座敷童の出る宿というのは実は全国にあるのですが、こちらの宿はまだあまり知られていないそうで、私も視聴者さんから教えてもらいました! で、今日はですね、宿の御主人夫婦からお話をお聞きしたいと思います」
宿の名前は「清明荘」。いかにも、って感じの名前だ。ここは家族経営の旅館で、歴史は古いのだが数年前に宿の名前を変えたのだそうだ。
「ではご主人、よろしくお願いします。……まず、座敷童が、出るというのは本当なんですか?」
「お客さんがね、そういうことを言いはじめたんだけどね。わしらは、あれは座敷童じゃなくて、息子やと思っとります」
「息子さん? 息子さんは亡くなられたんですか?」
「はい。4年前、16歳のときに、事故で……。それからなんですよ、お客さんが座敷童にあった、という話をするようになったのは」
「事故……、そうだったんですか」
なんだか少し暗い話になってきた。でも、こういう話はオカルト好きにとっては大好物だ。チャンネル登録者も増えるし、私としてはこの雰囲気はありがたい。
「私はね、その話を聞いてからずっと、息子さんだと思ってるんですよ」
旅館のご主人の代わりに奥さんが語り出した。
「あの子が帰ってきてくれたってね。私、そう思っているんです。だから、私あの子のためにはなんでもしてあげようと思っているんです」
「あ~、いい話ですね~」
うーん、いい話なんだけど、ちょっとしんみりしすぎたな。暗くなりすぎても困るから、話題を変えるか。
「えーとですね、この清明荘には座敷童子が出るっていう話なんですが、何か特別な力を持っているんですか?」
「う~ん……。まあ泊まったお客さんが金縛りにあったり、とかですかね。あとは物が勝手に物が動いていたりとか」
「そうなんですか~。座敷童の姿を見た人とかはいるんですか?」
「いいえ、いないはずです。私は見たことがないですよ」
「なるほど……ではさっそく、お部屋の方に案内してもらいましょう」
ということで、取材を終えて座敷童がよく出る、という部屋に案内してもらった。もっとも、座敷童が出るのは夜だけらしいので、今のうちに準備したり、休憩したりしておく。今回は寝ている間中カメラをまわしておくつもりだ。何か面白いものでも映るといいのだけど、まあなんかネタを仕込んでおく必要はあるかなぁ。
一通り準備が終わったので、ちょっと休憩。宿の温泉に入ることにした。行楽のシーズンではないせいか、他にお客の姿は見えなかった。なんだか、この宿に泊まっているのは私だけなんじゃないかって気分になる。
温泉でちょっと熱めのお湯にじっくりと浸かると、体がほぐれていくのがわかる。やっぱり温泉っていいな~。けれど温泉につかっている最中、何度か視線を感じてゾクッとした。いや、結局誰もいなかったし、気のせいだとは思うけれど……。なんかやな感じ。ちょっと神経質になっているのかな?
部屋に戻り、後で編集に使うのに必要な動画を撮りながら夜を待った。宿はあいかわらずしんとして、他の客の気配がない。ちょっと怖い。
夜になり、私は布団に入った。カメラはちゃんと起動しているのを確認。
「さあそれではですね、座敷童の出る部屋で夜を明かしたいと思います。いやあ、何かあるかなぁ。動画的には何かあってほしいんですけどね。私的には何も出なくてもいいんですけど。いや、本当に」
と、いうようなことを冗談めかして言いながらカメラを回しておく。このくらいふざけながらやらないと、オカルトの現場なんてやってられない。
私は布団に入り、電気はつけたままで、目を閉じた。
なかなか寝付けない。……なんでだろう? 疲れているはずなのにな……。少し緊張しているせいだろうか? そんなことを思っているうちに眠りに落ちたようだ。ところが深夜に目が覚めた。こんな時間に起きちゃうなんて珍しいな、と思っていると、ギシッ、って音がした。私は思わず身をこわばらせる。
ギシッ、ギシッ……
廊下の方から、床を踏みしめる音が聞こえる。誰かが歩いている? でも、こんな真夜中に? こういうものは正体が分らない方が怖い。それに動画のネタにもなるかも。そんなことを考えながら私は布団から出てようとした……が、動かない! 金縛り、というやつだろうか。体が、指先すら動かない。
さらに奇妙なことに気付いた。今は体が動かず、目すら開けられない。それにもかかわらず、なぜか私は周りの様子がわかった。こう、幽体離脱して、自分を見下ろしている感じなのだ。
「あ、あれ?」
そして自分の体の異変に気付いた。なぜか私は下着姿で寝ていた。
寝るときはちゃんと寝巻を着ていた、はずなのに。それに、自分の体が何か半透明なものにのしかかられているように見える。いったいこれは何? ギシッ……ギシッ……
体が自分の意志とは無関係に反対を向かされ、ブラジャーがはぎ取られた。
続いてパンツも。よく見るとあちこちに赤い手形がついている。見えない何かが私の下着を脱がせているのだ! 私は恐怖のあまり、叫び声をあげそうになった。しかし、声は出ない。
そうこうするうちに、私の体は男の手によって組み敷かれていた。その体の持ち主であるはずの私は、なぜかそれを他人事のように見ているしかなかった。見えない手が私の体を撫でまわす。その手つきはねちっこく、気持ち悪い。けれど私はその行為に何も言うことができないのだ……。
なんだか体が熱いような、むず痒いような感じがする。でも、金縛りのせいで私はまったく動けない。いったい今、自分の体で何が起きているのだろう? 赤い手形がだんだん下の方に降りてきた。つまり見えない手は徐々に下のほうに伸びているのである。やがてその手は、私の股間の奥へと沈んでいった、見えないけれど、なぜかそう感じたのだ。
さらにその手は私の両足を開かせ、股間をむき出しにした。そして何かが私の股間に入ってくる。やがて私の体が小刻みに揺れ始めた。私は、自分の体が見えない男に犯されているのを見ているしかなかった。やがて私の体はビクンとなった。そして、自分がイッたことを悟ったのである。
ふと気づくと、宿の奥さんが襖を開けて立っていた。その顔はなぜかニコニコ笑っている。そして、こういった。
「息子も今年で20歳ですから、こういう楽しみも知らないとねぇ」
その言葉を聞いて私は、自分が死んだ息子の筆おろしに利用されていたことを知った。もしかしたら、私に情報をくれた視聴者というのも……。(終り)